第14話 竜皇と妃


アルダが手配した侍従が来たのは、俺がリューイに夫夫ふうふの寝室に案内され、すぐのことだ。


「お久しぶりでございます、クロムさま」

「……お前だったのか、リファ」

目の前に現れたのは竜人と人間の混血の半竜人と呼ばれる青年である。


「こんな夜半に」

「クロムさまが竜皇さまの番になられたのであれば、すぐに参上するのも当然のことです」

今まではあの女官長がいたからこそ、この秘蔵っ子をアルダも出せなかったのだろう。むしろ、俺でなければ、絶対に家からも出さなかったのではないか。

あの家は……どいつもこいつも過保護過ぎる。


「早速着替えを」

「ひとりでできるが」

「こちらを」

しかしリファが出して来たものに絶句する。


「……何だ、これは」

夫夫ふうふの夜着でございます」


「そんなのは知ってる」

引きこもっていたとはいえ、それくらいは知っている。


「俺は普通のでいいのに」

「ダメです!それでは我らの沽券に関わるので!」

我ら……って。いや、決まっているが。


アルダがリファを引き取ったように、リファの同胞はアルダたちまともな考えの竜人に保護されていることだろう。少数派ではあるが、筆頭がアルダだから、血統派も文句を言えないのだ。


「みな、うまくやっているのか」

仕方なくリファに夜着を着せてもらえば。


「もちろんです。クロムさまがこちらに来られたのなら、みなも集まりましょう」

「俺のことはいい。みな、好きなことをすればいい」

「それが好きなことなのですよ。ずっと弟子を取らなかったのに、竜皇陛下だけずるい……みな、そう申しております」

いや……それはだから……。


「元々はアルダのせいなのに」

むしろアルダに弟子入りじゃぁダメだったのか。いくらかアルダに錬金術を習っているものもいようが……全く。


「好きにしていい」

「ではそのように、みなに伝えましょう」

リファが満足そうに微笑んだ。

また賑やかになりそうだ。


「クロム……!」

そして、何故かもうひとり、既に賑やかなのがいたのだが。


「おう、どうした。そんなにいき急ききって」

「どうしたって……その、クロム。いくらアルダからの紹介で、アルダの養子だからって、その親しすぎる雰囲気は何なのですか……っ!初対面のはずなのに……!」

全くこの竜皇は子どもか……いや、つい最近まで子どもだったわけだが。

一丁前にやきもちを妬く姿も、どこか微笑ましい。


「クロムさまは、私の命の恩人なのです」

そしえリファが静かに頭を下げる。その所作の美しさは夫人が仕込んだのだろうな。

その所作の滑らかさに、思わずリューイも息を呑む。


「……命の……」

「はい。百数十年前になりましょうか。私は半竜人であるがゆえ、親に捨てられ、竜の鱗目当て他種族に奴隷として飼われました。けれどクロムさまと養父アルダが助け出してくださったことで、私は今生きながらえているのです」

「……だからクロムはあの時……」

リューイが己の口元を押さえる。


「でも……いいんじゃねぇの?互いに思い合うのなら、お前の鱗は、番にとって唯一無二のものとなる」

「クロム……もしかして、私が作った祭具を今も……」

リューイの言葉に、ゆっくりとマジックボックスから祭具を取り出せば、リューイが目を輝かせる。


「……誰かにやるわけにも、どこかに放っておくわけにもいかないだろうが」

何せ竜皇の鱗である。


「ふふっ、嬉しいです」

俺がまだそれを持っていたことがそんなに嬉しいのか、リューイが嬉しそうに俺を抱き締めてきた。


「ふふっ。それでは夜は、どうぞ仲良くお過ごしくださいませ」

そう言ってリファが退出すれば、リューイと2人っきり。とたんに恥ずかしくなってくるじゃないか。


「クロム……やっとあなたを番に迎えられたのです」

「……あぁ、そうかい」


「私は今、幸せの絶頂なのですよ」

「……バカだな……お前は。でもそれは……俺もだよ」

そうボソリと漏らせば、リューイが頬に祝福の口付けを贈ってきた。本当にお前は……どこでそんなものを覚えてきたんだか。


――――しかし、悪くない。


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