第20話 影の合一
「どうやら新しいホットスポットが見つかったようだな」
「見たいですね」
「とりあえず全員で向かおうか」
セントルシア外縁部をパトロール中の分体たちが、新しいホットスポットを見つけたようだった。
というわけで俺たちは各々の手段で、そこに向かう。
さすがの高レベルプレイヤーギルド。
音速以上での長距離移動手段を、当然のように保有していた。
「奇怪な移動方法だな。その方の荷台は、自前か?」
「はい。手作りです」
巨人の肩に乗った俺とスカイ、アルリスの横を並走というか、飛行しているのは『タケミカヅチ』のタケさんだ。
彼は飛竜に乗っていた。
音速越えの速度を叩きだしているあたり、レベルは五百を超えているモンスターだろう。
「なるほどなぁ。生産にも手を出しているって噂はあながち間違いじゃなかったみたいだな」
「そうですね。色々と、手広くやらせてもらっていますよ」
「便利だな。アンタのパラダイム。一体どんなメンタリティをしていたら、そんなパラダイムが手に入るんだ?」
定番の問いだな。
答えようとしたところで、彼は頭をはたかれた。
「ダメっすよ。リーダー。パラダイムから精神性を読み取ろうとするのは、マナー違反っす」
「おっと、そうだったな。すまねえ、忘れてくれ」
たしかに。
パラダイムは『
例えばトラウマを持っている人間なんか、もろにそれを反映したパラダイムになってしまうだろう。
そう考えると、あまり俺も聞かない方がいいか。
「お、ついたみてえだな」
「そのようですね」
目の前の平原は漆黒に染まっていた。
影のモンスターたちだ。
レベルはおよそ500程度。
だが今の俺たちならば問題なく狩り尽くせるだろう。
そういうわけで臨戦態勢に入った途端だった。
影が波打ったのは。
否。影が集合しようとしているのだ。
「! 総員、ありったけの遠距離攻撃を叩き込んでください!!」
「おうともさ!」
アルリスの叫びに彼らは皆、攻撃を叩き込む。
雨あられと陰に降り注ぐ攻撃は、即座に影を打ち払った。
しかし。
「だめ、足りない!」
「アルリス、何が見えた!?」
「影が合体します! オーマ様のように!」
「マジかよ……!」
彼女のいう通りになった。
影は集まり、一つの小高い山になったかと思えば、それは巨人となった。
影の巨人だ。
「全員、最大火力をぶちまけろ!!」
その号令に従い、全てのプレイヤーが自らが今出すことのできる瞬間火力を放った。
それでも、足りなかった。
影は莫大なエネルギーを内包し、そのエネルギーを肉体を通して出力した。
端的に言えば、影は拳を振り下ろしたのだ。
それだけだった。
それだけで大地が津波のように巻き起こり、波打って、衝撃が全方位に広がった。
咄嗟に防御姿勢を取ったもの以外は、例外なく粉砕された。
「レベル800クラスだ!! 全員気を引き締めろ!!」
「こいつがユニークスの本体かもしれません!! なんとしても取りに行きましょう!!」
タケとオーマの言葉によって、全ギルドの猛者たちがいきり立つ。
自らのパラダイムの、ジョブスキルの、あるいは装備品の能力を駆使して攻め立て始める。
「『極一閃』!」
「『武人雷閃』!」
「『にゃんにゃんクロー』!」
「『イリーガルバレット』!」
極まった剣の一振りが。雷光の斬撃が。猫の柔軟性を十二分に生かした爪撃が。魔弾が。
幾多の攻撃が、影に突き刺さる。
しかし。
「HP減少、見られません!!」
「クソッタレ! ギミック持ちか?!」
いくら推定レベルとの差があると言えど、ここまでの攻撃を食らえば、多少の減少はあるはず。
つまりHPの現象を無効化する、何らかのギミック持ちであるという見方が基本だろう。
となってくればやるべきことは一つだけ。
「ギミックを暴きます! 全員各属性攻撃を加えていってください!!」
「了解!!」
俺の指示に、全員が即応した、
「まずは光からだ!!」
影に有効な、光属性の攻撃から。
的を射た指示だ。
俺もそれに従って攻撃をした。
無数の光線と光弾が飛び、敵に突き刺さる。
待ち受けていたのは驚くべき結果だった。
「バカな! 回復しただと!?」
若干ながらHPは減った。しかしそれもすぐに回復してしまったのだ。
(何らかのHP回復手段を要しているのか。しかし、最大火力でノーダメージなのに、光属性で限定した時にHPが若干減少したんだ?)
