第6話 スキル連打
「くそが!」
「俺の『
「安心しろ、お前らのお仲間も、全員コキュートスに送ってやるよ」
壊れた車を見て頭を抱えていた敵が、参戦する。
俺は油断なく触手を構えながら、残る二人の敵と対峙。
俺の単独での基本戦闘スタイルは、保有しているスキルを連打して、敵に何もさせずに圧殺することだ。
単純なスキルの多彩さと量だけでなく、先ほどの触手攻撃に、ウォーターカッターを織り交ぜるといったように、搦め手なども使う。
色々なスポーツや格闘技を習ってきたことで、培われた俺の中の実感に敵は不意を突かれると弱いというのがある。
これは戦闘開始時の奇襲だけを指すのではない。
相手がこう来るだろうという予測を上回ることで生まれる、決定的な隙をつくことこそが俺のスポーツマン時代の基本戦術だった。
「行くぞ」
大地を蹴り、『ダッシュ』と『突進』を発動。攻撃力と加速力を帯びた全身。無論触手もその恩恵にあずかっている。
単純な切り払い。地面に深々とした斬撃痕を刻み込む。
敵の一人は、触手の隙間をかいくぐる様に。もう一人は後ろにローラースケートのようなものを履いて、滑る。
「は! 見たか。俺の『
成るほど。
昔テレビで見たことある、ローラーを全身の各所に取り付けたローラマンの状態だ。うつ伏せで移動すると各所のローラーが駆動して時速百キロは出るのだとか?
無論【パラダイム】、その比ではないだろう。
「だからどうということはないが」
手のひらから粘液を最大量でぶちまける。
『ジオ・ドレイン』のおかげで莫大な消耗もさほど気にならない。といってもこの地面から吸収できるのはこれが限度だろう。
『ジオ・ドレイン』は、地面の栄養や内包魔力を吸収することでMPに変換している。
だからあんまり吸いすぎると土壌に悪影響が出るのだ。農地とかでは配慮のため使えないスキルだ。
「うおっ!」
粘液が相手の足を絡めとる。
『体液放出』と『潤滑油分泌』の二つのスキルのシナジーによる、地面の摩擦を奪って立てなくするコンボだ。
「舐めるな! 『
「クッソ! 『エア・ステップ』!」
地面から足が離れた。
その瞬間に俺は『重力魔術』の『グラビティ・ベクトル・チェンジ』を使う。
これで地面に何かで自分を固定させるという手段が使えない彼らは、天上に真っ逆さまだ。
と、思ったのだが。
「ははっは! やっぱりな! 重力方向変化は、最下級の重力耐性装備でも耐えられるか!」
「流石はボスだぜ! 糞野郎への対策をキッチリしてある!」
成るほど。持ってたか。考えてみれば当然だな。
重力方向変化は重力を強化しているのではない。ただベクトルを変えているだけ。干渉の強度が低い。
だから、最も等級の低い重力耐性装備でも、大したことなく耐えられてしまうのだ。
一瞬だけ俺の思考がそちらに割かれた。
敵のレベルもさるもの。その隙をつかないということはない。
「死ね!」
俺の体に燃え盛る剣が突き刺さる。
物理無効と魔法吸収、どちらでも吸収できない両属性を兼ね備えた攻撃。
「は! お前みたいな有名プレイヤーは対策が……、HPが減ってない!」
「『ミニチュア・キングダム』って知っているか?」
チュートリアルエリアのゴブリンキングが持っているスキルだ。
俺もその素材を喰らうことで手にしている。
効果範囲内にいる分体にダメージを肩代わりしてもらうスキルだ。
そしてその効果範囲内に分体は、いる。
「じゃあな」
『超強酸砲』
迷宮のスライムから手に入れた、スキルで相手を溶かし尽くす。
残るは一人。
「お前はどんな消し飛ばされ方がいい?」
「俺は、俺は……!」
何だ?
命乞いでもするのか?
「自爆するしかねぇぇぇぇ!!」
自爆した。
爆炎が迸り、俺の体を焼く。咄嗟に炎熱無効のスライムに変身して、その爆炎をやり過ごす。
「……すげえ威力だな。どんなエネルギーを使ってんだ?」
後には数十メートルのクレーターが遺された。その内部はドロドロに融解している。
恐らくMPやSP、HPだけではこの威力は出せない気がする。
では何だろう?
レベルだろうか。
「……わからん。まあいい」
どのみち三人消し飛ばせたんだ。
今はこれでいいことにしよう。
□
「くっそ、五レベルも使っちまった!」
自爆した男の【パラダイム】は、経験値を消費して自爆する能力である。
しかしこの能力のメインは自爆ではなく、その後の即時アバター再構築能力にある。
通常のデスペナルティとは、二つ。
次のレベルに移行するまでの余剰経験値の消失。
レベルに応じたアバター再構築時間。ちなみにレベル五百で五時間必要だ。
彼の【パラダイム】は、一つ目のペナルティを重くする代わりに、二つ目のペナルティを軽減しているのであった。
そんな彼がリスポーンしたのは、『マッド・エックス』のギルドホームだった。
「なんで、誰もいないんだ?」
そこはとっくにもぬけの殻だった。
まるで夜逃げでもしたかのように。
その背後に人が立つ。
特徴的な制服を身に着けている女性プレイヤー。まるで警官のような。
「マッド・エックスのプレイヤーですね。アナタにはNPCへの攻撃未遂の嫌疑がかかっています」
「ほ、保安機構!? く、くそ!」
自爆はまだクールタイムが終わっていない。
装備は破損している。
もはや打つ手なし。
「ちくしょう……!」
「プレイヤーネーム『森森森』、貴方を捕縛します」
「くそがァァァぁ!!!」
破れかぶれの特攻。
それも簡単にいなされる。
「抵抗を確認。といっても公務執行妨害なんて物はありませんが」
制服を身に着けた女性プレイヤーの腕が変形し、蟷螂になる。
そしてその鎌で、スパン、と自爆した男の首を断ち切った。
□
「良かったんですか? オーナー。あいつらを置いていっちまって」
「良いんだよ。あいつらはもう仲間じゃない。俺たちの活動に支障をきたすからな」
マッド・エックスのオーナーが、そう断言する。
「俺たちは楽しく、自由にがモットーだ。それを侵害するやつは、誰であろうと容赦はしねぇ」
「ならオーマの野郎も!」
「馬鹿野郎。今のあれと戦って勝てるかよ。俺たちがこの都市に戻ってくるのは、奴の権勢が凋落した時だ。それまでは俺たちは潜まなくちゃならねぇ」
マッド・エックスのオーナー、名前をレイジバースト。
彼は内心の怒りを必死に抑え込みながら、他の仲間たちを宥める。
(ふざけやがって! たかだかNPCを殺そうとしたぐらいで、コキュートス送りになってたまるかよ! なんとしてでも逃げ出して、もっと自由になってやるからなァ!)
彼にとって『ネオン・パラダイム』はなくてはならない逃避の場所だ。
両親の重圧から逃れるために、ゲームを行ってる彼はパラダイムすらも逃げるためのものとなっている。
だから彼の精神性も当然こうだ。
(もしもの時になったら俺以外の全員を囮にしてでも逃げ出してやる!)
そう決意した直後のことだった。
彼の用意した馬車の群れが吹っ飛んだのは。
「な、なんだぁ!」
次々と彼らめがけて降り注ぐのは。
明らかに一人の人間が行使したとは思えない魔術砲弾の数々だった。
「あれは、まさか!」
オーマの攻撃に、他ならなかった。
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