第二章 世界に降り立つ者

第1話 初めての転職

 俺は、大陸中央迷宮都市『セントルシア』に降り立った。

 そこはチュートリアルエリアの街、ファーストとは比べ物にならない熱気と人が存在していた。


「すげぇ」


 初期リスポーン地点と思わしき、噴水広場から街を見回す。

 まず人の量が違う。そしてプレイヤーの選択できない異種族、獣人やエルフなどを多く見かける。NPCだろう。

 そして現代的な街のように歩道と車道がくっきり分かたれており、車道では馬車や車、そして戦車すらも走っている。

 人が行きかうのは何も道路だけではない。屋根を忍者のように行きかう恐らく、高レベルプレイヤーが大勢いる。

 

「この街並みだけでゲーム一本作れるぞ……」


 さすがはプレイ人口一億人超えの最強ゲーム『ネオン・パラダイム』。

 その舞台である大陸における、最大の都市。

 ここが『セントルシア』か……。


「っと、観光は後回しにして、今はジョブだな。モノリス、モノリスっと」


 俺は遂に新しいジョブに就くことができるようになった。

 チュートリアルエリアではジョブの転職ができないのだ。

 とっくに『格闘家』のジョブをカンストさせているというのに転職できないというのはなかなかもどかしかった。

 しかしそれも解消される。


「お、あった。モノリスだ」


 俺がついたのは教会のような場所だった。

 しかしここは神への祈りを捧げる場所ではない。

 ジョブを変える場所なのだ。

 扉をくぐると、神秘的な巨大な黒柱が立っていた。

 

 その前に備え付けられた椅子に大勢の人が座って、目を閉じている。

 ジョブを選んでいるのであろう。

 俺も彼らに倣って早速ジョブを決めよう。

 適当な椅子に座って、目を閉じる。


 それだけで意識は別の空間へと誘われる。

 

「白っ」


 真っ白な空間だった。

 そこに俺の体とホロウィンドウだけが存在している。

 

『ジョブを選択してください。


初級

剣士 槍士 槌士 重剣士 軽剣士 弓手 射手 魔術師 死霊術師 儀仗兵  治癒術師 付与術師 暗殺者 疾走者 狂戦士 錬金術師 鍛冶師 薬剤師 

大食漢 


中級

一連隊 流体術師 魔砲師 全身凶器



 □


「結構いろんなジョブに就けるな。まあ、あんだけスキルを持っていたら当然か」


 ジョブの就き方というには条件がある。

 初級職はほぼ無条件で就ける。ほぼ、というのは剣を一度も握ったことのないのに剣士には成れない、といった程度のものだ。

 逆に言えば、剣を握ったことのある者ならば誰でも初級職の『剣士セイバー』に付けるということでもある。

 他のジョブも似たような感じだ。


 対して中級職以上は、前提となる条件が必要となってくる。例えば『魔砲師マジカル・カノン



 ■



魔砲師マジカル・カノン


遠距離攻撃魔術に特化した魔術師。

魔術を砲弾に見立てて射出する。その火力は中級職の中でも随一である。


前提条件


・魔術スキルの獲得。

・ボスモンスターに攻撃魔術で一定ダメージを与えていること。


 ■



 こういった感じだ。

 この条件は上位のジョブになればなるほど厳しくなるらしい。

 中でもレベル五百に到達していることが最低条件である『至天級職』はどれもこれも、頭おかしいんじゃないのか? とかいう条件ばかりらしい。

 パラダイムの補助がなしではクリアできないような条件ばかりだろうから、『至天級職』は一人につき基本的に一つとなっているのが通例だそうだ。

 まあ、俺の場合は複数取れる可能性があるけれど。


 さて。それはさておき。

 

 今回俺が取ろうと思っていジョブは決まっている。

 その名前を『全身凶器』。物騒な名前だが、俺とのシナジーは本物だ。

 


 ■


全身凶器フルアームズ・ボディ


肉体に備わった生体武装(爪・牙・尾など)に応じた戦技を獲得できる。


前提条件

・肉体に武器となり得る物があること。

・格闘家をカンストしていること。


 ■



「ピッタリだな」


 この『全身凶器フルアームズ・ボディ』は、人間が就く分には、持久力と投擲力が強化されるに過ぎない。

 なぜなら人間の爪も牙も武器とはなり得ないからだ。

 しかしこれを竜人や獣人などの強靭な牙や鋭利な爪、あるいはブレスを吐けるものが就けば、それらの生体武装から繰り出す攻撃を戦技化し、強化してくれるのだ。


 もしそんなジョブを、喰らったモンスターに変身できる人間?が就いたらどうなるだろうか。


「それは今後のお楽しみってね」


 ジョブが決まったので速やかに、モノリスを出る。

 それではそろそろ一極集中させておいた俺たちの分体を解き放つか。

 こうして分体をかき集めておいても俺の強みが失われるからな。それに分体を一極集中させても、『合体』スキルを使わない限りステータスは上がらないし、上がったとしても街中で暮らすにはデカくなりすぎてしまう。


 というわけで、俺は分体を少しずつ解き放つことにした。

 こうすることで、俺は常人の一万倍の速度で経験を積むことができるというわけだ。


「なんだ?」

「めっちゃ増えてる!」

「パラダイムか?」


 人が集まってくる程度には、増え続けている俺たち。

 なるべく一か所に固まらず事前に決めておいた目標を目指して移動をさせる。

 一応『合体』なしで一極集中させておくメリットに、意思疎通がスムーズになるという点がある。

 何せ記憶と思考を一極集中させている間は、共有しているのだから。

 まあ、それも分体を分かつと持続しないが。


「よーし全解放完了だ」


 今回俺は分体を二つの班に分けるつもりだ。

 一つは迷宮探索班。

 もう一つは都市待機班。

 これは一万人をまとめて迷宮に放り込むと、万が一のことがあった時のために対応できないという点と、今後生じるであろう軋轢に対応するためという点がある。


 冷静に考えてほしい。

 一万人の人間がたった一人の人間の意思に従属しているって、かなり恐ろしくないか?

 そんな連中がただ迷宮探索に邁進しているのは、何か軋轢を生むと思うのだ。

 例えば狩場の重複によって迷惑をかけてしまうかもしれないし、人より一万倍速く強くなる俺に嫉妬して何か事件を起こされるかもしれない。


 そんなとき、ただ迷宮探索にのみリソースを注ぎ込んでいると、悪評が立った時には巻き返しができない状態に陥っているかもしれない。

 そうなるとこの都市を出ていくか、迷宮のみに籠り続けるほかなくなる。

 ソレは嫌だ。

 俺はもっとこのゲームを楽しみたい。せっかく一万体に増えたんだから、一万倍楽しみたい。


 だから残り半分は都市で待機させる。

 待機している間は、生産系統のスキルを極めたり、街に馴染むために雑用をこなしたり、シンプルに観光をしたりといった形でこの都市で『生活』してみせる。


 俺の一万体の分体は、維持するためには食べる必要がある。

 迷宮探索をしている奴らは、モンスターを喰らえばいいかもしれないが、そうじゃない都市待機組は、自力で食い扶持を稼いでもらうことになる。

 多分、問題ないだろう。

 一応チュートリアルエリアでのレベリングで溜まった素材を売ったカネはまだあるし、この大都市だ。仕事はいくらでもあるだろう。


「よーし、それじゃあ新生活だ! 気張っていくぞ!」


 というわけで俺のこの都市での生活が始まるのであった。



―――

ヒロイン登場まで、残り4話

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