第10話 千年、焦がれた。

「ここで眠れ——、災禍の魔女よ!!」


 そうして、私の意識は暗闇に閉ざされた。

 後はずっと、暗闇の中で一人泣き叫ぶ日々。

 寂しかった。怖かった。狂うこともできなかった。


 千年。想像できるでしょうか。

 きっとできない人が大半でしょう。

 耐えられる人がいるでしょうか。

 狂ってしまう人が大半でしょう。

 

 でも狂えなかった。

 私は最後に希望を見たから。

 

 本当は、私は数十秒先じゃなくてもっと先の未来も見える。

 脳裏に閃くように、景色が見える。それは制御できず、そして確実に当たる。

 何度も厄災を見た。

 そのたびに周囲の人に言った。

 言ったばかりの頃はうそつき呼ばわりされて、実際に厄災が起きればお前のせいで起きたのだと怒られ、疎まれ、恨まれる。


 苦しい。

 悲しい。

 そんな、それだけの人生。


 でも見えてしまいました。

 私を助けてくれる人を。

 私を癒してくれる人を。

 私を抱きしめてくれる人を。


 それだけをよすがに、千年待ちました。


 何度も狂って意識を手放そうとした。

 

 何度も諦めて永遠の眠りにつこうとした。


 それでも、諦められなかった。


 あなたの笑顔はとてもまぶしくて、目がくらむほどで、心が洗われるほどだったから。


 でも時を経るにつれ、それも幻なんじゃないかと思えてしまった。

 私の能力が見せた最初で最後の慈悲。

 あるいは、最期の悪意。

 狂いたくても狂えない。

 そんな地獄に叩き落とすための物だと。


 疑って、そのたびにそんな自分を責めて。

 また疑って、苦しんで。

 苛立って。

 何度もこんな希望、捨ててしまおうと思った。

 まやかしだと、酸っぱい葡萄のような物だと。

 

 それでも捨てられなかった。


 私はアナタに。

 かすかに見えたアナタに、『 』をしていたから。


 そしてその時はやってきた。

 私の意識を、それまで感じたことのない清浄な光が包み込んだ。


 あなたに。


 私がどれだけ嬉しかったか、分かりますか。


 あなたに。


 私がどれだけ泣いたか、分かりますか。


 でも少し不安だった。

 私が見たのは彼が私を解放してくれる瞬間までだ。

 その後どんな目に遭うのかは分からない。

 

 けれど全てを捧げようと思っていた。

 それで構わないと思っていた。


 けれど彼はソレを笑って拒否した。

 もっと自分の体を大切にしてくれ、と言ってくれた。

 

 信じられなかった。

 微かに疑ってしまった。

 何か裏があるのではないかと。

 そう思ってしまった。


 いつも裏切られて、何度も殺されかけて、最後には永遠に一人ぼっちになってしまったから。


 でも。

 彼は。





 そんな私を。

 

 笑って、許してくれた……!




 話してくれるまで、待つって言ってくれた!!




 私を、抱きしめてくれた!!!



 

『私は、貴方を、オーマ様を、『 』してます』



 いつか、そう言える日が来るまで、私は彼にふさわしい人になろうと決めた。


 さあ。

 今日も彼に会いに行こう。

 愛しい分体さん達も、とっても気さくで、優しいけれど。

 やっぱり彼は、ただ一人だと思うから。


「オーマ様! おはようございま……、え」


 彼は、体にぴったりと張り付くボディスーツを着た少女に詰め寄られていた。


「え」


 え。


 

 

 












 あの女は何者ですか?




―――

三章書き終わったので、明後日から隔日更新したいと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る