第3話 移動

 周囲の景色が、凄まじい速度で流れていく。

 断続的に響きわたる地響きが、その速度の源だ。


「意外と乗り心地がいいな。巨人の肩って」


 俺とアルリス、スカイの三人は合体によって巨人化した俺の肩に乗っていた。

 そこに専用の荷台を取り付けて、移動しているのだ。

 ちなみに今の巨人のスピードは亜音速である。

 これは合体している数が少ないのと、複数の加速スキルを使っていないことに起因している。

 『移動速度十倍』なんか、消費が重すぎて最大一分しか励起できないものなぁ。


「もっと揺れると思ってました! 意外と乗り心地がいいですね!」

「はい。この荷車はオーマ様が?」

「そうだな。俺も手伝ったけど、特注だ。グラン魔鋼の人たちと、リヒトケイオンの人たちが作ってくれた。これだけで一千万ガドぐらいするらしいぞ」


 素材は自分でかき集めたので、実際にはそこまでかかっていないが。

 この巨人の肩に乗せる方式の荷台は、かなりの試行錯誤の産物だった。


「サスペンションと揺れ防止の付与魔術によって、ほとんど揺れない。さらに広めに空間を取りつつ頑丈さも追及。この荷台は別途付属の車輪を取り付ければ、荷車にもなる優れモノだ」

「はえー」

「素晴らしいですね」

「そうだろ、そうだろ?」


 まだまだ語れるぞ。


「しかもな、この荷車には……「本体、通信が入っているぞ」

「お、早速か」


 そう、この荷車には通信機能が備わっているのだ。

 分体たち一グループごとに一つ配布した、距離制限広めの通信機能付きトランシーバー。

 ソレをこの荷台に設置した受信装置が、各グループの通信を受信してくれるのだ。


「おう、分体。調子はどうだ?」

「ああ、本体。ちょっと今ジャングルジムになっているところだ」


 チョットイマジャングルジムニ、ナッテイルトコロ?


 なんて?


「なんて?」

「うん? あのジャングルジムだよ。本体も子供の頃遊んだだろ? 鉄の棒を立方体に組み合わせているあの」

「それはわかる。けど、ジャングルジムに『なる』ってどういうこと?」

「ああ、そこからか。説明するぜ」


 彼らは拠点となる衛星都市に先行してもらっていた。

 そこでも毎度のように細々とした雑用を引き受けて、市民からの好感度を上げていた。

 

 そん中で子供が迷子になっている場面に遭遇。

 泣きじゃくる子供をなんとか泣き止ませることができたが、今度は勝手に母親を探しに行こうとしてしまう。

 他の分体が母親を探しているので、その場に止まっていて欲しい分体。

 そこで彼は閃いた。

 俺自身がジャングルジムになればいいのだと!


「ちょっと待てい!」


 思考が飛びすぎとる!

 もっと段階を踏め!

 いきなり遊具になるな!


「いやそれしか思いつかなかったんだよ」

「それならしょうがないか……?」


 しょうがないということにしておこう。


「そしたら見かけた他の子供達も参戦してきてな、俺自身が一つの遊具となったんだ。子供達にも大盛況でさあ」

「そりゃ珍しいだろ、喋る遊具なんて」

「そもそも公園とかに遊具ってないですからね。この世界」


 スカイがそう補足してくれる。

 隙間産業ということか。


「そしたら遊んだ子供達の口コミから爆発的に広まってさ、この衛星都市で大流行したんだ。だから俺も定期的にジャングルジムになっているってわけ」

「そうか……」

「あの……、どうやってジャングルジムになったのかについては聞かないんですか?」

「それに関しては、体をスライムにして体液精密操作でなんとかなるかなって」

「そうですか……」


 なるかなぁ……、とスカイは呟いていた。

 なるんだろうなぁ、と俺は思っていた。


「そう言えば俺がもうすぐ到着するっていうのは伝えてあるか?」

「おう、移動方法を含めてバッチリ周知してあるぜ。ちなみに出迎えもあるぜ」

「出迎えもあるのか」

「だから安心してくれて大丈夫だ」


 いきなり巨人が迫ってきたら怖いからな。

 そこら辺は丁寧にやらなくてはいけない。

 

「お、もうじき到着だ」

「都市が見えて来ましたね!」

「衛星都市ハルデルですね」


 


 都市の入り口が子供たちに染まっていた。

 それら全てが生物だった。

 それら全てが遊具だった。

 たった一個の意思によって完璧に統率される、完全なる遊具。


「冗談、だろ……!」


 異形、異常、異様、そんな言葉たちしか当てはまらない、恐るべき軍勢だった。

 一方は階段で、一方は滑らかな斜面になっているもの。

 中空に支えられた鉄の棒から、尻を載せられる程度の足場がぶら下がっているもの。

 板の両端に子供を乗せて、上下に動くもの。


 そしてそれら全てが遊具で、ひどく賑やかだった。

 数多の子供たちを乗せて、動いている。

 子供達は皆、笑顔だ。

 楽しげに賑やかに、遊んでいる。


 滑り台、ブランコ、シーソー。

 それらに肉体を変形させた化け物どもは、一様に手を振っている。

 こんな化け物共が、一体どんな力によって。

 

 どう考えても俺の力です。本当にありがとうございました。


「わ……」

「「わ?」」

「ワクワク百鬼夜行すなー!!」


 

 

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