第9話 オーマの多彩さ

「死ね!!」


 飛んでくるのは無数の風の刃だ。

 俺はソレを『風属性無効』で受けきる。

 

「ちっ! このチーターが!」

「チーター、チーターうるせえな。俺は真っ当なプレイヤーだっていうの」


 まあ、パラダイムに関しては、上振れの極みを引いた気がする。

 それでも、このパラダイムは俺の体質を克服したいという強い思いが、反映されたものだ。

 つまり俺だからこそ発現しえた者だと言える。

 だからチーター呼ばわりは的外れだ。

 あんまり的外れだから、一周回っておかしくなってしまう。


「お前らがチーター、チーター言うんだったら、どうして俺は今までこのゲームをプレイできているんだ?」

「それは、このゲームの運営の怠慢だからだ!!」

「馬鹿言え。これほど精緻な世界を成立させている運営の人たちが、俺の存在を把握していないわけないだろう。把握したうえで、俺の存在を看過しているんだよ。つまり俺はチーターでもなんでもない。ただの幸運なプレイヤーってことさ」

「黙れぇぇぇ!!」


 アンチは嫌だね。

 人を嫌うことにリソースを割いているせいで、余裕というモノがまるでない。

 いや、現実世界に余裕がないからアンチなんて非生産的な行動をしているのか。

 スポーツマン時代も、こういう奴は良くいた。

 ひがむばかりで、自分を分析することも省みることもない連中だ。

 そう言う連中には、たとえ体格で負けていたとしても試合で負けたことはなかったな。

 

「ましてこの世界で負けるなんて、あり得ないな」


 この世界の俺には、たぐいまれな力がある。

 ソレを持っている俺が、負けるわけにはいかない。

 俺が死ねば分体たちも、恐らくとも倒れだからな。

 一から二万体に増やすのは、骨が折れるだろう。


「だからお前たちには漏れなく死んでもらうぞ」


 触手を振るって、敵を斬り裂く。

 最近触手の動きも、キレを増してきた。

 ソレは複数のスキルの効果によって切れ味が増しているからではない。

 単純に動きの質が良くなっているのだ。

 俺だってスキルの数とステータス、そして分体に頼ってばかりではない。

 自分自身の動きについても隙を見つけて、鍛えたりしている。

 

「だからお前ら程度の暇人には負けられんなァ!!」


 触手をぶん回す。

 腕を数十本の触手の束に変えて、一本一本の触手を四方八方から相手に殺到させる。

 その一つ一つが明確な動きと殺意を伴っている。

 切り払おうとした相手の剣を数本の触手で受け止めて、四肢に一つずつ触手で切り裂いていく。


「いただきます」


 両の手足を切り裂かれて動けなくなった相手を粘液へと変じさせた腕で飲み込み、消化していく。

 もがき苦しむ相手に視線もくれず、俺は次の相手へと向かっていく。


「分体。どうだ」

「そこそこだな。レベル相応の練度って感じだ」

「となるとかなり楽な相手だな」


 奴らのレベルは五百以下。

 俺のレベルは現在450以上。ちなみに以上としたのは、今も迷宮探索組によって上がり続けているからだ。

 最近は、数時間に一レベルといったペースで上がり続けている。

 他のプレイヤーが、数週間かけてあげるレベルを僅か数時間で上げられるなど、彼らアンチの言う通りチートもいいとこだろう。


 実際俺も不安になって、運営にこれは大丈夫なんですかと聞いたことがある。

 結論は、丁寧な言葉で装飾されていたが、『仕様です』の一言だった。

 あんまりにも、あんまりな返答だった。


「だからお前らが言っていることは点で的外れってことさ!」


 振るった触手がアンチスレ連合の一人の首を刎ね飛ばした。体と頭を両方粘液で包み込んで、吸収する。

 

「クッソ。こいつらじゃ相手にならんか!」

「俺たちに任せろ!!」

 

