第6話 VSミミックスライム
拳を構えたミミックスライムが走り出す。
その勢いを乗せた拳を屈んで躱すと、下がった顔面を狙うようにして、膝蹴りを打ち込んでくる。
その膝を手のひらで受け止める。
「ぐっ」
少しダメージが入った。
攻撃力は向こうの方が上のようだ。
成るほど。
確かにレベルも26と俺より4も高い。
多分コイツ、一つのパーティで戦うべき相手だな。
これまでのスライムたちも、多種多様な属性と状態異常を使ってきて、単独では突破は困難なようにこのフィールドに配置されていた。
一つのパーティを相手にしても、このミミックスライムならばいい勝負をするだろう。
だが俺はパーティを組むつもりはあんまりない。
他人に背中を預けられるほど肝が据わっていないのだ。
だから一人で戦う。
そしてそれが楽しい。なぜなら、勝利も敗北もすべて自分の責任だから。
「ハハッ」
繰り出される拳を弾くように防御していく。
防御系戦技の『フィスト・パリィ』だ。
これでダメージはゼロとなる。
成るほど。レベル差も戦技で埋められる程度か。
ならば問題ない。
「ナイス防御!」
パリィで出来た隙に、差し込むように拳を繰り出す。
相手のHPが少しずつ漸減していく。このままの行動パターンだとしたら、問題なく勝てるだろう。
……気になるのは俺がクリティカルを入れるたびに、相手が『ナイスクリティカル』とか、『ナイスアタック』とか褒めてくることだ。
それはさておき。
このまま楽に勝てるということはないだろう。
相手はボスだ。
HPが減ってくれば、当然攻撃パターンが変わるはず。
そしてその考えは正しかった。
「変形?」
バックステップで距離を取ったミミックスライムが、体の輪郭を崩した。
それどころか、みるみると巨大化していく。
「なるほど。オーガか」
「巨大化、行きまーす!!」
巨木のような腕が、振り下ろされる。
地面を衝撃波がつたい、俺を体を揺らす。
中々のパワーだ。
おそらく奴は自分のレベル以下の、あらゆる者に変化できるのであろう。
獲得できるスキルが楽しみだ。
「シッ!」
拳に魔力放出:火による炎を纏わせる。
魔力放出は全身のどこからでもその属性に対応したエネルギーを発することができるのだ。
炎を纏った拳で、拳でミミックスライムの巨体を殴りつける。
どれだけ姿形を変えようがスライムはスライム。炎は効くはずだ。
「ぐへぇ!? ナイスフレイム!」
火だるまになる巨体。
その姿はみるみるうちに変化していく。
次の姿は赤色のスライム、ファイアスライムだった。
なるほど。種族的に耐性を持っているスライムに変化したか。
これで炎は効かないな。
だが問題はない。
炎が効かないなら、他の属性で攻めるまで。
風を放出。少し魔力に変化をつけて、刃に変化させ風の刃を放つ。
敵の体に突き刺さる攻撃。
スライムは悶えながら、緑色に変化する。
ウィンドスライムか。
それなら火耐性はなくなったな。
そのまま炎をぶつけて、敵にトドメを刺そうとした瞬間だった。
スライムが二色のマーブル模様になったのは。その色は緑と赤。
「風と火か」
「二重属性だぜ!」
どうやら相手は火耐性と風耐性を両立させるつもりのようだ。
それだけではなかった。
火炎放射。
あたかもビームのように放たれた炎が、俺の横を掠めていく。
「風で炎を強化したか!」
「火炎放射行きまーす!!」
二つの魔力放出を駆使して、攻撃手段をより強化したようだ。
だったらこっちもそうしてやる。
「オラァ!」
右手に纏うのは氷属性のオーラ。左手には水属性の水。
二つを重ねて放出し、冷却水を解き放つ。
スライムには炎と同じぐらい氷が良く効く。この世界では常識だ。
「ピギャぁ!!」
みるみるうちにミミックスライムの体が固まっていく。
そしてHPがゼロになった。
その体は砕け散り、コアだけが遺された。
何というか、戦いにくい相手だった。
しょっちゅう褒めてくれるし。今まで出会ったコーチたちを思い出す。
