第8話 喋ったァ!?
「そういや喋ったことなかったな」
「初耳だぞ!?」
「まあ、喋る必要性を感じてなかったし」
「俺はてっきり分体だから喋れないと思っていたぞ!?」
「まあ、いいじゃないか。特にしゃべるような内容は今までなかったし、それにそっちも無駄な話はあんまり好きじゃないだろ?」
「ぐぬぬぬぬ……!」
そう言われるとぐうの音も出ない。
「とにかく、助太刀に行ってこいよ。こっちは俺らに任せとけ。狙ってるんだろ? コブリンキングの素材」
「あとでちゃんと説明してもらうからな!」
「はいはい~!」
適当な調子の分体に、意気を削がれながら俺はゴブリンキングの方に向かっていく。
そしてその勢いのまま『ダッシュ』を発動。加速を乗せた戦技『飛び蹴り』を放つ。
「オラァ!」
ホブゴブリンの内一体の首がへし折れた。
そしてその勢いを殺さずゴブリンキングの顔面に拳を叩き込んで——。
弾かれた。
「なっ」
「おいおい、wikiを見てないのか!? コブリンキングは、『ミニチュアキングダム』っていうスキルを持っているんだよ!」
何でも自分の受けたダメージをゴブリンキングの配下に肩代わりさせるスキルらしい。
「なるほど。この群れ全体が奴のHPっていうわけか」
そのスキル、ぜひとも欲しい。
「アレックスさん!」
「どうした、オーマ!」
「手の空いている分体たちの攻撃をキングに集中させます。構いませんか!?」
「巻き込まれるんじゃねえぞ!」
「りょーかい!」
俺たちの会話を聞いていたのだろう、ゴブリンキングのもとに分体たちの遠慮ない攻撃が集中する。
俺はその攻撃の雨を、かいくぐりながら、ゴブリンキングをぶん殴り続ける。
「す、すげぇ……、全部避けてる」
「何ちゅう身のこなしだ……」
周囲の感嘆が気持ちいい。
やっぱり俺は競技者だな。観客がいるとテンションが上がる。
ソロでひたすら
「これで、ラストォ!」
拳を叩きつける。
ようやく光の障壁は打ち砕かれ、ゴブリンキングの顔面に拳が突き刺さる。
ぶっ飛んでいくゴブリンキング。
ステータスは普通のゴブリンと大差ないのであろう、一撃で仕留めることができた。
そしてファンファーレが鳴り響く。
戦闘の終了だ。
「お疲れさん。間違いなくMVPはオーマだったな。そのキングの素材持ってけよ。欲しいんだろ?」
「良いんですか?」
色々と交渉しなくてはならないかと思っていたのだが、そうでもないようだ。
「俺は既に持っているからな」
「? と言いますと?」
「俺たちはいわゆるお助け部隊なんだよ。いきなり指揮をとれるニュービーはいないだろ? だからある程度チュートリアルエリアをクリアした奴が、こっちに戻ってきてコブリンキング相手に指揮を買って出るのさ。ま、長くから続く伝統みたいなもんだと思ってくれればいいぜ」
「なるほど……。ありがとうございます」
「良いってことよ。それでその素材、何に使うんだ? 差し支えなければ教えてくれねえか?」
「ああ、食べるんすよ」
むしゃり。
落ちたゴブリンキングの心臓へとかぶりつく。
そのままパクパクと咀嚼して、嚥下する。
マズい。ゴブリンってこんなにマズいのか。
「そうするとスキルと経験値を手に入れられるんです」
「マジかよ……、あの分身も、そうやって手に入れたスキルか?」
「そんな感じですね」
「どんなメンタリティをしてたら、そんなパラダイムが? いや、すまねぇ。それを探るのはマナー違反だったな」
「良いですよ。別に。単に食べても太れない体質を克服したいなぁ、と思ってたら芽生えただけなんで」
ソレを言うと女性陣が凄い顔でこちらを見てきた。
その体質を疎むなんてとんでもない、と言った顔だ。
俺としては食べれば食べるほど、体に変わっていく人たちが羨ましくてしょうがなかったが。
「そうかい。色々苦労があるんだな。そう言えばフレンド登録がまだだったな。登録しとくか?」
「ぜひお願いします」
そう言って俺とアレックスさんはフレンド登録を済ませる。
