第7話 リベンジマッチ&ゴブリンの古代遺跡

 俺はスライムエリアにとんぼ返りした。

 といってもいきなり群狼に立ち向かったのではない。

 最初は群狼たちとの接敵を避けて、ひたすらスライムを貪った。

 そして分体の数を一気に増やせるまで容積を貯めたところで、分体の一人とスキル『合体』を行使。


 一人に化けて、再び群狼たちを待った。


「来やがったな」


 狼どもが一体ずつ沼地から現れ、俺を取り囲む。

 奴らはスライム程度が扱う属性ならば、難なく抑え込めるだけの耐性を持っている。

 だから、俺の魔力放出:火は効かなかった。


「でも今の俺は違う」


 襲い掛かる狼。

 その牙を受け止めたのは——。


「……」


 もう一人の俺だった。

 狼たちがたじろぐ。


「こんなんで終わりじゃないぞ」


 戸惑う狼たちなど気にせず『分体形成』を使用。

 ひたすら自分を増やしていく。

 その数三十体。

 これで狼と俺は同数となった。


「それじゃあ、始めるか」


 群れ対群れの、殺し合いだ。



 □



 結果は圧勝だった。

 群狼たちは今まで徹底的に集団戦を避けてきた。

 あくまで数を劣っている、それも一人の相手だけをつけ狙ってきた。

 だから、ほぼ数の比率が一対一になった状況では連携を崩され、狼たちの強みの大半は削られていることとなる。


「はははは! 弱いなぁ! こんなに弱かったのかぁ!」


 俺は快感と共に最後の一体を葬った。

 そして脳内にアナウンスが鳴り響く。


『称号『群れ殺し』を入手しました』


 つまり俺の完全勝利というわけだ。

 ちなみに称号は対集団戦で優位に働くモノだった。


「ふう。それじゃあ、第二の街へと向かうか」



 □




 遂にチュートリアルエリア、二つ目の戦闘エリアに来た。

 ちなみに二つ目の街『セカンド』に関しては、軽く見て回ったが特にめぼしいものはなかったのでそのままセーブポイントの更新をしてからこっちに直進した。

 

「さて、早速ゴブリンと戦闘してみるか」


 見てみた感じ、数体のゴブリンが徒党を組んでこのゴブリンの古代遺跡エリアを徘徊しているようだ。

 一人で挑むのはリスクが高かったが、今の俺は一人ではない。


「行くぞ、分体」

 

 コクリと頷く分体を従えて、俺たちは歩いていく。

 周囲を見回してみる。

 石柱や石畳が所々に点在しており、確かに古代遺跡エリアらしい姿だった。

 

「来たな」


 石柱と茂みで区切られた通路の奥から、ゴブリン数体がこちらに向けて走ってくる。

 やる気満々のようだな。

 ならこっちもそのつもりで行こう。


「『ダッシュ』」


 基本的な移動戦技を使用して、高速で相手との間合いを詰める。

 最初に接敵したのは粗末な短剣を持った、斥候と思わしきゴブリンだった。

 『ダッシュ』の勢いを乗せた飛び蹴りをゴブリンの顔面にかませば、それだけでコブリンは吹っ飛ぶ。

 吹っ飛んだ瞬間に魔力放出:火を使って相手の顔面を火だるまにしてやる。

 それだけでHPはゼロになったのだろう。相手は光の塵になって爆散し、いくつかの素材を残すのみとなった。


「さて。まずは一体。分体の方は……」


 見ると分体が、剣持ちのゴブリンと殴り合いをしていた。

 動きは悪くない。俺ほどではないが、被弾も少なく攻撃は的確だ。

 そうして見ている内に、後衛のゴブリンたちの攻撃が飛んでくる。

 片方は矢、片方は風の刃だ。

 

 風の刃を半身になって躱し、矢の方は物理無効の粘液に右手を変えて、受け止める。

 あの俺を拘束してきたプレイヤーのスラ吉とかいうスライムから手に入れたスキルだ。

 このチュートリアルエリアではできないが、プレイヤーを食えばパラダイムを手に入れることができるのだろうか? いつか検証してみたいものだ。


「オラァ!」


 そのままスキル『容積増大』の影響を受けた、スライム状の巨腕を薙ぎ払う。

 ガードしようとしたコブリンの腕が潰れる。

 そのまま粘液にコブリンたちを絡めとる。そして毒液放出:酸を使って、ゴブリンたちの体を生きたまま溶かしていく。


 便利だな。素材を食わなきゃいけないのは地味に手間だったんだけど、こうすれば攻撃と同時に捕食ができる。同時に俺が倒したゴブリンの素材と分体が倒した素材を吸収する。

 

「お、レベルが上がった」


 レベルが27になった。

 どうやらここはレベル20ぐらいが適性範囲らしい。

 そしてスキルも獲得だ。


『スキル『弓術』『属性魔術:風』『剣術』『索敵』を手に入れました』


 この調子でガンガン狩っていこう。



 □



『レベルが上がりました。50→51』


『スキルを獲得しました。『格闘術』『剣術』『槌術』『槍術』『弓術』『大剣術』『属性魔術(火・水・土・風・氷・雷)』『治癒魔術』『支援魔術』『減退魔術』『鍛冶術』

『調薬術』『錬金術』』


 色々とスキルを獲得できた。

 しかし……。


「メチャクチャ強いな……」


 俺の目の前には百体以上の分体が並んでいた。

 ゴブリンの体を丸ごと喰らうと、二体につき一体の分体を生み出せるのだ。だから調子に乗って増やしまくった。

 途中から五人一組でパーティを組ませて、別行動をさせまくった。

 そうするとわずか三十分という短時間で俺のレベルは51に上がったのだ。

 