皆、厳しくも暖かく俺を指導してくれたな……。
ゲームの道を進むと決めた時も、引き留めてくれる人もいれば、涙ながらに送り出してくれる人もいたっけ。
っと、今はゲームに集中しなくては。
「さて、俺の推測が正しければ……、このスライムの力を手に入れることによって俺のチカラは飛躍的に向上すると思うんだが……」
そう呟きながら、コアを嚥下する。
そして……。
『スキル『変身』を獲得しました』
■
『変身』
肉体を自分のレベル以下の存在に変身する。
この系統のスキルを使えば使用不可だったスキルすらも、肉体構成ごと再現して使用可能になるだろう。
■
ドンピシャだ。
早速一番気になっていたスキルも使用可能になっていた。使ってみよう。
「『分体形成』」
スライムの主な繁殖方法である分裂。それをスキル化したものだ。
そして……。
俺自身の体をスライムに変化させてから、スキルを行使する。
にゅるりと俺の体が二つに分かたれた。
「ははは! 見かけだけだが装備も再現しているのか?」
そいつは、俺の前で片膝をついた。あたかも忠誠心を示すかのように。
「くひ。何か自分の体から減じた感覚はあるな。分体形成は容積を消費するらしいし、これ単体ではさほど悪用はできんか」
そう。これ単体では。
ではもう一つ俺が手に入れたスキルを見てみよう。
■
『容積増加』
食べれば食べるほど体積が増していく。
■
そうだ。
このスキルがあれば容積問題は解決したも同然。
スライムの体の場合しか容積は反映されないみたいだが、それは逆に人間体では既存の大きさのままということなので便利だろう。
さて。さて。さて。
喜ぶのはまだ早い。
一番重要なことを確認していない。
「なあ。鑑定はできるか?」
コクリと頷く分体。
「それを俺に見せることは?」
またも頷く分体。
「じゃあ見せてくれ」
そして俺と、俺自身と全く同じステータスが露わになった。
■
名前 オーマ(分体)
レベル 26
種族 人間?
職業 格闘家LV26
HP 2500/2600
MP 200/350
SP 950/1500
STR 280
AGI 290
VIT 230
DEX 300
LUC 10
スキル
物理無効 分体形成・合体 属性耐性(火・水・土・風・氷・雷) 魔力放出(火・水・土・風・氷・雷) 状態異常耐性(毒・酸・麻痺・眠り)毒液放出(毒・酸・麻痺・眠り)捕食 変身 容積増大 再生
アワード
なし
パラダイム
【
■
「くははははは!!」
完璧だ。
俺は俺を複製することができた。
これで俺は端的に言って二倍の速度で強くなることができるということであり、二倍の効率でスキルを集めることができるということでもある。
そして、数値は二倍にとどまらない。
俺自身がもっと喰らって、もっと容積を増やして。
更に分身して、分身して、分身して。
その分身がさらに喰らって。
そのスパイラルをひたすら繰り返していけば、俺は恐るべき速度で強くなることができるだろう。
「楽しみだなぁ」
俺は、この世界で頂点を獲る。
そのためにはレベルを誰よりも上げることは絶対条件。
そのために必須の足掛かりというべきものが、俺は獲得したのだ。
「さあ。行くぞ」
コクリと頷く分体。
俺たちは征く。
世界の頂点に立つために。
その全てを平らげんとするために。
「手始めにあの狼どもにリベンジマッチだ」
相変わらず喋らない分体を引き連れて、俺たちは次なる一歩を踏み出すのであった。
□
これが後にこの『ネオン・パラダイム』の世界を震撼させる、最強の怪物の誕生の瞬間であることを知る者は、まだ誰もいなかった。
最も、誰が知っていたとしても、とうに手遅れだったのだが。
——――――――――――――
強すぎじゃね、と思った読者の皆様。
この作品はこのくらいのシナジーを成立させ、阿保みたいな強さに到達したバケモノがいっぱい出てきます。
お楽しみに。
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