第2話 生産活動:少女たちへのプレゼント

  俺たちがたどり着いたのは、都市を囲う壁の外にある、魔術実験場の一つだった。

 特撮で使われるような採石場めいた様子の実験場の一つは、今俺の働いている鍛冶ギルドである『グラン魔工』と『学園都市リヒトケイオン中央都市支部』の共同実験が行われている。


「お邪魔してもよかったんですか?」

「大丈夫さ。何せオーマの本体とその仲間だろう? 信頼に足らないなんてことはないよ」

「ありがとうございます。教授」


 この人は『リヒトケイオン』において、俺の指導教官の一人である教授だ。

 プレイヤーネームがそのまま教授なのだ。

 起伏に富んだ体をローブで包み込んだ、紫色の髪の女性はふふん、と自慢げに言う。


「オーマ君たちは、優秀だよ。みんな学習意欲が高い。おかげでこの実験を行うにまで至った」

「発案してくださったのは教授でしょう? ありがとうございます」


 もしこの実験が成功すれば、俺の生産技術は更なる高みへと到達することができるだろう。

 楽しみだ。


「オーマさん、一体何をやるんですか?」

「ああ。儀式魔術の生産への応用だよ」

「?」

「儀式魔術で付与魔術を行使して、装備品にエンチャントを掛けるんだ」

「え! そんなこと出来るんですか!?」


 通常はできない。

 装備品への術式効果付与の基本は、魔力出力を一定にすることだ。

 ソレを複数人でやろうなど、正気の沙汰ではない。


 理由は二つ。

 

 一つ目は魔力が混ざり合って、反発・対消滅してしまうから。

 攻撃魔術のように一瞬だけ放たれる魔術ならば問題ないが、半永久的に物体に宿る付与魔術だと、少しずつ付与がはがれていってしまうのだ。


 二つ目はそもそも魔力出力を一定にできないから。

 人ひとりが魔力出力を一定にするのさえかなりコツがいるというのに、複数人でやろうなどできるわけがない。先ほど述べた魔力の反発・対消滅によって魔力の出力がブレるのだ。


 この二つの根本的な理由によって、今まで儀式魔術による付与を行おうとする人間はいなかった。

 過去の歴史では、いくつか例があるが大抵ろくでもない結果に終わっている。爆発とかの。


 でも俺ならば、同質の魔力を持ち、それなり以上に優れた魔力操作能力を持っている俺たちならば違う。

 二つの障害を克服できるはずだ。


「というわけで早速実験してみることにしたんだ」

「何人でですか?」

「最初は二人、次は五人。さらには十人とだんだん増やしていって、最終的に百人になった」


 ちなみに二人の時も、五人の時も、十人の時も成功している。 

 問題は最大人数の百人だ。

 何故百人が最大人数であるかというと、『学園都市リヒトケイオン』にて付与魔術を学んでいる分体が百人だからだ。

 彼らならば付与魔術の精密な魔力操作をやってのけるだろう。


「問題は失敗した時にリスクだな。ま、ソレに関しても俺が五百人態勢で結界魔術を張っているから、問題ないと思うんだが」

「おう! オーマの本体じゃねえか! 遅かったな! もっとも集合時間よりは早いがな!」

「お待たせしてすいません、ダッカスさん」

「今回の実験にゃあ、うちの最高級品も使っているからな! 失敗は許されんぞ!」

「マジですか?」

「冗談だ! 『失敗のわだちの先に、成功有り』じゃ! 気にすることはないぞ!」


 それでも失敗したら悪いので買い取るべきか。


「ちなみにあの剣、いくらぐらいします?」

「うーん、あれはワシらの最高級品者からのぉ。魔術耐性が極まりすぎて、魔術付与が効かないとかそう言うレベルの傑作だ。だから値段で言うなら五千万ガドぐらいかのう」

「ご、五千万……」


 地球換算で五十万円。

 阿保みたいな数値だ。

 買い取り……、一応できるな。稼いでいるし。


「まあ、失敗したら買い取りますよ」

「買い取りなんぞせんでいい! ありゃあ、半ば失敗作じゃ! 魔術付与の容量を増やそうとして、色々と金属を合金化させたはいいものの、そのせいで生半可な付与は受け付けなくなっちまった! だから今回の実験に貸し出したというわけじゃ」

