第16話 溢れ出る影
「一向に減らんな……」
そして強くなるばかりだ。
俺たちは影のモンスターを討伐し続けていた。
すでにそのレベルは平均500へと到達している。
複数スキルの強化と、ジョブのステータス補正で、まだ俺たちが競り勝っているが、それも時間の問題だろう。
「早いとこどうにかしないとな」
こういう時は原点に立ち返るべきだ。
まず俺の第一目標は、このセントルシアの衛星都市とその周囲の村の数々に住まう人々の命と生活を守ること。
第二目標が、ユニークスを討伐し、そのスキルを獲得することである。
「しかし、そのどちらもこのまま手をこまねいていてはどうにもならないな」
そう。
ユニークスの本体の手がかりが一向に見つからないのだ。
モンスターの出現位置から、大元であるユニークスの居場所を割り出そうとしても、うまくいかない。
影たちは、『どこからでも現れる』のだ。
幸いモンスター避けの結界がうまく働いているのか、都市内では現れていない。
が、それ以外ならどこでも出願する。
強いていうなら影となっている場所から浮かび上がるように出願するということまではわかっているのだが、どこの影からかはわからない。
というか、川底の影からゴブリンの形状の影が出現したこともある。
速攻で溺れていたが。
「アルリス、何か未来は見えないか?」
「申し訳ありません、オーマ様。私の未来視では何も……」
「そうか……」
となると地道に影を狩りつつ、何らかの手がかりを見つけるしかないか。
「時間は限られているっていうのになぁ」
このユニークスは十中八九、俺と同じ、多数の配下を操り、そこから経験値を徴収するタイプだ。
となるとこうして大量の影をばら撒いて、戦闘行動を行わせている状況はだいぶやばい。
一ヶ月もすればオーバードに到達するだろう。
それはユニークス単体の話ではなく、出現する影たちの話だ。
「地獄だな」
一国を滅ぼしうるモンスターが、何千何万とこのセントルシアに溢れかえる。
そんなもの地獄と言わずに何と言えばいいのか。
少なくとも人の住めない人外魔境と化すのは間違い無いだろう。
「ん?」
そんなことをぼんやりと考えながら影を討伐していると、人の悲鳴が聞こえた。
「行くぞ」
「はい!」
「かしこまりました」
「「イイッーーー!!」」
なんか戦隊モノの雑魚戦闘員みたいな返事をした分体どもはスルーして、その悲鳴の出所へと向かう。
一分もしないうちに、その場所についた。
そこには影のモンスターに襲われている馬車が。
「助けるぞ!」
俺は移動の勢いを乗せたまま、飛び蹴りをかます。
影のモンスターのうち一体が吹き飛んでいく。
アルリスとスカイも即座に攻撃に移った。
分体たちは、怪我をしている馬車の護衛の人たちに治癒を施している。
影のモンスターは瞬く間に殲滅された。
分体たちに周囲の安全確保を頼みつつ、馬車の御者の人に話を聞く。
「大丈夫でしたか?」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
何度も頭を下げる彼らを宥めつつ話を聞く。
どうやら彼らは、穀物を中央都市に届けた帰りに襲われたらしかった。
彼らのような商人は、都市の生命線だ。
故につけられている護衛も、相当な強さのはずだが……。
「俺たちがまるで歯が立たなかった。レベルにしては五百以上はあっただろうな。いやほんと、あんたらは命の恩人だ!」
「いえいえ」
この世界の流通はこのように商人の手を介して、主に馬車や、人力で行われる。
それができるのはアイテムボックスという代物があるからだ。
アイテムボックスは、インベントリと同様に異空間を内包し、内部の時間を遅くし、物資の持ち運びを容易としてくれる。
特に中に入る物の、種類を限定すればするほどその容量は膨大となっていく。
最高級品のアイテムボックスを、穀物の運搬に限定すれば、港湾の倉庫一帯の容量に匹敵するだろう。
それでも三千万人の市民がいる中央都市の胃袋を賄うためには、それを何百個も、下手したら何千個も必要だというのだから恐れ入る。
「しかし不味いなぁ。こうして穀物の運送に影響がでちまうと、都市民の胃袋にまで響いちまう。下手したら飢えちまうよ」
「そうですね。何らかの対策を都市が打たないと、そうなりますね」
商人の男性に俺は頷く。
「あんさん、最近有名なオーマって人だろう? なあ、報酬は払う。俺たちを衛星都市ハルデルまで護衛してくれねぇか?」
「構いませんよ。自分たちもちょうど都市に戻る予定でしたから」
というわけで商人の男性と共に、行動することとなった。
その道中で、俺は恐るべきものを目にする。
□
それは。
「冗談だろ……!」
影のホットスポット。
あるいは、影の噴出点。
モンスターが大量に生まれているところに遭遇した。
その総数、数万。
「な、なんだぁ、これは……!」
「本体、この人たちを連れて速くハルデルへ」
「お前たちはどうするんだ?」
「ここでモンスターを見張る。万が一動き出したら止める必要がある」
俺はインベントリから通信機を取り出して、それを渡す。
「何かあったら連絡しろ。そして無理に止めようと思うなよ。俺たちの強みは数だ。それを損耗することは避けたい」
「りょーかい。ま、せいぜい生き残るとするさ」
噴水のようにモンスターが溢れ出る場所を見ながら、オーマはポツリとつぶやいた。
なんとしてでも人々を守らねば、と。
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