第三章 空の彼方からの来訪者
第1話 スカイ・カーマンライン
オレンジ色のポニーテールを揺らす、ぴっちりとしたスーツを着た少女の名前を、スカイ・カーマンライン。
彼女の名前を知らない『ネオン・パラダイム』プレイヤーはいない。
なぜなら彼女は、この世界でただ一人、宇宙に到達したプレイヤーだからだ。
彼女の名を知らしめたのは一つの配信だった。
『みなさーん!! 私は、今!! 宇宙に居まーす!!』
その配信は最初は偽装であることが疑われた。
しかし『ネオン・パラダイム』運営公式が、それを否定。
彼女をゲーム内の八つの分野の内の一つである、『開拓』ランキングの十位に任命。
彼女は名実ともに、この世界で初めての宇宙飛行士となったのだ。
では、どうやって?
その答えはシンプル。
【パラダイム】だ。
「これが私の【パラダイム】、【
『以後お見知りおきを。オーマ様』
そう言って一例をするのはオレンジ色のパワードスーツだ。
ソレはそのまま巨大化すれば、アニメとかに出てくる巨大ロボと言えるようなデザインと武装をしていた。
「紹介ありがとう。それで、俺と宇宙に行こうっていうのは?」
「はい! 私、なるべく多くの人に宇宙を体感してもらいたいんです!!」
「宇宙には、夢があります。重力の軛がありません。誰もが自由になれる場所なんです!! だからどうか、私と一緒に宇宙に行ってください!!」
真っ直ぐだ。
そして端的だ。
「行くのは吝かじゃないけど、それよりもうちょっと身の上話を聞かせてくれない?」
推測が正しければ、俺と彼女は同じ類の悩みを抱えているはずだ。
俺の胸元辺りまでしかない彼女の身長を見ながら、そう思う。
「良いですよ! 何でも聞いてください!!」
「じゃあ、言いにくいことかもしれないけれど、聞かせてくれ。どうして、その【パラダイム】なんだ?」
「え」
「言いにくいことならば、言わなくていい。けれど、できるのならば聞かせてほしいんだ。俺と似た悩みを持っているかもしれないから。もしそうだとしたら、是非とも協力したいんだ」
「……わかりました! お話します。けれど、あんまり他の人には聞かれたくないので、ギルドの個室を借りてもいいですか?」
「分かった」
夕食を食べるためギルドで一時的に、ログアウトしていた俺はギルドの職員さんに言って、個室を借りる。
「私も同行していいですか?」
「彼女はアルリス。俺のパーティメンバーだ。彼女もいっしょに聞いていいかな。ちなみに口は堅いから安心して欲しい」
「大丈夫です! それではどうぞ」
なんか、アルリスの目が、ちょっと光を失っているような?
というか、何か怖い。
ちゃんと微笑んでいるはずなのに。
「俺たちは外で待機しておくぞ。タイミングを見計らって突入するから、話が落ち着いたらテレパシーで知らせてくれ」
「使えねえだろ、テレパシー」
そう分体に突っ込みを入れながら、俺たちは個室に入る。
いつか使えるようになりたいな。テレパシー。便利そうだし。
「それじゃあ、早速お話しますね。私の話を」
「私の身長、アバターもリアルも同じなんです。どうも動きの違和感がぬぐえなくて、この世界でも同じ身長にしました」
「だいたい145cmです。……宇宙飛行士に身長制限があるのは知っていますか? 上は190cm。下は149・5cm。……私の年齢は言えないんですけど、ここ数年は成長していません。つまり、私がリアルで宇宙飛行士になれる可能性は絶望的であるということです」
「身長制限がある理由は、宇宙服です。小さすぎるとサイズが無いんですよ。……私は、子供のころから宇宙に憧れていました。輝く星に、浮かぶ月に、ない大気に、無重力に。だからこの世界に来た」
「もしかしたら、このリアル過ぎる世界ならば、宇宙に行けるかもしれないから。……そしてこの子、ウイングが私のパラダイムとして目覚めました。最初は普通の、気密性の高い飛べる鎧程度だったんですが、進化していくにつれて、徐々に高性能になっていきました」
「こんな言葉を知っていますか? 『
「私にとって、このウイングは無くてはならない。どこまでも高くに飛んでいける。そんな夢のような装備。私の翼。私の望みが生み出したモノ。これが私の【パラダイム】が生まれた理由です。そしてこの子は、私を宇宙に連れて行ってくれた」
「夢のような時間でした。体も、心も、ふわりと軽くなって。世界はこんなに広いんんだって思えたんです」
「そして思いました。世界にはこんな場所があるんだって知ってほしいって。いろんな人にこの心地よさを体感して欲しいって」
「宇宙に気軽に旅行できるようにしてみたいんです!」
「お願いします!! どうか私と一緒に宇宙に行ってください!! 宇宙に行くために力を貸してください!!」
俺は考え込む。
「だめ、ですか?」
上目遣いをする少女。整った顔立ちだ。並みの男ならこれだけでホイホイ頷くかもしれない。
しかしそんなことよりも、俺には一つの思いがあった。
「同じだ」
「え」
「俺も同じだ。カーマンラインさんにばかり話させるのは、フェアじゃないから。俺もしゃべろう。俺の来歴と、何でこのパラダイムになったのかを」
「どういうことですか?」
「俺もリアルじゃあ、アナタと同じぐらいの身長なんですよ」
「え!」
少女は驚く。
「そ、それじゃあ、貴方も?」
「宇宙飛行士じゃないですよ? でも俺にも同じように夢がありました。トップアスリートになるっていう夢が」
「そう、なんですか」
「はい。世界で一番のアスリートです。でもそのためには体格に恵まれることが必須だ。けれど俺にはその体格が足りなかった」
俺は自分の手のひらを見つめながら語る。
「誰よりも努力した! 誰よりも真剣だった! 胸を張ってそう言える! けれど届かない! 身長のせいで……」
自分より数段技術の劣る人間に負ける。そのたびにがむしゃらに練習する。
それでも届かない。
そんなことが当たり前になって、当たり前になってしまうことが嫌で。俺はすっぱりと夢を諦めた。
こぶしを握り締める。強く。
「それでも俺は頂点に立ちたかった。世界の頂点に……。だからこの世界に来ました。この世界でならば、体を動かすことで世界の頂点に立てる」
拳を開いて、彼女に差し出す。
握手を求めた。
「手伝いましょう。あなたの夢を」
「はい! ありがとうございます!!」
「ちょっと待ってください」
待ったがかかった。
アルリスからだ。
「お互いにパーティを組むのは良いと思いますが、一度クエストを受けてみるのはいかがでしょうか。お互いに同じ夢を抱いていたとしても、気が合う相手同士とは限りません。互いの人となりをもう少し知ってから決めてもよろしいのではないでしょうか。それに、お二人はこれから膨大な夢に挑まれるのでしょう? 互いに途中で仲たがいをしてしまうなんて悲しいではないですか。ですので私としましては、オーマ様と、スカイさんは、一度本当に気が合うか試してみるべきです」
怒涛の早口だった。
でも分かりやすかった。
「確かにそうだな。一度クエストを受けてみましょうか」
「はい! アルリスさんも、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いしますね。スカイさん」
彼女はにこやかだった。
けれど、どうしてだろう。
目が笑っていないように思えるのは。
そう思った直後だった。
ガラリと扉があく。
「やはり、クエストか……。いつ出発する? わたしも同行する」
「分た院」
そのネタやるためにスタンバってたの?
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