第2話 『流体術師』
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『流体術師』
肉体に触れている液体、もしくは体液を自在に操り、攻防に活用する。
扱いが難しい、玄人向けの中級職
就職条件
・水属性魔術を使用できること。
・体液・もしくは自身に纏わせた液体で、敵を撃破したことがあること。
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「中級職は二つ目か」
俺はスカイさんとのクエストに同行する前に転職をしに来ていた。
この世界におけるジョブとは、そのジョブに内包されたスキルを活用した経験によってジョブごとの経験値が溜まり、レベルが上がっていく仕組みだ。
そのレベルは初級職が五十、中級職が百、上級職が二百。至天職が五百ということになっている。
このレベルをカンストさせることで、次のジョブに移ることができるのだ。
もちろん俺は分体の経験もジョブ経験値に換算されるので、分体の経験だけ、ジョブ転職のスピードが速くなっていく。
うーん、相変わらず分体と変身のシナジーはチートだな。
これは普通のゲームなら垢バン、もしくはナーフを喰らっているだろう。
しかしこの『ネオン・パラダイム』は、どんなぶっ壊れ【パラダイム】であっても、ナーフはしない。もちろん垢バンもない。
一応悪質プレイヤーが死ぬと、重いデスペナルティとして、『コキュートス』という懲罰サーバーに送られるようなのだが、そこでもゲームは楽しむことができる。
というかセントルシア並みに巨大な大迷宮があり、それ目的に行く人間も少数ながら存在しているそうだ。
俺は行きたくないな。少なくともこの世界を楽しみつくしてからの方がいい。
このゲームは決してプレイヤーを拒むことはない。
自ら去るモノを追うこともない。
……そんなんだから、仮想実験場とか、本当は異世界とか言われるのだ。
「オーマさん。終わりましたか?」
「はい。それじゃあ行きましょう。迷宮に潜りますか?」
この近辺でクエストと言ったら、迷宮内の素材を取りに行くということが多い。
というかほとんどだ。
何せこの都市は迷宮によって、資源も、エネルギーも成り立っているのだから。
だから俺の提案は、至極自然なモノだったのだが……。
「そのぉ、実はですね。私、高度に比例して能力を向上させるスキルを持ってまして……」
「? あ、まさか」
「はい。地下に潜ると弱くなっちゃうんです。すいません……」
「なるほどぉ」
そう言うプレイヤーもいるのか。
確かに居そうだな。パラダイムによってプレイスタイルが限定されるプレイヤー。
「じゃあ、都市外のクエストにしますか?」
「良いんですか!」
「構いませんよ」
「じゃあ、それでお願いします!」
そういうことになった。
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「アルリス、どんなクエストがいいと思う?」
彼女が教えてくれた能力の一つに超直感というモノがある。
感覚的なものだが、二択を出された時にどちらが優れているか分かるようになっているようなのだ。
「…………こちらですね」
そう言って彼女が選んだのは、都市近辺の森林での討伐依頼だった。
「ここがスカイさんとオーマ様の相性を計る、絶好の場所となるかと」
「そんなことも分かるんですか! 凄いですね!」
「……ただの勘ですよ」
スカイさんには、アルリスはNPCであることは伝えている。
ただ、少し特殊な事情があるとだけ言って、事情は伏せさせてもらった。
「じゃあ、行ってみようか」
ということで、外に出て分体たちが稼いだ金で購入した馬車の車体部分に乗り込む。
「私が牽きましょうか?」
「いや、その心配はいらない。おーい、分体!」
「はいよ!」
分体の一人が変身する。
変身後の姿は、一体の馬だった。
大きな馬だ。人が一人でまたがることはできないぐらいにデカい。脚立が必要な大きさだ。
「『ジャイアント・ホース』になれるんですか!?」
「まあね。俺のスキルは分体を作って、色々と変身させることができるんだ」
「凄いですね!」
「……」
「どうかした? アルリス」
「何でもないですよ?」
目が笑っていないなんてこともなく、普通の笑顔だ。
それもかなり嬉しそう。
どうかしたのだろうか。何でもないということは何でもないということなのだろうか。
「それじゃあ、行きましょっか!」
「そうですね」
そうして分体たち十人と共に、馬車に揺られること数時間。
俺たちは森へと到達していた。
「ここがカルドの森か」
この森は中央都市近くの衛星都市にとって、建材を手に入れられる場所となっているらしい。
なので、この森の安全性はかなり重要だとか。
ソレを守るために定期的に討伐依頼が発行されるようだ。
ただし人気はない。
プレイヤーは迷宮に潜る。なのでここは、基本的に冒険者のNPCが狩りをする場所となっているのだった。
当然冒険者になろうという酔狂なNPCは限られるので——NPCは一度死んだらそれっきりだ——狩場の人気は低くなっている。
アルリスがここを選んだのも、それらの情報を加味しての物かもしれない。
「着きましたね!」
「そうですね。それじゃあ早速狩りと行きましょうか」
「はい!」
「オーマ様。スカイさん。ここでは、なるべく近接で戦ってください」
「わかった」
「分かりました! でも何でですか?」
「勘です」
「なるほど……。了解です!」
あっさり納得してくれる彼女。
というわけで俺たちは近接をメインに戦うことになった。
「『武装格納庫:解放:魔力駆動式鎖鋸』」
そう言って彼女が、中空に展開された魔法陣から取り出したのは、巨大なチェーンソーだった。
その刃は、魔力のきらめきを帯びている。
「それは?」
「私の武装の一つです! ウイングは、武装格納庫のチカラも持っているんですよ」
「それも【パラダイム】なんですか?」
「いえ! これは、『鉄火重工』の人たちが作ってくれた、装備品です。一応ユニークスの素材を使用して、なおかつ『再帰』のエンチャントがかけてあるので、【パラダイム】みたいに、完全に破損しても元に戻りますけど」
『再帰』とは最高級エンチャントの一つだ。
武装が跡形もなく木っ端みじんになったとしても、一定時間が立てば自分の手元に、新品同様の姿で戻ってくるのだ。
これは呪いの武器から派生したエンチャントらしい。
副次効果として、自動修復機能も持っていることから、プレイヤーの間で非常に人気の高いエンチャントだ。
「さすがは『至天職』についているトッププレイヤーの一人。装備も最高級品ですね」
「えへへへ。ありがとうございます」
「俺もいつか『再帰』エンチャントを自分の武装にかけてみたいものです」
「? オーマさんは生産職もやられているんですか?」
「はい。分体たちがやってくれています。ジョブにはまだつけていないですが……」
そんな感じの雑談をしながらモンスターを狩っていく。
お互いに一切モンスター相手にはてこずらなかった。
彼女はレベルが高いし、俺には分体が、アルリスには未来視と勇者のジョブがある。
そしてこの迷宮都市近辺のフィールドのモンスターの戦闘能力は低い。
なぜなら遥か昔に、低階層のモンスターが、野生化したのがここら辺のモンスターの祖先だからだ。
というわけで千切っては投げ、千切っては投げを繰り返していると……。
「? どこかから声が……」
「何でしょうか? 行ってみましょう!」
「そうですね。要救助者かもしれませんし」
というわけで現場に急行する。
するとそこには……。
「離せ! 離せよ!」
「良いからついてこい! お前に人権はねえんだよ!」
NPCに絡んでいるらしきプレイヤーがいた。
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