第6話 石化した少女

ヒロイン登場


―――



「あの像、生きてる?」


 スキル『生命探知』に反応があった。

 あの像は生きている。

 微かだが、生命の気配が感じられる。


「なら剣は抜いてやったほうがいいか」

「そうだな。慎重に抜くべきだろう」

「治癒魔術を掛けながら抜こう。そっちの方が安全なはずだ」


 数人の儀式魔術で治癒魔術を強化し、石像を治療する。

 そのまま無骨ながらも凄まじい力を感じる剣を抜いていく。

 重い。重量が、ではない。存在の圧が。

 この剣、多分三百を超える今の俺のレベルでも振るうことができないほどの、要求ステータスをしているはずだ。合体してレベル五百以上に匹敵するステータスになったとしても不可能かもしれない。

 合体したら今度は大きさ的に振るえなくなるが。


「慎重にな」

「ああ。ヒトの命がかかってるものな」

「剣を刺された上で、石化されて、それでも生きてるって人間って言えるのか?」

「石化されているから生きているのかもしれないし、何であれ抜いてやるべきだろう」

「そこには異議はないな」


 そう言うわけで莫大な力を持った剣を抜き終わる。

 すると治癒魔術の効果もあってか、石化のひび割れが少しずつ治っていく。


「お、ちゃんと効果があるみたいだな」

「そうだな。よかった……」


 一安心しながら俺たちは少女像を見守っている。


「良し、剣が抜けた。石化の方はどうする?」

「儀式魔術で出力を上げた解呪魔術でいいだろう。石化解呪薬は効きそうにないし」

「そうだな。解呪魔術なら、出力の上げ過ぎで傷つくなんてこともないだろうしな」


 ちなみに治癒魔術だと、出力の上げ過ぎで過回復になって、ダメージを負うということがあるらしい。


「最初は十人規模でやってみよう。それでも足りなければ徐々に増やしていくってカタチで」

「オッケー」


 というわけで十人で解呪を始めた。

 清浄な光が放たれ、その光が石像に吸い込まれていく。


「問題なさそうだな。けど解呪もできていないか」

「十人ずつ足していくぞ」


 その言葉の通り、二十人、三十人、四十人と解呪人員を増やしていく。

 魔力切れの心配はしなくていい『要塞魔竜カストルム』から手に入れたスキル『ジオ・ドレイン』は地面から魔力を吸い上げて、その魔力を自身に還元するチカラだ。

 

 ここの浮遊島はよほど潤沢な魔力を含んでいるのか足元から際限ない力が湧き上がってくる。

 それでも攻撃魔術などに使ってしまえば、魔力量も心もとなくなってしまうだろうが、今回使っているのは中級とは言えど、解呪魔術。

 魔力消費は少ない。


「百人突破。どうする増やす単位を五十人刻みにしていくか?」

「いや十人ずつのままでいい。下手なことやって中の人が傷つきました、とかシャレにならないからな」


 そう言うわけで辛抱強く少しずつ解呪人数を増やしていく。

 それでも千人を超えたところから、俺の中で驚嘆の念が強くなってきた。そして疑念も。


「これだけの解呪を注ぎ込んでいるのに、全く石化が解ける兆しがない。よっぽど強力な石化なのか?」

「いいや、恐らく彼女に巣食う何かが解呪の力を妨げているんだろう。生命探知を凝らしてみると、別の反応が見え隠れしている。アンデッドとかに近い反応が」

「マジかよ」

「マジさ。恐らくそれが彼女の石化解呪を邪魔しているんだろう」

「となってくると、もっと数を増やした方がいいな。もちろん慎重に」


 遂に五千人全員が解呪に参加した。

 そこまでやってようやく、石化が解ける気配が見え始めた。

 中の邪悪な何かも、消え去っている。


「お、行けるぞ」

「よし。このまま解呪を維持するんだ。何が起きても気を抜くなよ」

「「「了解」」」


 そして、解呪の光を全て吸い込んだ果てに。

 石化はひび割れ、一人の少女が地面に崩れ落ちかけた。

 ソレを何とか受け止める。

 

