第17話 懸賞金
「事態はひっ迫しています。何らかの対策を打たねば、この中央都市のみならず、セントルシア全域が途方もない被害を受けるでしょう」
「そんなことは分かっている。問題はどんな手を打つかだ」
階段状に机といすが並び、そこに議員たちが座っている。
その大勢の男たちの顔には、一様に緊張が漲っていた。
「影のモンスターか。それも徐々にレベルが上がっていく。出現から数週間で五百レベルに到達。数も増加傾向にある」
「流通にも影響が出始めていますね。このまま放っておけば中央都市に餓死者がでるかと」
口々に議員が案を出していく。
「かの『號級』たちに依頼するというのは?」
「あの者たちを迷宮から引きずり出すのか? 一体どんな手段で? 連中、中央都市が滅んでも、迷宮に籠り続けかねんような者たちだぞ?」
「他の地域や国家から、『號級』を招くのです」
「馬鹿を言うな。そんなことをすれば中央都市が落とされかねん。彼らは国家を滅ぼしうる存在なのだぞ」
「そう言った脅威度を差し引いても、他の地域の『號級』を頼ったとなれば、このセントルシアの『號級』との関係の冷え込みを疑われて、抑止力が減りかねない」
『號級能力者』はその地域にとって、核兵器のようなものだ。
いるだけで相当な抑止力になる。
逆に言えば、その存在とのかかわり方を間違えれば自らの領土を完膚なきまでに焼き尽くしかねない。
彼らとは細心の注意を払って、付き合っていくべきなのだ。
その点から言えば、他の地域の號級を頼るのは悪手であると言えた。
「ではフリーの號級をうちに引き込むというのはどうでしょうか? それなら軋轢はありますまい」
「一体どこにそんな伝手があるのかね? フリーの者たちには、地域に属さないだけの理由がある者だぞ」
地域に属さないいわゆるフリーの『號級』たち。
彼らとの連絡を取るのは至難を極める。
何せこの大陸はユーラシア大陸並みに広いのだ。
そこを好き勝手に飛び回る者たちを捕まえて、交渉の場を設けるというだけで相当な手間と時間がかかるだろう。
その間に自体が致命的に進行しかねないほどに。
「ぬぅ。ここはやはり懸賞金をかけるしかないでしょうな」
議員の一人が重めかしい口調で言った。
「號級に届かないまでも強力なプレイヤーたちは存在する。そんな彼らの競争意欲を煽るために、我々が一つしかけねばならないでしょうな」
懸賞金というのは、この世界では人だけにかけられるものではない。
モンスターにもかけられる。
特にその地域そのものを脅かす存在となると、極めて高額な懸賞金がかけられることもあるのだ。
「そうなりますなァ。となるといくらぐらいかけるべきか……」
「一億では利きますまい。プレイヤーたちの世界に金を持ち込むには百分の一になるそうですからな」
「そうですなぁ。となると……」
そうして会議は進んでいき。
正式な懸賞金が発表された。
その額、五十億。
リアルに換算すれば五千万。
しかもユニークスを撃破した者の総取りである。
これまでの歴史においても屈指の金額だ。
ソレを聞いた中央都市中のプレイヤーは、否、セントルシア外のプレイヤーもこぞって動き始めた。
『號級』を動かすには桁が足りないが、それ以下のプレイヤーであれば、充分動く理由になる。
大勢のプレイヤーが、影のユニークス狩りに総力をあげ始めた。
事態は明確に進行している。
その先に待ち受けるモノを知るのは、そう多くはない。
□
「五十億か……」
「五十億!? リアル換算で言うと、五千万!? た、大金じゃないですか!?」
「凄まじい額ですね。中央議会も本気ということでしょうか」
俺たちはその一報を衛星都市ハルデルで聞いた。
途方もない金額だ。
大勢のプレイヤーが参入することだろう。
この地域の安全度は向上するはずだ。
しかし……。
「厄介なことになりそうだな」
俺の不安は、的中するのであった。
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