第四章 暗躍の影
第1話 少女たちの交流
「おや、オーマ君かい!」
「どうかなさいましたか?」
「あの時はありがとうねぇ。おかげで家内も大喜びだったよ!」
「すいません、自分本体なもので、情報共有が上手く行ってないんですよ。詳しく教えていただけますか?」
アルリス、スカイ、俺で道を歩いていると、おじいさんに声を掛けられた。
話を聞くと、屋根を修理して欲しいと思っていたおばあさんの頼みを聞いたのが俺の分体らしい。
「それはそれは。どうでしたか? 出来栄えの方は?」
「素晴らしかったよ! おかげで変な音もしなくなったんだ。彼が言うには、鼠が入り込んでいたらしくてね。それも退治してくれたんだよ!」
「教えていただきありがとうございます。分体の方にも伝えておきます」
「そうしてあげてくれ。とにかく、ありがとう!」
そう言って手を振って去っていくおじいさんに俺も手を振り返してから、再び歩くのを再開する。
すると数分も経たないうちに、また声を掛けられた。
「オーマじゃん! あん時は妹を助けてくれてありがとうな!」
「ああ、君は。迷子の子のお兄さんだね。ケガとかはなかったかい?」
「おう! 俺も妹もぴんぴんしてるぜ、えーと、もしかして本体?」
「そうだよ。本体だよ」
「スッゲー! 本体だ! レアキャラじゃん! 握手してー!」
「いいよー」
そう言って握手を交わす。
「じゃあな! 本体!」
「キミも気を付けるんだよ!」
そう言って去っていく。
更に歩けばまた声を掛けられた。
今度はパン屋の娘さんだ。
「あ、あの、オーマさんですよね!」
「リーナさん。どうかしましたか?」
「ま、また、新作食べに来てくださいね!」
「ええ。もちろん。分体と一緒に伺わせてもらいますよ」
何故か顔を赤らめた三つ編みの少女に手を振ってその場を離れようとした。
その行く手を阻むようにアルリスが俺の腕を少し引っ張った。
「あの女性はお知り合いですか? 本体であるオーマ様と親しかったようですけど?」
「え、あ、いや」
目が笑っていない。
「何か地上げ屋に追い出されそうになっていたところを助けたんだよ。そしたら新作のパンを大量に頂いて。それが美味しいのなんのって。……今度、一緒に食べに行くか?」
「本当ですか! ……喜んでご一緒させていただきます」
「私も行きたいです!」
「じゃあ三人で行こうか」
何とかアルリスの瞳に光を取り戻すことができたようだ。
いや別にアルリスの目からハイライトが失われたところで、何があるってわけでもないんだが、どうしても気になってしまうのだ。
「それにしても、オーマさんのこの都市のみんなから慕われていますよね。さっきからいろんな人に声を掛けられていますし」
「そりゃあ今は、二万人いるからな。それで都市に待機している人間は一万人。となると、通常の一万倍の影響を人に与えるというわけだ」
となってくると振る舞いは大事だ。
一人でもろくでもない振る舞いをすれば、一万人が同類だとみなされる。
そうして失った信頼を取りもどすのは容易ではない、場合によっては不可能だろう。
だから俺たち分体はせっせこ、せっせこ、善行を積み上げているのだ。
おかげでこの都市に大分馴染んできたように思える。
「おーい、オーマ! 新鮮なりんごだ! そっちの別嬪さん達の分もだ。荷運びの礼だ、持ってけもってけ!」
「オーマさん! 猫を見つけてくださりありがとうございました! 今度カフェでもどうですか?」
「オーマのアニキ! また今度、狩りにご一緒させてください!」
「オーマ君。いい茶葉が手に入ったんだ。今度お茶でも……」
うんうん。
いい感じに慕われているな。
「声を掛けてくる人たちの半分ぐらいが年頃の女性なのは、何か作為的なモノを感じざるを得ないですね」
「オーマさんって、案外女たらしなんですかね」
何かひどい誤解が生まれているなぁ。
訂正しとこ。
「いや、単純にこの場所でたまたま声を掛けてくれたのが、そう言う年頃の女性が多かったってだけじゃないか? 要は抽出の問題だよ」
「「…………」」
ジト目でこちらを見てくる美少女二人。
訂正、失敗。
「ぶ、分体たちも、俺も、助ける相手をえり好みしたりしないから、本当に偶然だと思うよ」
「確かにオーマさんってかっこいいですからね。モテるのも分かる気がします」
「(…………私が一番この御方のカッコよさを知っているのに)」
アルリスが小声で何事かを呟いた。何を言っているかは分からなかった。
話をそらそう。
「今回二人に集まってもらったのは、他でもない。出現したユニークスの討伐に向けて、新しい装備品を調達するためだ」
「私は【
「そうですね。私の装備品は少し心もとないでしょう」
一応彼女が迷宮に脱出してから、新しい装備は買ってあげたのだが彼女が遠慮して、あまり高い装備は買ってあげられなかったのだ。
しかし今は違う。
稼いでいる金も桁が違うし、彼女も俺も、攫われたことによって危機感を共有している。
つまり装備更新について、二者間の合意が取れた状態であるということだ。
「もう金に糸目はつけんぞ。ありったけの高級品をプレゼントしてやる。アルリスの安全のためにな」
「はい。謹んで拝領いたします」
そんな感じで会話をしているとアルリスの視線が横に向いた。
その先にあったのは服屋だ。
ショーウィンドウに、ワンピースが飾られている。
一秒ほど見つめてから、彼女は再び歩き出す。
その顔はどこか名残惜しそうだ。
ふむ。
「アルリス。装備の更新を兼ねて、普段着の方も更新しないか?」
「え?」
「最近俺の付与魔術の腕も上がってきてな。質のいい服相手なら、結構なエンチャントができるようになったんだよ。だからその実験を兼ねて、アルリスに服をプレゼントさせてくれないか? 例えば、ほら、あのワンピースとか」
さて、俺の予想は当たっているかな?
するとアルリスは恥ずかしそうに微笑んだ。
「見抜かれてしまいましたか」
「千年囚われていたんだ。その時間に負けないぐらい、いい思いをしていいはずだ。だから服の一着や二着ぐらい、どうってことないさ」
「……ありがとうございます、オーマ様」
そのやり取りを黙ってみていたスカイ。
彼女はぼそりと呟いた。
「ただの女たらしじゃない、天然たらしだ……!」
スゴクシツレイ。
□
「アルリスさんって、オーマさんの事好きなんですか?」
「えっ……!」
スカイは年頃の少女なので、恋バナが大好きだった。
なので、直球で聞きに行った。
二人はオーマとは離れた場所で、会話をしている。
ちなみにオーマは服を手に取りながら『……わからん』と呟いていた。彼はファッションセンスがないのだ。
「それは、そのぉ、えっと……」
「大丈夫です! 私にサポートできることがあったら何でも言ってください!」
胸の前で両の拳を握って、ふんすふんすと鼻息を荒くする少女。
友人の恋をサポートする。それは彼女にとって手慣れたことだった。
「ありがとうございます。スカイさん。その時が来たら頼らせていただきます」
「はい。どーんと、宇宙船に乗ったつもりで、いてくださいね!」
そう言って少女たちの間で、同盟が締結されたのであった。
「わからん……、色のコンビネーションとか、マジでわからん……。黒一色じゃいかんのか?」
オーマは服を目の前にして相変わらず首をかしげていた。
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