「大丈夫ですか?」

「う、あ……」


 意識がもうろうとしているようだ。


「ベッドを用意しろ! なるべくあたたかいお茶とかもだ!」

「インベントリ内に連絡を送った。すぐ気づくと思う!」


 そうして俺は目覚めた少女を介抱するのであった。



 □



「助けていただきありがとうございます。オーマ様方」


 銀色の髪を腰のあたりまで伸ばした美しい少女。

 異性にあまり興味のない俺でもどきりとするような、そんな美しい顔をした彼女の名前を、アルリスというらしい。


「苗字とかはないんですか?」

「ただのアルリスです」


 深く突っ込まない方がいいだろう。

 そう直感した俺は、話題を変える。


「アルリスさんはどうしてここに?」

「それは……。自分でも、思い出せないんです」

「そうですか……」


 気の毒に。

 でも確かに苔が生えるまで石化されていたら、記憶の一つや二つ、失ってしまうだろう。


「わかりました。それじゃあ、とりあえず外まで送りますね」

「そと?」


 あ、そうか。

 彼女はここが迷宮の内部だとは知らないのか。


「ここ、迷宮の中の特殊エリアなんですよ」

「そうなのですか?」

「はい。だから脱出するためにはいくつか手順を踏まなくちゃなりません」

「それは、どんな?」

「うーん、ポピュラーなところで言うと、このエリアの主を倒したりですかね。あともう一つは転移門を見つけるとかですね」

「そうですか。……オーマ様。お願いがあります」


 意を決したように強く煌めく銀の瞳。

 その視線をたじろぎながら受け止める。


「私の身をどうしても構いません。ですのでどうか。私を迷宮の外に送り届けてはいただけないでしょうか」

「いいですよ」


 表示されたクエストログが音声に反応して、YESが選択される。

 

「いいのですか?」

「その代わり……」

「はい。わかっております。私の体を……」

「あ、そっちじゃなくて。アルリスさんに刺さってた剣をもらってもいいですか?」

「好きにして頂いて……、剣?」


 少女は可愛らしく首を傾げる。


「剣ですか? そんなものが刺さっていたのですか?」

「はい。これです」


 そういってインベントリから出した剣は、相変わらず凄まじい威圧感を放っている。


「こんなものが? 私の体に?」

「はい。あ、でも体の傷は治しながら抜いたので大丈夫だとは思います」

「だから私が目覚めた最初はやたら体のことを気遣ってくださってくれたのですね」

「まあ、そうなりますね。それで改めて聞きますけど体の調子はどうですか?」


 少女は目をぱちくりさせながら、小さな声で呟く。


「だいじょうぶです……」

「そっか、なら良かった。それじゃあ一緒に行きましょうか」

「い、いいのですか? 報酬もなしに。剣だって私のものでは……」

「うーん、不快にさせてしまったら申し訳ないんですけど。人に剣を刺したままおいてくような奴の物は、もらっちゃっても問題ないと思うんですよね」

「それは、そうかもしれませんが……」

「だから体を売るようなことは言わないでください。もっと自分を大切にしてください」

「……」


 ぽけー、とするアルリスさん。

 なんかまずいこと言っただろうか。

 不安になっていると少女は微笑んでくれた。

 それもとびきりの笑顔で。


「優しいのですね。オーマ様方は」

「そうですかね」

「はい。他の方も、私に威圧感を与えないようにこの神殿の外で待機していらっしゃるのでしょう?」

「ぬ、バレましたか」


 4999人は外に待機している。

 流石に男が数千人で少女一人を囲うのは、威圧感があるからだろうということでだ。


「私を連れ出してくださりますか? この迷宮から」

「喜んで。一緒に都市の外まで参りましょう」


 というわけで俺たちとアルリスさんは一緒に行動することになった。


 ちなみに分体たちは迷宮の外で組み立て体操をやっていた。

 初めて見たぞ、十段ピラミッドなんて。

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