第5話 落ち惑う浮島

「見れば見るほど、不可思議な光景だな……」


 島が浮かんでいる。

 それもただ浮かんでいるのではない。

 縦、あるいは横に、もしくは傾いて、中には上下反対に浮かんでいるのだ。木々が下を向いて生えているのを見ると、間違いないだろう。


「重力の方向からして違うのか?」


 どうやらそうみたいだ。

 重力の方向が違うからこそ、そして強さすらも違うからこそ、ここまで大きな島々が浮かんでいるのだろう。


「スクショアイテム持ってこりゃよかったな。いやインベントリで送ってもらうか」


 そうして都市待機組からインベントリを通じて送ってもらった、スクショアイテムでこの光景を激写する。

 島々から滝が横を流れていたり、川が宙を浮かんでいるこの光景は、そう言った風景を集めるクランとかに高く売れそうだ。まあ、専ら保管と鑑賞のために撮っているのだが。


「良し。風景を取るのはこのくらいにして探索を開始するとするか」


 俺たちは念のために翼を展開しながら、歩き出した。

 両手を、いかなる生体武装にも変形させられるように、空けておきながら歩いていく。

 そうして歩いている内に、モンスターと出くわした。


「あれは、ゴーレムか?」


 といっても一般的な二足歩行のゴーレムではない。

 まず浮遊している。足はない。下半身は独楽のように、円錐形をしている。上半身は普通のゴーレムと似たような感じだが、武装の質は高そうだ。


『グラビティ・ベクトル・チェンジャーLV389』



「うわ、今の俺より五十レベルぐらい高い……」

「けど相手は一体だ。全員で畳み掛ければ勝機は十分にあるぞ」

「そうだな。敵が対軍用の魔術を使ってこない限りは……」

「フラグやめろ」

『侵入者多数確認。対軍用術式『ベクトルチェンジ:オーバー・ザ・ホライゾン』を発動』

「ほらー!」

「俺のせいじゃないって!」


 俺たちが落ちていく。

 出しっぱなしにしておいた翼で、なんとか空中に踏みとどまる。


「やばいな。飛行手段を持ってなかったら今ので全員死んでたぞ」

「強力だな。死亡フラグの効果は」

「フラグの効果じゃねえよ」


 そう突っ込みを入れていると、相手が両手の機関銃を解き放つ。

 無数の弾丸が雨あられと、分体に降りかかり、その体を穴だらけにしていく。

 

「ふう。危なかった」

「見た目はもう手遅れだけどな」


 穴だらけでも生き残っているのは、スライムの体に変化させての『物理無効』を発動させたからだ。

 そうでなくては死んでいた。


「やられっぱなしじゃ、いられんよなっ!」

「行くぞ!」


 後ろから飛んでくる支援魔術バフを背中で受け止め、同じく飛んでくる減退魔術デバフがゴーレムの体にぶつかるのを見て、俺たちは複雑な軌道を描きながら突っ込んでいく。

 相手は武装を切り替え、火炎放射器を選択。

 ブレスのような火炎放射が、俺たちの何体かを墜落させていく(死んではいない。翼膜を焼かれて、飛べなくなっただけだ)。


 それでも突撃した俺たちの大半はゴーレムの下へたどり着き、攻撃を加える。

 

「『エレクトロ・フィスト』」

「『バーニング・ブロウ』」

「『アイシクル・ハンド』」


 各属性の魔力放出と合わせた属性戦技で、敵を叩く。

 雷撃でゴーレムの制御機関を狂わせ、動けなくなったところを炎と氷の温度差でダメージを与える。


「GIGIGIGIGOGU……」


 それらの攻撃を数十と喰らったからか、敵は機能を失い地面に転がる。

 

