第9話 重力術師

『ネオン・インフォメーション・ネットワーク! 略して~!』

『NIN!』

『さて、今最もホットなニュースは~!』

『もちろん、重力術師の発見だよね。全プレイヤーっていうのは言い過ぎかもしれないけれど、結構な人はこれを探していたんじゃないかな?』

『そうですよねぇ。装備重量緩和とか、空中機動とか、いろんな方面で利用できそうですよねぇ。そしてなんとそれを見つけたのがぁ!!』

『オーマさんなんだよねぇ。彼は凄いね。初めてまだ二週間と少しじゃないかな? それで新ジョブ発見って。運と実力、両方に恵まれていないとできないよ』


 そう。

 俺は結局『重力術師』の情報を公開することにしたのだった。

 これには理由がいくつかある。

 一つ目は、所属している三つの生産ギルドに貢献したかったこと。

 重力魔術は、色々な場面で役立つだろう。例えば装備重量を、かかる重力を緩和することで底上げしたり。飛行術式を使ったり。

 俺の奥の手なんかをさらに強化することもできるだろう。

 ソレを俺の所属している三つの生産ギルドを通して、世間に流すことで彼らに恩返ししたかったのだ。


 二つ目は手札の開示によるこれから戦う相手への牽制だ。

 最初は秘匿しておいて切り札として運用することも考えたのだが、人前で使わないことを選ぶには、重力魔術は便利すぎるのだ。

 だからこうして手札として開示して、相手の意識を縛る方向にシフトすることにした。

 相手は常に空に向かって真っ逆さまに堕ちることを警戒しなくてはならない。

 これだけでかなり相手の思考のリソースを奪える。

 それだけでなく、重力方向を数十度傾けて、いきなり坂道を上っているように錯覚させたりするだけでも、相手の混乱は必至だろう。

 だから開示することにした。

 どのみち俺は手札を無限に増やせるし、奥の手はもっと作ればいいだろう。


 三つ目は、アルリスさんの存在をごまかすためだ。

 人々は新ジョブの存在に湧きたっていて、彼女の存在を見過ごしている。

 このままいけば、彼女を都市で知り合った冒険者であると誤認するだろう。

 彼女の身の安全のためにもこれは外せなかった。

 そんなわけで、俺は情報を公開することにしたのであった。


 ちなみに重力術師には、誰でもなれる。

 条件を満たしていて、なおかつ特殊エリアである浮遊島の最奥のモノリスにたどり着くことができれば。

 

 特殊エリアは、一度踏破されると迷宮と繋がるのだ。

 現時点てもクリア者は出ているらしい。かなり少ないが。


「ひゃー、アンチスレ立っている」


 ネットの掲示板を見ると、俺のアンチスレが立っていた。

 何が楽しいのかねぇ。

 嫌いなものに心血を注ぐよりも、好きな物に没頭したり、広めたりする方が人生を有効活用できると思うのだが。


「あ、家族への殺害予告だ。通報しとこ」


 ライン越えをしているレスを通報しつつ——時代が進んだことで、ワンクリックで警察に通報できるように、掲示板に機能が追加された。それでも殺害予告をする奴などは後を絶たないらしい——、俺は掲示板を閉じる。


「いやー久しぶりにリアルに帰ってきた感があるなぁ」


 睡眠、食事、運動。あとトイレ。

 それ以外は常にゲームだったからな。


「あんまり根を詰めすぎるなよ。お前は何事も熱中しがちなんだから」

「分かってるよ父さん。高校の予習とかもそろそろ始めておくよ」

「そう言えば、ユウマ。『ネオン・パラダイム』って儲かるんでしょ? いくらぐらい稼いでいるの?」

「うーん、現時点で十万ぐらいかな」

「「もうそんなに!?」」


 分体たちが一杯素材を取って、生産ギルドの人たちが高値で買い取ってくれるおかげで、俺はかなり儲かっていた。

 現実との貨幣のレートは百分の一なので。ゲーム世界ではすでに最低でも一千万稼いでいることになる。

 まあ、一万人いるからそのぐらいはな。


「そのお金はユウマが稼いだものだから、ユウマが使うべきだが、変なことに使うなよ? おすすめは貯金だな」

「あら、ユウマのことよ。もう貯金してあるに——」

「ごめん、半分ぐらい使っちゃった」

「「何に?」」


 こえーよ。


「お世話になったコーチとか、後輩たちへのプレゼント。いっぱいいるから、高めのお菓子とか買うだけでも、結構かかっちゃってさ」

「そう言うのはお母さんたちに言ってから買いなさい。いいわね」

「はーい」


 うちの両親は放任主義だが、こうした部分はキッチリとしている。

 他にも多忙な両親だが、週に一度は必ず食事を一緒に食べるようにしているのだ。

 ありがたいことだね。


「しかしゲームも上手かったとはな。何でもできるなユウマは」

「友達ももっと作ってくれると、心配しなくて済むんだけどねぇ」

「むー、努力します」


 そんな感じで他愛ない会話をしながら食事を終える。

 

「じゃあ、ゲームしてくるわ」

「徹夜もほどほどにしておきなさいよ」

「はーい」


 そう言って二階に上がっていく。

 ベッドへとゴロンと転がり、呟く。


「『パラダイム・シフト』」


 そしてゲームの世界に飛び込んで——。


 俺を出迎えたのは三メートルあるパワードスーツだった。


「え」


 そこからぴちぴちのダイバースーツめいたモノを着た美少女が飛び出してきた。


「え」


 オレンジ色のポニーテールを揺らして、美少女は言った。


「私と一緒に宇宙に行きませんか!!」


「ええええええええええ!!!」


 一体何が始まるっていうんだ!?



―――



あと一話で二章完結です。

お読みいただきありがとうございます。

三章は十月上旬には更新したいと思います。


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