 どういう理屈かは知らないが、この分体たち、レベルと経験値を俺と共有しているようなのだ。

 つまり五十体いれば五十倍速でレベルが上がっていく。

 想定以上のスピードであった。


「おかげでもうこのフィールドをクリアしそうだぞ」


 俺は既にコブリンの古代遺跡のボスエリアの手前にいた。

 

「お、団体さんか……、って、全員同じ顔じゃねえか!!」


 恐らくボスエリアの順番待ちをしていたのであろうプレイヤーが驚愕に顔を見開く。

 

「いやー、そう言う【パラダイム】なんですよ。それで、今最後尾は何番目ぐらいですかね?」

「何だ? アンタ知らないのか? ここのボスのゴブリンキングは、百人以上のプレイヤーで戦うことが推奨されているんだぞ。だから俺たち全員で一つの『レギオン』なんだ」


 『レギオン』の説明をする前にまずこの世界における、『パーティ』について説明すべきだろう。

 同じパーティに入っているとお互いのHPやMPを把握できたり、支援魔術がかけやすくなったりなどの様々な恩恵が手に入る。


 そしてこの世界におけるパーティは、一つにつき六人までとなっている。『指揮官』や『将軍』といったジョブに就くことによって、パーティ枠は増やすことができる。

 しかしそれらのジョブに頼らずとも軍団を形成する手段がある。


 それがパーティを集めた『レギオン』だ。

 単純にパーティ枠を増やすよりも、いくつかの制約が増えてしまうがそれでもレギオンの恩恵は大きい。

 貢献度に応じた経験値の割り振りなどだ。


「どうだい、アンタらのドッペルゲンガー軍団も俺たちのレギオンに入ってみないかい?」

「良いんですか?」

「構わねえさ。だよな、皆!」


 口々に、問題ない、大丈夫、オッケーと言ってくれる人達。


「ちなみに名前は? 俺はアレックスだ」

「俺はオーマです。俺は格闘術を中心に、属性魔術と支援魔術、あと減退魔術を中心に色々できる感じですね。ドッペルゲンガーは俺と同じプレイスタイルです」

「割ととっ散らかった感じだな? まあいっか。それじゃあよろしく頼むぜ」

「はい」


 アレックスさんと握手を交わす。

 それでは全員で、コブリンキングとご対面と行こう。

 


 □



「うわぁ、二百体以上いる……」

「雑魚ゴブリンでもこんだけいると結構大変だろ? だから俺みたいに臨時のレギオンリーダーがいるってわけ。ま、お前さんの【パラダイム】だったら、単独でいい勝負できそうだけどな」


 俺たちの目の前に広がっているのは、広大な広場だった。

 そこに横に広がっている俺たちの向こう側に、ゴブリンたちが広がっている。

 その中央で、ゴブリンキング——名前の通り、王冠を被っただけのゴブリン——が、手を振り下ろした。


「できる奴は土壁を作れ! 遠距離攻撃来るぞ!」


 そう叫ばれた瞬間に、彼らは地面に手をつき、土壁を生成した。

 俺たちの一部も彼らに倣って土壁を作り出す。

 即座にその裏に身を隠して、相手の矢玉と魔術混成の一斉射撃をやり過ごす。


「所詮ゴブリンどもだ! レベルは低いから、魔術の再詠唱時間リキャストタイムも長い! 今のうちに接近だ! ぶっ飛ばしに行くぞ!」

「「「おう!!」」」


 的確な指示によって、ある程度統率の取れた動きで走り出す俺たちと彼ら。

 それでも散発的に矢玉や魔術が飛んでくるので、それを避けたり掴んだり、弾いたりして打ち破っていく。


「ギィギ!!」


 ゴブリンキングが何事かを叫べば、それに応じて白兵戦に長けているのであろうゴブリンが前線を押し上げてくる。

 さて、乱戦に突入だ。

 

「怯むな! 相手は所詮ゴブリンだ!」


 恐らく広域バフ系統の【パラダイム】をアレックスさんは持っているのであろう。

 その一言一言で、俺の中の力が漲ってくる。


「しゃっ、おら!」


 ゴブリンを一撃で殴り飛ばす。

 一発で光の塵に変わる。

 

「一撃か。それならキングとその供回りを狙った方が良さそうだな」


 俺の分体たちも適宜、他のプレイヤーをサポートしながらゴブリンを殴り飛ばしている。

 しかし押されている場所があった。

 ゴブリンキングの周囲を固めるホブゴブリンたちの相手をしているプレイヤーだ。


「助太刀に行くぞ! ついてこい!」


 分体たちにそう呼びかける。

 すると。


「近くの奴を向かわせる! 俺たちはここで周りのサポートに徹するぜ」


 返事が返ってきた。

 分体から。


「……喋れるの!?」


 戦闘中であることも忘れて、俺は大声で叫んでしまった。

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