第2話 ダンジョン探索
『中央大迷宮』
単に迷宮とも呼ばれるソレは、この大陸に点在するいくつかの迷宮の中で最大の物となっている。
それ故に単に迷宮と呼べば、この『中央大迷宮』を指すのだ。
それほどまでに迷宮の代名詞的存在。
その迷宮の中で俺は、10人1組を五百組作って探索を行っていた。
そして早速『
「まさか再生能力まで戦技化してくれるとはな」
『全身凶器』は肉体の機能を戦技化してくれるジョブだ。
スキルとして備わった形質によって繰り出す攻撃をより強力に、そして低燃費にしてくれる。
しかしそれだけではなかった。
再生能力すらも戦技化してくれるのだ。
リジェネである『高速治癒』も、MP消費での任意回復である『再生』も、回復量及び燃費が向上している。
「ナイサー!!」
おかげで被ダメを考えなくてもいいレベルだ。
そこにさらにスライムボディの特性として、部位欠損すらも『変身』と『再生』で治し切れるので、買い込んでおいたポーションも必要ないぐらいだ。
「ナイストス!」
無論すごいのは回復面だけではない。
攻撃面もかなり強化されている。
爪や牙、尻尾による攻撃が強化されるのは予想できていた。
ブレスや毒液放射の強化もさほど驚きはない。
「ナイススパイク!」
しかし消化吸収能力まだ強化されるのは予想外だった。
おかげで大抵のモンスターをほとんど時間をかけることなく消化することができている。
「何でバレーボールやってんだよ!」
迷宮内の広場で唐突に、バレーボールをやっていた分体たちに突っ込みを入れる。
そんなこんなでジョブの恩恵を受けた俺たちは、破竹の勢いで階層を更新していき、ついに目標階層である26階層へと到着しているのであった。
なぜここが目標なのかというと、適正レベルがここだからだ。
中央迷宮は階層数×10レベルまでが適正レベルとなる。
レベル10以下なら、一階層まだといった感じだ。
つまり250を超えるレベルである俺の適正はここというわけだ。
ちなみに現時点の最高到達階層は、112層だそうだ。
レベル換算1120。今の俺からしてみても途方もない数値だ。
俺もいつかは、到達階層を更新できるようなトッププレイヤーになりたいものだ。
そしてそのためにもまずは、目の前の階層を攻略していかなければならない。
ちなみにこの大迷宮は、10階層ごとに環境が分たれており、俺の今いる26層を含んだ、20から30階層までは霧の荒原と呼ばれている領域である。
そこの探索を開始してしばし。
霧が深く、視界が効かず、不意打ちに常に警戒しなくてはならない。
はずなのだが。
「アンデッドエリアで手に入れた『生命探知』のおかげで、居場所が丸わかりだな」
獲得した感知系スキルの一つがガンメタをしており、普段と変わらない感覚で探索ができていた。
そしてここのモンスター、霧に隠れての不意打ちを基本戦術としているため、その不意打ちを上手く迎撃すると、出端をくじかれ、かなり調子を崩す。
結果としてこれまでとは異なる同レベル帯の相手ながら、大した消耗もなく進むことができていた。
他の組も似たような感じらしい。
そんなこんなで探索を進めていると、悲鳴が聞こえた。
「行くか」
その場所めがけて移動を開始する。
無論悲鳴は囮でモンスターかPKが待ち構えている可能性もある。
しかしそれならそれで食い破るのみ。
そう考えながら、進んでいくと地面に呻き声を漏らしながら転がっているプレイヤーの集団を確認。
手早く『ヒール』を行い、話を聞く。
「どうかしましたか?」
「わ、ワイバーンが! ワイバーンが出たんだ!」
ワイバーンか。
この階層にはかなりレアだが、出るって話だったな。
同時にその希少性に応じた強さを誇っているとも。
これは撃破したい。
念願の『飛行』スキルを手に入れられるかもしないし。
「く、来るぞ!」
生命探知でわかっている。
霧を掻き分けて、それは迫り来る。
亜竜と分類されているとはいえ、ドラゴンはドラゴン。
気を抜ける相手ではない。
爪の一撃すら、致命傷となりうる……。
いや、待てよ。あれを使えば……!
