第11話 夜襲

「それじゃあ、泊まろうか」


 俺たちは都市へと戻って、用意した空き家に泊まることにした。

 この『ネオン・パラダイム』の世界は一日が二十七時間になっている。

 この地球との三時間のズレによって、昼にしかプレイする時間を取れないプレイヤーは夜の時間を、夜プレイすることしかできないプレイヤーも昼の時間を楽しむことができるようになっているのだ。


 自転とかどうなっているんだろうか、と疑問に思う者もいるが、大半は気にしていていない。

 ちなみにそこら辺が気になりすぎて、天体観測ばかりを行うギルドもあったりするらしい。

 いろんな楽しみ方があるなぁ。

 それはさておき。


「それで、アルリス。話って何だ?」

「オーマ様。私の未来視は三種類に分かれているのは以前話しましたよね」

「そうだな。そのうち二種類は何か教えてくれたな」


 一つは任意発動の数十秒間の未来視。

 もう一つは二択を与えられた際に、どちらがいいかがわかる超直感

 最後の一つについては知らない。

 彼女からしゃべってくれるのを待つことにしていた。


「最後の一つについて、お教えいたします」

「いいのか?」

「はい。信じていただけるかはわかりませんが」

「信じるよ。仲間だろ?」

「……ありがとうございます、オーマ様」


 柔らかくほほ笑む彼女を見ながら、話してくれるのを待つ。

 彼女は深呼吸を一つしてから、意を決して話し出した。


「私の最後の未来視は、数時間以上先の危機的状況を知ることができるという未来視です。ただし、この力は自分の意思で発動することはできません。そして全ての危機を見通せるわけでもありません。読み逃すこともありますし、いつ頃起きるのかもわかりません」

「……でも今回話してくれるってことは、見えた上で、いつ起きるのかわかったってことか」


 そう問いかけると、彼女はコクリと頷いた。


「時間は恐らく数時間先の夜。場所はこの空き家。アンチスレ連合の者たちが、襲撃をしに来ます」

「またか。しつこい連中だなぁ、本当に」


 そう溜息をつくと、少女は少し頬を緩めた。


「やはり、信じてくださるのですね」

「そりゃあな。アルリスが無意味なウソをつく相手じゃないってことは分かっているし」

「ふふふ、ありがとうございます」


 そう彼女は微笑む。

 

「さて、それならそうと気づかれないように迎撃準備をしないとな」

「そうですね。スカイさんはどうしますか?」

「スカイに関してはご飯食べにログアウトしているから、帰ってきたら呼べばいいだろう」


 ちなみに地球の日本時刻はお昼である。

 俺もついさっき飯を済ませたばかりだ。

 そう言えばそろそろ春休みも終わりか。一応新しい学校に備えて、自主勉強をしているが、それはソレとして少し浮ついたような気分になる。

 

「気分良く新学期を迎えるためにもアンチスレ連合の連中には、俺の糧となってもらうか」

「そうですね。そうなって頂きましょう」



 □



「全員、配置についたか?」

『ああ』

『いつでも行けるぜ』

『問題なし』

『あのヤロウをぶっ殺してやる』


 夜襲者のリーダーは、ほくそ笑む。

 相手も当然、夜襲を警戒しているだろう。

 しかしそれでも昼間と比べれば自分たちに割けるリソースは減っているはず。

 故に、彼らは万全の態勢を整えてきた。


「今日というこの日が、あのオーマの失墜の日となる」

『記念すべき一日だな』

「そうだ。終わったらオフ会でも開いて、皆で祝おうじゃないか」

『そうしようぜ!』

『いいね!』


 そんな呑気なことを言う彼ら。

 故に気付くのが一瞬おくれた。


『何だ?』

「どうした?」

『…………』

「おい? 何があった?」


 通信は返ってこない。

 故障かと一瞬疑ったが、それよりも可能性が高いことがあった。


「まさか、気付かれたか!?」


 彼らのジョブは皆、『夜襲者』だ。

 夜間の行動に補正がかかるスキルと、夜間の奇襲に大幅な威力補正がかかるスキルを持っている。

 ソレと同時に、夜の間は知覚能力が向上し、そのため索敵範囲も向上する。

 だから彼らは夜襲に選ばれたのだ。

 万が一相手に気付かれたとなれば、即座に撤退できるがゆえに。

 しかし。


「何が起きている!? 誰か、報告しろ!!」

『逃げ——』

『ギャっ』

『ひぃぃぃ!!』


 既に夜は彼らの時間ではない。

 オーマの時間だ。


「クッソ、撤退だ! 撤退を——」

「させねえよ」

「なっ」


 リーダーの目の前にいたのは、オーマだった。

 

「残るはお前だけだな。チクチクと面倒な真似をしやがって。スキルを手に入れるだけじゃあ、割に合わんぞ」

「ま、待ってくれ! 俺は手を引く! だから見逃してくれ!」

「……」


 土下座の姿勢を取るリーダーに、オーマは押し黙る。

 その姿に、リーダーはほくそ笑む。

 この隙をついて——。


「舐めるなよ」

「え」


 ドスリと、背中に何かが突き刺さる。


「ぎいっ、が」

「俺の持っているスキルの中には嘘を見抜くスキルもあるんだよ


 正確には強化された五感が、相手の身体情報からウソを見抜くってだけだけどな、と言うオーマ。


「それにそんなものが無くても、お前たちは逃がさないさ。俺は売られた喧嘩を買わずにいられるほど、大人しい人間じゃないんでね」

「ぎ、がぁ……」


 肺を潰したため、窒息の苦しみが体を襲っているのだろう。


「お前らみたいな人の足を引っ張るしか能のない連中は、こうしてこまめに殺しておくに限る。雑草のようにしつこく生えてくるからな」

「誰が、……雑草だ……」

「おっと、失礼。雑草に失礼だったな」


 そのまま粘液で肉体を包み込み、スキルを獲得する。


「それじゃあな。せっかくだから俺にスキルを献上してから死んでくれよな」

「ごぼぼぼぼぼ……」


 そうして夜襲を仕掛けた者たちはあっさりと全滅した。

 以降も何度か襲撃が行われたが、その全てが、例外なく、全滅していった。

 オーマの持つ多彩さと分体の量、そして彼らの個々の戦闘能力の質には、アンチスレ程度の連中では敵わないのだ。


 そんなボロ負けのアンチスレ連合の面々がしびれを切らすのは、さほど不自然なことではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る