第4話 模擬戦

「じゃあ、行きます」

「はい!」


 俺とスカイさんは、向かい合って戦闘を開始した。

 人格面に関しては問題ないと、俺もアルリスも感じた。

 パーティ入りに関しては俺は最初から好意的だし、アルリスも異論ないみたいだ。

 

 正式なパーティに加入し、お互いに親交を深める目的で、模擬戦をやることになった。

 天落術師という至天職とは一度戦ったが、あれは大人数で圧殺したまでの事。

 こうして至天職とタイマンでやり合うのは、いい経験になるだろう。

 

 ちなみに場所は、中央都市にいくつか点在する闘技場の一つだ。

 こうした場所で両者の合意があれば、お互いの生命力が尽きても死なずに、その場でリスポーンできる。


 スカイさんのパワードスーツ型パラダイム【世界最小の宇宙船ユニバース・エクゾスケルトン】が、背部のブースターを起動。

 音速で突っ込んでくる。

 しかし四百を超える俺のレベルとそれに見合ったAGIによって強化された動体視力と反射神経は、かろうじて彼女の姿を捉え俺に寸でのところで回避を成功させる。

 

「凄い! LV500以下なのに音速攻撃を避けれるなんて!」

「お褒めにあずかり光栄ですね」


 ドップラー効果で歪んだ少女の声を聴きながら、俺は思考を回す。

 彼女は速い。当然のように音速を超えている。 

 これで地上付近、つまりなんの強化も乗っていない通常状態だというのだから驚きだ。

 

 空中でUターンをしながら俺の元へと舞い戻ってくる少女、その手には、レーザーブレードが握られていた。

 某ダムのように常時展開されているタイプではなく、攻撃の瞬間だけ光刃が展開されるもののようだ。

 あれじゃあ、『物理無効』は意味がないな。機械製品だから『魔法吸収』もさほど役に立たない。


 攻撃を凌いで敵にしっかりと反撃を叩き込まなくてはならない。

 音速で動き回る相手に。


(相性が悪いな)


 再び光刃を振るう少女。

 大気が焼ける音が高速によって圧縮されて、奇怪な音を奏でる。

 しかしそれが聞こえるころには、攻撃はすでに終わっている。

 腕が斬り飛ばされた。

 軽い痺れに顔をしかめながら、俺は呟く。

 

「見事」


 腕を拾って再生を使ってくっつける、何て余裕はないか。

 闘技場を縦横無尽に移動する彼女は、確かに単独での宇宙飛行が可能であることを伺わせた。

 

「やられっぱなしじゃいられんよなァ!」


 全身から霧を噴出する。

 ダンジョンで手に入れた、『霧結界』というスキルだ。

 周囲に霧をまき散らし、相手の視界を塞ぐ。

 その上で自分は霧の中を細部まで把握できる。

 索敵と目封じを兼ねたスキル。


「目くらましですか!」

 

 さて。

 彼女はどう出るか。

 俺は複数のステルススキルを使用し、姿を消す。

 そしてアレを出しておく。


「そこですね!」


 彼女がアレを目掛けて飛び込んでいく。

 そして霧の中でエネルギーブレードを振るった。

 直後、爆発。


「きゃ!」


 『粘液:爆』によるデコイが上手く行ったようだ。

 俺自身はステルスで気配を消し、それによる違和感を消すために体温と同じ温度の粘液を人型にしておいて、出す。

 ソレに攻撃した瞬間に着火。彼女にダメージを……。


「多彩ですね!」


 与えられてねえわ。

 そりゃそうか。宇宙船っていうぐらいだから、防御性能も段違いか。

 これは攻め手が一気に絞られるな……。


「やぁぁぁーー!」


 可愛らしい声で飛びかかってくる彼女。

 無論声よりも彼女の方が速い。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」


 俺も雄叫びを上げて、突撃する。

 戦いはまだ始まったばかりだ。



 □



「強い……」


 十戦中十敗。

 それが俺の戦績だった。

 やっぱり『號級能力者』は強いな。

 彼女は自分のことを、その末席に名前を連ねているだけ。戦闘能力はさほどでもないと言っていたが、俺にはとてもそうは思えない。

 そう言うと彼女はオレンジ色のポニーテールをぶんぶんと振り乱して、首を横に振った。


「いやいやいや! 本当に私と他の方たちは、天と地ほどの戦闘能力の差があるんですよ!」

「ええ……。いや、確かに上位層はそんな感じだと思うけれど、平均値はスカイさんクラスじゃないのか?」

「とんでもない! 私がもっと上の高度で戦っても、普通に勝ち目のない人だってたくさんいます。流石に宇宙空間にまで出れば私も負けないと思いますけど……」


 ちなみに彼女の高度比例強化の上限は、彼女の名前通りカーマンライン。つまり高度百キロメートル。強化倍率は最大で五十倍だそうだ。数字が馬鹿みてえな値だ。

 今の五十倍強いのか……。勝ち目ないな。

 そもそも俺は宇宙空間に行く手段がないが。

 ……今はまだ。


「問題は一人乗りってことなんだよな」


 独り言めいた形で口から出てしまう。

 

「そうなんです。宇宙の凄さを知るまでは、自分だけが行ければいいと無意識に思ってました。けれど凄さを知ってからは、いろんな人をつれていきたいと思えるようになりました」

「願望の変化か。そう言えばスカイさんの到達深度ステージはどのくらいですか?」

「私は災異能力者ステージ5ですね。つまりこれ以上進化しないんですよ」

「そっか。となるとやっぱり【パラダイム】以外の手段が必要になってくるか。……俺の重力魔術みたいに」

「はい……!」

「そう言えば他の人たちには頼まなかったんですか? 例えば生産職の多い『バベル』の人たちとか」


 バベルとは、中央に存在する超古代文明の作り上げた巨塔を中心に発展している機巧地域の事だ。

 そこでは他の場所とは異なり魔術ではなく科学技術が発展している。エネルギーは魔力なので正式には魔導科学技術というようだが。

 

「それが、その……」

「言いにくいことならば言わなくても大丈夫ですけど」

「いえ、言わせてください。……基本的に『バベル』の人たちって、企業を中心に行動しているんです」


 聞いたことがある。軍産複合体という軍事力を持った企業がしのぎを削る場所だとか?


「それでですね。宇宙に行ける私を巡って、何回か騒動が巻き起こりまして……」

「ああ……」

「それが嫌で逃げてきたんです」

「なるほど……」


 『バベル』の企業勢力圏下では、こんな言葉がささやかれている。

 『あそこは金で人権を売買できると』。それだけ金銭至上主義なのだ。

 企業がお互いの利益を優先するあまり、彼女を巡ってバトルが勃発したってわけか。


「大変でした……。無断でウイングを盗もうとしてくる人もいれば、私を拉致してくる人もいましたし、脅してくる人もいました。もちろんそんな人たちばかりではないんですけど。それでもちょっと、しんどくなっちゃって」

「気の毒に」

「ですから、オーマさんに頼んだわけなんです。宇宙に行くことを」

「俺も行ってみたいな。宇宙」

「本当ですか!」

「ああ。一度でいいから無重力って奴を体感してみたい」


 そう言うと彼女はウキウキで宇宙の話をしてくれた。

 ためになるなぁ、と思いながら聞いていると……分体の一人が駆け寄っていった。


「大変だ! アルリスが攫われた!」

「何ィ!?」


 一体どこの誰が?

 どうやって?


「マッド・エックスの人間たちだ」

「なるほど」


 跡形もなく消し飛ばしてやる。

 

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