この疑問は記憶しておくべきだ。
そう考えながら、次の指示は俺が出す。
「次は焔です!」
「その次は雷だ!」
「そのあとは風、氷、土、水の順番で攻撃を!」
一般的な属性全てを喰らった、影の巨人。
そうすることで法則性が見えてきた。
「エネルギーの供給源は光か?」
「火、雷、光の三属性が関係しているのはわかりましたね!」
「光によってHPが減るけどすぐ回復する。それに関連しない属性は、そもそもダメージにならない」
「夜にしか影のモンスターが出現しないことも関係ありそうですね」
光によって影はダメージを受ける。しかし回復する。
のではなくて。
他の属性でも回復しているが、光の場合は大きなダメージを受けるから、回復が目に見えてわかる、という可能性の方が高いか?
いや、そもそも奴には分身共有というスキルがあるんだったな。
■
『分身共有』
自分の生み出した個体とHPとMP、SPを共有する。
また、自分を含めた、生み出した個体間で念話で意思疎通できる。
■
しかしそのスキルの影響下にあるはずの他のモンスターは、普通にダメージを受けていた。
恐らくHPは供給されるとしても、その器である肉体の方の損壊を修復するほどではないのだろう。
例えば高い再生能力を持っていても、心臓や脳を潰されれば死んでしまうように。
他の個体とHPを共有していても、致命傷を即座に回復させるほどではないのだろう。
ならばこの影の巨人は、肉体の修復能力とHP供給によるほぼ不死身と考えるべきか?
「見つかったのが街から離れた場所でよかったな。おかげで、コイツを倒すのに集中できる」
俺はそう呟きながら分体たちに命じる。
五千人規模での儀式魔術の用意を。
「総員! 対閃光・衝撃防御!!」
「「「了解!!」」」
儀式魔術を解き放つ。
「『我らの魂より発せられる遍く魔の源よ』」
かつて迷宮で放った時とは違う。
『魔砲師』のパッシブスキルによって魔術が根本から強化されている。
その状態で魔術を放てば——。
「『今ここにその力を解放し、敵を滅せ』」
――地形の一つや二つ変えられるはずだ。
「『黄昏の曙光。堕ちる太陽。我が敵を焼き尽くす、母なる光!!』」
ぶっ放せ!!
「『猛れ!! 『フォールン・サンシャイン』!!』」
超高熱の熱光源体が解き放たれた。
ソレは瞬時に大地をドロドロに熔かし尽くして。
「――消えたか」
敵を跡形もなく焼き尽くした。
ついでに近くの山が一つ丸ごと蒸発した。
「や、やりすぎだろ!!」
「いやあ、あの巨人を殺すためにはこのぐらいやらなくちゃかなって」
「まあ、その判断は間違っちゃいないと思うが」
さて、蒸気が晴れる。
その後に残っていたのは。
「何も、ない?」
何もなかった。
ユニークアワード獲得のアナウンスも鳴り響かない。
となると、どういうことだろうか。
俺の読みが外れたという感じだろうか。
「ま、何はともあれ街に被害が出るのは防げたんだし、いいじゃねえか」
「……そうですね」
しかしこの一撃が事態の進行を決定づける物となるとは、まだ誰も知らなかった。
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