第9話 レベリング

 現状俺のレベルは203。

 要塞魔竜に挑むためには251レベルまで上げなくてはならない。

 そうと決まればレベリングだ。

 場所はこのチュートリアルエリアで最も平均レベルの高い、機兵の城でいいだろう。

 

 そして俺のレベリングは始まった。

 機兵の城でゴーレムたちを狩りまくる。

 機兵の城は一種のダンジョンとなっていて、モンスターが無制限にリホップするらしい。

 これがそれ以外のエリアで狩りをしていたら、生態系を崩壊させてしまっていだろう。


 隅々まで探索し、なるべく人の邪魔にならない、正規ルートから外れた場所で狩りをすること、一週間。


「ついにか」

「いやぁ、大変だったな」

「ホントだぜ。もうゴーレムの顔なんて見たくない」

「俺なんかゴーレムの物まねができるようになったぜ。ウィーン、ガシャン。ウィーンガシャン」


 それロボットじゃない?

 という分体への突っ込みは置いておこう。


 俺のレベルが251に到達した。

 長い道のりだった。レベルが半分以下の相手を狩りまくるのは、正直単調な作業みたいで楽しくなかった。

 いや、どうかな。分体と無駄話しながら狩るのは結構楽しかったかもしれない。

 彼ら、というか俺ら、すぐボケに走るのだ。

 そして突っ込み役は俺一人しかいない。

 別の意味で忙しかった。


 しかしこれでようやく要塞魔竜との戦いの土俵に上がれる。


「分体の数も一万体に増えたし、やりようはあるだろう」

「確かにな」


 そうゴーレムを喰らいまくることによって、俺の容積は飛躍的に向上し、一万体に増えることができるようになったのだ。

 これにあの手を加えれば、レベルが二倍の相手にも勝利できるだろう。

 

「それじゃ挑むとするか」

「本当にいいのかい? ひとり、ではないだろうけれど、俺たちも賑やかし以上の戦力には成ると思うぜ?」


 そう、ジンネマンさんが気遣ってくれる。


「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。というか巻き込みかねないんですよ」


 俺の奥の手は広域破壊を可能とする。

 そして加減ができない。自然と彼らを巻き込むことになってしまうのだ。流石にプレイヤー同士の攻撃は無効になるといえど、それは申し訳ない。


「ならいいが……、お、丁度今回も全滅したみたいだな。それじゃあ心置きなく挑んで来い」

「はい。そうさせていただきます」


 そして俺は分体たちに呼びかける。


「行くぞ、お前たち! 『合体』だ!」

「「「りょーかい!!」」」


 スライムから獲得したスキル『合体』

 文字通りスライムの体を合体させて、容積と全てのステータスを向上させる。

 単純に個々のステータスを合算させているわけではないが、それでも俺のステータスは飛躍的に向上する。

 その数値はHP・SP・MPは10万を超え、それ以外のステータスは一万を超える。

 

 レベル500に匹敵するステータスだ。

 ま、一万体を一つに合体させているんだ。このぐらいは上昇しなくてはな。

 そして向上したのはステータスだけではない。

 体のサイズも、だ。

 

 ズゥゥゥウウン! と俺の両足が地面を踏み鳴らす。


「さて、それじゃあ行こうか」


 山のように巨大な要塞魔竜に、ソレに匹敵する百メートルを超える巨大化した俺が、拳を振りかぶる。


 この状態でもスキルは発動可能だ。

 ジョブ『格闘家』もカンストし、その際に開花した戦技を使用する。


「『チャージブロウ』!」


 拳にSPを貯めて、繰り出す一撃。込めるSPは上限である五千。

 その拳は自らのステータスと巨体故の動きの大きさによって。

 音速を超越した。

 要塞魔竜の体に拳が突き刺さる。

 魔竜の体がたたらを踏む。HPが目に見えて削れる。といっても五パーセントほどだ。

 

「ははは! 合体はやっぱりいいな! 怪獣になった気分だ!」


 凄まじい爽快感だ。背後にある機兵の城が、同じ目線に存在する。

 これでモンスターの群れを踏みつぶしたら恐ろし勢いでレベルが上がりそうだな。


「次は魔術だ。『エアロ・バレル』『エレクトロ・レール』『ファイア・カタパルト』そして、『フルメタル・バレット』」


 遠距離攻撃強化魔術を三重に発動し、更に鋼鉄の弾丸を形成。それを解き放つ。

 風と雷、そして炎によって三重に加速した鋼の弾丸は、要塞魔竜の体に突き刺さった。

 この世界において、魔術の威力はMPの最大値によって上下する。もちろん込めた魔力が大きいのもあると思うが、それでも相当な威力になるはずだ。


「貫通とはならないか。それでも結構なダメージだな」


 HPが一割削れた。残り八割五分。

 このままいけば殴る蹴るでも普通にダメージを与えられるだろう。

 合体には時間制限はない。

 ただ合体によって増加したHPがゼロになると強制的に合体が解けて、リスポーンしてしまう。

 