 そう言って、俺の目の前に躍り出たのは三人の男たちだった。


「俺は『アンチスレ十人衆』の一人! ブラッド・サッカー!」

「俺は『アンチスレ十人衆』の一人! 電光石火!」

「俺は『アンチスレ十人衆』の一人! アッシ!」


 何だか愉快そうなやつらが出てきたぞ。

 まあ、アンチスレの存在そのものが不愉快だから、差し引きで別に面白くもなんともなくなってしまうが。

 

「『鮮血重鎧』!!」


 現れた三人が赤い液体を身に纏い、鎧へと変じさせた。

 血液だろうか。


「『雷速伝播』!!」


 その鮮血を身に纏った男たちがその速度を音速へと到達させる。

 なかなか手ごわい相手になりそうだな。


「『重圧滅死』!!」


 俺にかかる重力が格段に増した。

 強化されたステータスでなければ、そのまま圧死していただろう。


「なるほど。いいコンビネーションだ」


 血液の鎧で防御力を底上げし、雷属性の付与で速度を確保。

 そこからさらに敵にかかる重力を数十倍に増加させて、相手の動きを止める。

 重力で圧死するならばそれでよし。

 しなくても動きは遅くなるだろうから、そこを加速した自分たちで仕留めに行くという算段か。

 多分あの血液鎧は、音速を超えたことによる衝撃を和らげるためだな。


「だが負けるわけにはいかないな」


 重力方向変換。水平方向かつ進行方向へ。

 すると俺にかかっていた数十倍の加重は、数十倍の加速となる。

 そこに複数の加速スキルと、『移動速度十倍』を発動。

 短期決戦で行こう。

 

「な! 消えた!?」


 否。背後だ。

 そう呟くよりも先に複数スキルを使った触手を振り回して血液鎧を切り裂く。

 しかし傷は浅くにとどまる。

 それでも傷はつけられた。

 ならばあとは数で押し切るのみ。


 そう考えた瞬間に鎧はすでに修復されている。

 成るほど自動修復の血の鎧の、その修復速度にも速度強化が乗っているのか。

 この速度強化と血液鎧のスキル、ぜひとも欲しいな。


「生かさず殺さず、となればこのスキルに限るな」


 霧結界を発動。

 さて、その鎧。気密性はいかがかな?


「か、体が、しびれて……」

「くっそ、毒か……!」


 その通り。

 俺は霧を放出するスキルはいくつか持っているが、その本領は目くらましだけではない。

 こうして毒を散布することもできるのだ。


「クッソ!! どんだけスキルを持っているんだ!?」

「ざっと三百五十かな?」


 迷宮でいっぱい取ってきてくれるからな、常に増え続けているぞ。

 使いこなすのは大変だが。


「さて頂くか」


 血液鎧ごと相手の体を取り込んでいく。

 その直後だった、微量ながらダメージを受けたのは。


「毒? いや違うな」


 俺の状態異常耐性は、複数の耐性スキルの影響でほぼ無効化の領域にまで高まっている。

 ソレを貫通できるほどのスキルを持っているのならば、さっさと使っているはずだ。


「これは……血液を微細な刃に変化しているのか」

「は、はは……これが俺の奥の手、体内からお前の体をずたずたに……!」

「『物理無効』」


 体を粘液に変化させる。

 それで相手の攻撃はすべて無意味になった。


「じゃあ、そう言うことで」

「ち、くしょうが……!!」


 そうして三人を取り込んでいく。

 

『スキル『鮮血重鎧』『雷速伝播』『重圧滅死』を獲得しました』


 ふむ。

 やはりスキルを大量に手に入れられるっていうのは素晴らしいな。

 俺は案外コレクター気質なのかもしれない。


 そんなことを考えながら、俺はアルリスとスカイのもとへと向かう。

 二人の戦闘能力は折り紙付きだし、俺の分体もついているからさほど心配はいらないだろうけど、それでも心配は心配だ。

 とっとと助けに行こう。

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