「じゃあ俺も」「私も」「僕も」「ミーも」「朕も」
と続々とフレンド登録希望者がやってくるので、一人ずつと登録していく。
謎の大人気である。
「それじゃあお疲れさまでした」
「おう、じゃあな!」
お互いに手を振りながら、俺は分体と共に進んでいくのであった。
□
そこからは破竹の勢いだった。
残るエリアは魔獣系モンスターの出てくる魔獣の平原。虫系モンスターが出てくる昆虫の森。アンデッド系モンスターの出てくる墓地高原。そしてラストのゴーレムが出てくる機兵の城などがあった。
しかしそれら全ては千人に増えた、俺たちの分体の前では意味がなかった。
レベルは200を超えて、獲得したスキルは100を超えた。
明らかにチュートリアルエリアの基準を逸脱した強さである。
後は、もうオープンワールドエリアに繰り出すだけ、だと思っていた。
しかし。
「何だ、ありゃあ……」
山が、動いていた。
地響きが足裏から伝わり、全身を震わせる。
ソレの顔は竜だった。
ソレは、俺が初めて目にする、自分の手に負えない化け物だった。
『要塞魔竜『カストルム』レベル500』
モンスターの頭上に浮かぶネームプレートには、そう記されていた。
そしてその足元には多数のプレイヤーが攻撃を加えていた。
明らかにチュートリアルエリアの基準を逸脱した強さだ。
「お、あんちゃん、その数とレベル、成長系のパラダイム持ちか? そしたら手伝ってくれよ!」
「アナタは?」
「俺たちは、クラン『要塞落とし』。あのバケモノをぶっ飛ばすため専用のクランさ。俺はそのリーダーをやっているジンネマンっていうプレイヤーだ」
「ジンネマンさんもニュービー何ですか? そうは見えないですけど」
レベルこそ100だが、装備品の質はそれよりも高いように思える。
「気づいたかい。俺たちはいわゆる出戻り組って奴でね。オープンワールドエリアで装備とか消耗品を稼いでから、この要塞魔竜を倒しにわざわざ戻ってきているのさ」
「そう言えばこのエリア、レベル百以内じゃないと戻れないんでしたっけ」
このチュートリアルエリアは初心者向けのエリア。
このエリアの戦闘領域に立ち入るには二つの内どれかを満たす必要がある。
一つ目はゲーム開始から二週間以内であること。
二つ目はレベルが百以下であること。
このどちらかを満たしている場合のみ、このチュートリアルエリアで戦闘ができるのだ。
このチュートリアルエリアにはいくつかの特典がある。デスペナ軽減、PK不可、その他もろもろ。
そうした恩恵を受けられる者を低レベルプレイヤーに限定するためにこうして、制限は設けられているようだ。
そしてその特典の一つに、この要塞魔竜に挑めることが入っているのだろう。
「でもどうして今に至るまで倒せていないんですか? これだけ人が集まっていれば、相当いい感じにやれそうですけど」
「そいつはな。あのクソ魔竜が、『自分の半分以下のレベルの対象の攻撃を無効化するスキル』を持っているからなんだよ」
「え」
「気づいたか。つまりあのクソモンスは、レベル百以下じゃないと挑めない癖して、レベル250以下の攻撃を完全に無効化しやがるクソモンスっていうわけだ」
む、無敵じゃん、そんなの。
「けれどあんちゃんなら勝てるかもしれねぇ。どうだ、いっちょ一嚙みしてみねえか? 偉業によ」
「それ、単独で挑むことってできますか?」
あれだけのモンスターだ。相当面白いスキルを持っているに違いない。
そして、何よりああいう序盤で出てくる負けイベのボスとか見るとどうしても勝ちたくなる性分なのだ。
俺がゲームを開始してからまだ五日しか経っていない。つまりまだ一週間近く猶予がある。
恐らく彼らはレベル百以下で、なおかつ防御スキルを突破する【パラダイム】持ちだろう。
けれど俺なら残りの一週間で正規手段で足切りラインである250を超えられる。
さあ。挑もうか。困難に。
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