「良し。倒れたな」

「食べるか。ゴーレムか。堅そうだな」

「良い歯ごたえかもよ」

「そりゃあ今のSTRなら、噛み砕けはするだろうが、それでも固いもんは固いぞ」

「食べちゃえ食べちゃえ」

「ほらイッキ、イッキ!」

「しばくぞお前ら」


 囃し立てる分体に突っ込みながら、ゴーレムの素材をむしゃむしゃと食べていく。


「何味だった? 石? 鉄? それとも不思議金属?」

「こいつぁ、ミスリルだ!」

「分かるのかよ、味。こわ……」


 分体に引かれながら食べたミスリルの味はかなり濃厚だった(旨いとは言ってない)。

 経験値もかなりのものだ。

 そして獲得したスキルは……。


『スキル『浮遊機動』を獲得しました』


 残念、重力操作系統とはならず。

 でもこれのおかげで、更に機動力は向上したな。

 この調子でどんどん狩っていこう。



 □



『『重力耐性』『高速落下』『フォールン・インパクト』『反重力装甲』『オービット・サイクル』『万有引力』『自在方向落下』を獲得しました』


 色々とスキルを獲得できた。

 解説は使うときでいいだろう。

 

「見てみて! 上に落ちる変態!」


 落下方向を操るスキルと、落下速度を高速化するスキルを使用して遊んでいるバカは放っておいて。


「ぐへぇ!」

 

 ……スキルの使用を誤って、天井みたいに浮かんでいる地面にぶつかったバカは放っておいて。

 いや、やっぱ注意しておくべきか。


「気をつけろよ! 今の俺のステータスなら死なないと思うけど!」

「りょーかい!!」


 …………俺ってあんな感じなのかな。傍から見ると。


 そんなこんなで歩いている内に、ひときわ大きな建造物を乗せた、浮島にやってきた。

 目の前にあるのはパルテノン神殿のような、無数の柱で構成された場所だ。

 明らかな、お宝の匂い。


「なあ。この神殿、何だと思う?」

「さあな。少なくとも、この浮遊島エリアでトップクラスにデカい島であることは間違いないな」

「デカいゴーレムが三体も徘徊しているぜ」

「レベルは……」


『シール・D・ガーディアン LV489』


「今まで見た中では、要塞魔竜に次いで高いな」

「どうする? この神殿は放置していくか?」

「まさか。ゲーマーが明らかに重要アイテムの置いてありそうな場所をスルーするとかありえないだろ」


 というわけで突撃である。

 まずは数十人規模の儀式魔術を連射する。


『大規模魔力反応確認。魔術軌道干渉障壁展開』


 街の一区画程度ならば吹っ飛ばせる威力の魔術が、ねじ曲がった。

 そして俺に向かって飛んでくる。


「スキル使用!」


 スライムから獲得した『魔法吸収』を使用して、魔術を吸収する。

 吸収した魔力と、要塞魔竜から獲得したスキルの一つ『ジオ・ドレイン』を使用して次なる一撃の威力を増大させる。

 今度は百人規模で魔術を放つ。

 数十発の魔術が巨大ゴーレムに直撃した。


「ああいう、魔術そのものに干渉するタイプの術式は魔術そのものが内包している魔力量で、抵抗力が決まるんだよ」

「そうなのか?」

「共有情報掲示板見ていないのか?」

「あー、思い出した。教授さんが教えてくれたんだっけ」


 俺たちの情報共有はだいぶアナログな方式で頼っている。

 掲示板に書いておくのだ。重要そうな情報を。

 ソレをインベントリを通じて、迷宮内に持ち込んで確認するというのが習わしである。

 もう少し効率の良い方法はないかと探しているのだが、なかなか見つからない。

 ジョブか、『ユニークアワード』に頼らなければならないだろうか。

 それはさておき。

 

「お、ゴーレムが素材に変わったな」


『スキル『対物対魔両面装甲』を獲得しました』


 変形の手間を要するが、かなり便利なスキルを手に入れたみたいだ。

 しかし今はそのスキルよりも、目の前の神殿のアイテムに意識が向いてしまう。


「おったから、おったから~」

「ユニークアイテム~」


 数千人で鼻歌を歌っていると、かなり不気味な光景だ。

 しかし俺以外には何人もそこにはいない。

 だから遠慮なく神殿に侵入していった。


 そこにあったのは……。


「剣と、天秤と、石像?」


 無骨な装飾の、しかしすさまじいエネルギーを感じる剣が突き刺さり。

 その手にはきらびやかな装飾の天秤を持った。

 美しい少女の石像があった。

 そして俺のスキルの一つである『生命感知』に反応があった。


「あの像、生きている?」


―――

ヒロイン登場まで、残り0話。

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