「なるほど……。成功したらもらっていいんですよね?」

「当たり前じゃ! お前さんの付与魔術なくして、あれは生き返らん! もっとも成功すればの話じゃがのう!」


 そう言った途端の事だった。

 莫大な気配が生じる。

 ソレに気おされて、全ての人間が押し黙る。

 百人分の付与魔術を叩き込んだ、魔剣。

 ソレは単純に百倍の効果とはならない。

 けれど、少なくともその半分程度の効果はあるはずだ。

 至天職クラスの付与魔術と同格の。


「成功だ! 成功したぞ!!」


 誰かのその声を皮切りに、次第に歓声が広がっていく。

 

「まさか、一発で成功するとはのう! 見事なもんじゃ! オーマ!」


 バンバンと背中を叩いてくるダッカスさん。

 ソレを受け止めながら、俺は魔剣のところへと向かう。


「じゃあちょっと調べてみますね!」

「おう! くれぐれも気を付けるんじゃぞ!」


 さて、今回はアルリスを守ってくれるような装備品にしてほしい、と考えながら作り上げた。

 その結果どうなったのかというと——。



 ■


『テルスファリアの秒針』


 未来視の消費魔力を十分の一に軽減する。

 魔力を消費して、未来を切る。魔力量に応じて、より遠くの未来を切ることができる。いわゆるその瞬間まで攻撃判定の存在しない、置く斬撃。

 

 極めて強力な兵装であり、『成長する武装グロウアップ・ウェポン』でもある。上限は不明。


 ■



「冗談だろ?」


 まさにアルリスのためにあるような武装だ。

 効果の強力さについては言うまでもない。

 しかし、真に驚嘆すべきは『成長する武装グロウアップ・ウェポン』であるという点だ。

 『成長する武装』はその名の通り、成長する。

 戦闘経験によってソレはその性能を向上させていくのだ。

 そしてこの『テルスファリアの秒針』はその上限が不明となっている。


「つまりどこまで成長してくれるか、分かんないってことか……」


 彼女の勇者のジョブにぴったりの剣になりそうだ。


「ふむ……。これは隠しておいた方がいいのう。性能のほとんどは、あの銀髪の嬢ちゃん専用だが、それでも破格過ぎる」

「ですよね。これ、いくらぐらいしますか?」

「ざっと一億ガドだな」

 

 百万円。

 そのレベルの物を俺は作り出せるようになってしまったのか。

 少し自分のチートっぷりに、恐怖心が湧いてくる。

 そしてそれ以上に思ってしまうのだ。


 これからさらに俺は成長していくだろう。

 そんな俺が世界中に散らばって、ありったけの素材をかき集めて、それを鍛冶術で合一し、付与魔術で付与したらどうなるかを。

 一体どんな怪物兵器が生まれてくれるのだろうかと。


「くくくく、楽しみだな」

「悪い顔じゃのう……!」

「そういう、ダッカスさんだって、悪い顔してますよ」

「フハハハハハ、バレたか!」


 そう言ってひとしきり笑った後に。

 剣を鞘にしまって、それをアルリスに向かって差し出す。


「アルリス。これは君の物だ。君を守りたいという俺の思いが結晶化したモノ。どうか役立ててくれ」

「…………はい!」


 満面の笑みを浮かべるアルリス。

 スカイまで何だか嬉しそうだった。


「よーし、それじゃあ、諸々の準備も済んだことだし、『ユニークス』狩りと行きますか!」

「「えいえいオー!!」」


 分体たちの合唱に押されて、俺たちは次なる冒険に出かけるのであった。

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