「『変身』『物理無効』」
『変身』でスライムの体となり、チュートリアルエリアの悪質プレイヤーのパラダイムからぶんどった『物理無効』を発動させる。
このスキルはスライムの体でしか適用されない。
しかし裏を返せば、スライム体に変身していれば、物理攻撃は効かないのだ。
爪の一撃が俺の体に突き刺さる。
しかし無意味だ。
今の俺は物理無効。物理攻撃は通らない。
爪の一撃を受け止めてワイバーンの体にまとわりつく。
このまま叩き落とす。
体を伝って、翼にまとわりつく。
そして酸を発して、翼膜をズタボロにしていく。
ワイバーンは落ちていく。
地面に激突した。
首に負荷をかかるように落としたおかげか、首があらぬ方向に曲がりワイバーンにそれなりのダメージが入る。
それでも絶命しないのはさすがLV250を超えるだけはある。
しかし相当な負荷がかかったのか、相手はもがくことしかできないようだ。首の骨が外れたのだろうか?
なら好都合だ。
このまま仕留める。
っと、その前に。
「この獲物、もらっても構わないか?」
「あ、ああ! 大丈夫だ」
「じゃあ遠慮なく」
右手を鋭い爪に変身させて、振り下ろす。
ワイバーンの頸動脈を掻き切って、絶命に至らしめる。
これでワイバーンを倒せた。
「アンタ、何者だ? プレイヤーだろうってのは分かるんだが、同じ顔の奴らが何体もいるし、そうやって変身できるし」
「まあ、ソレに関しては【パラダイム】によるものとだけ言っておくよ」
彼らを見ると、装備はボロボロだった。
大方、少し無理してこの階層に進出して、レアモンスターであるワイバーンに襲われて物資が底をついたっていう感じだろうか。
ふむ。これは恩の売り時かもしれないな。
「そっちは色々と大変そうだな。送還符は持っているか?」
「いいや、そんなに高価なものは持っていないよ」
「それじゃあ、転送門まで送っていこうか?」
転送門とは、各階層に設けられた行き来できる門である。
この転送門は50階層までは各階層に存在しており、迷宮探索に大いに役立っている。
その転送門まで送っていくという話はかなり割のいい。
「俺たちにとっては願ってもない話だが、いいのか?」
「構わないよ。俺たちは今絶賛名前を売っている最中でね。こうして恩を売っていくのも悪くないと考えているんだ」
「恩?」
「見ての通り、俺は増えるタイプの【パラダイム】持ちでね。その数も十や二十じゃ効かないんだ。となると自然と軋轢も生まれやすくなるだろう? 何せ数千もの人間が同じ人間の思考を元に行動するわけだ。数千倍の効率で素材と金を集めることができるってことだからな」
「確かに……」
「そうやってやっかみを買う前に、こうして恩を売っておくことで有利に立ち回れるように、しておきたいんだ」
「分かった。アンタにこの借りは必ず返すぜ」
「そうしてくれるとありがたい」
というわけでこうして彼らを転送門まで送っていくことになったのだった。
□
こんな感じで迷宮探索と恩売りを並行して行っていている俺たち。
おかげで迷宮探索者たちから、お助けマンと呼ばれるようになった。
というかそう言う称号を手に入れた。
■
『お助けマン』
周囲への助けとなった者に送られる称号。
この称号自体に特殊な効果はない。しかしこの称号を持っていることは善人であるということの一つの証明となるだろう。
■
効果がないのは残念だが、いわゆる信頼の証となるようなもののようだ。
ありがたく使わせてもらおう。
迷宮探索組は主にこんな感じだ。
しかし俺たちの活動はそれだけにとどまらない。
次は『都市待機組』の話をしよう。
―――
ヒロイン登場まで、残り3話
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