 このまま殴り続けていれば自然と削り取れるだろう。

 しかし敵も黙ってやられているばかりではない。


「GIAAAAAAAAAA!!」


 雄叫びをあげる要塞魔竜。

 その前足が、振るわれる。いつも通り飛んで避けた。そして着地に失敗する。


「クッソ! こんだけデカいと、体のバランスが狂うな」


 失敗した着地に要塞魔竜が攻撃を加える。

 咄嗟に獲得したスキルの内、防御系の『堅皮』と戦技の『鋼体』を使用。攻撃を受け止める。

 それでもHPが一割削れた。

 これは、マズいな。防御を固めてもこれだけ削れるとは。

 かといって回避主体の動きは、巨大化した俺には難しい。

 となると、答えは一つだ。


「攻撃を畳み掛けて削り切る」


 俺は戦技『跳躍』を発動。

 軽々と数百メートル飛び上がる。

 そして着地の際に『踵落とし』をかます。使用者の重量に応じて威力を増す子の攻撃は今の俺にぴったりだろう。

 予想通り、要塞魔竜のHPが三割削れた。残り五割五分。

 

「さあ。このまま一気に……!」


 雄叫びをあげる要塞魔竜。

 その姿に俺は動きを止める。

 異様さを感じ取ったからだ。

 そしてその口から黒煙が吐き出される。

 

「何だ?」


 そして黒煙が辺り一帯に充満した瞬間だった。要塞魔竜が牙を打ち鳴らす。

 瞬間。視界が白に染まった。


「ぐあぁぁ!」


 俺の体が衝撃で吹っ飛んでいく。

 どうやらあの黒煙は可燃性のガスだったようだ。あるいは粉塵でもあるのだろう。そしてソレに引火させた。


「粉塵爆発か!」


 クッソ、今のでHPが半分は削れたぞ。二発目は耐えられない。となると、俺の手立てはあれしかない。

 上等だ。これで決めてやる。


「『五体に漲れ、我が魔力』。『五指に纏え我が呪力』。行くぞ!」


 詠唱。それは魔術を発動する際に要求されるモノ。低級のモノなら極めて短いかもしくはない、と言った可能性があるが、俺が発動したのは現時点で発動できる最大の魔術だ。

 『支援魔術:フィジカルブースト』『闇魔術:ダークフィスト』。

 この二つで俺のステータスは向上し、次撃は防御力を半分として計算してダメージが算出される。

 そこにさらに『チャージ・ブロウ』を使用。

 MPとSPを限界まで注ぎ込む。

 

『スキル『限界突破:出力』を獲得しました』


 スキル獲得アナウンスも頭の内から吹っ飛んだ。

 最大の一撃をぶち込む。

 

「これで終わりだァ!!」


 闇を纏う拳が要塞魔竜の顔面に突き刺さる。

 その顔面が陥没する。周囲に衝撃波がまき散らされる。


 HPは……。


「ははは、勝った」


 ゼロになっていた。

 途端に莫大な光の塵がまき散らされる。

 残されたのはそれでもなお巨大な、要塞魔竜の素材だった。


「勝った! 勝ったぞ!」


 これでチュートリアルエリアでやり残したことはなくなったな。

 後はオープンワールドエリアに行くだけだ。


『グラン・ユニークスが単独討伐されました。称号アワードを授与します』


 何と、称号を獲得したようだ。


『グラン・ユニークス討伐者のアナウンスを行いますか?』


 そうして表示された選択肢に迷わずYESをタップする。

 これで俺の名前も少しは売れるだろう。

 トッププレイヤーへの仲間入りも遠くないかもしれないな。

 

「ははははははははは!!」


 俺は勝利の喜びによって高笑いするのであった。



 □



『スレイ・アナウンス。グラン・ユニークス『要塞魔竜『カストルム』』が討伐されました。討伐者:オーマ』


 そう『ネオン・パラダイム』の世界に鳴り響いたアナウンスが、この先世界に騒乱を巻き起こす一人の少年の名が、世界に初めて認知された瞬間であった。

 

 



——―――


皆さま☆ 応援 フォロー。誠にありがとうございます。

とても、とても励みになります。


一話の方、加筆させていただきました。

これで全ての話が三千字前後になったはずです。


話には影響ありませんが、主人公がこれから手にする力の一端と未来の最強っぷりが分かると思うので、ぜひご覧ください。

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