第51話 双子の邂逅


――――晩秋。

冬になるには早いが、少し肌寒い。しかしながら、ククルとロイドの子らが無事に生まれて、落ち着いたらしいので、俺とリューイは子どもたちを連れて里帰りをしていた。


もちろん長男のリファも着いてきてくれており、再会したリリィととても楽しそうである。


フォレスティアでは、父さんと母さんも、珍しく森からこちらに来ており、兄貴と共に出迎えてくれた。


「わぁ、かわいいねぇ、子どもたち」

そう言ってうちのちびたちを撫でた母さんは……すきあらばとリファの頭も撫でていて、護衛として着いてきていたスオウがしてやられたとも言えない顔をしていた。全く……相変わらずのブラコンだな。


「ににーっ」

そしてリューイに抱っこされていたロロナはリファに手を伸ばす。リューイは泣く泣くリファにロロナを預けるのだが。


「私よりもリファの方が好きなのか?」

それはパパとしての嫉妬だろうか?


「ふふっ、クロムにそっくり」

「え、母さん!?」

しかしその時、母さんから驚きの言葉が飛び出る。


「そうだぞ。クロムもシュルヴェスターにばかり懐いていたんだからなぁ」

父さんも父さんで苦笑しつつも、昔を懐かしむように涙ぐんでいた。いや、そこまでなのか!?しかしまぁ……攻めと受けで違いはするものの、兄貴に懐くのは、まさかの俺からの遺伝だったとは。


「しかし……兄弟がいると言うのも、羨ましいですね」

リューイが微笑む。思えば竜皇は、ずっとずっとひとりっ子だったものな。


「兄弟弟子だって、兄弟だろ?」

正確には違うが、しかし兄弟のように支え合うことも多い。

アルダとだってロイドとだって、そうだったんだぞ……?


だがそう伝えると『では私が一番にお兄ちゃんですね』とリューイが笑顔で言ってきたのだが。


「お前は一番弟子ってだけで……今のところ一番年下じゃぁないか……?」

その言葉には、周囲からも苦笑が沸き立つ。


「うぅ……私が一番弟……」

「ふふっ、でも何かと特典は多いんだぞ……?」

末弟って言うのはついつい可愛がってしまうものだろう?


「ほら、俺の末弟も」

「……思えば」

思い当たるふしがあるのか、こくんと頷くリューイに微笑ましくなってしまう。


「さて、それじゃぁそろそろ、うちの末っ子の孫たちに会いに行きましょうか!」

母さんの言葉で、俺たちはククルとロイドの元を訪れた。


「ロイド、ククル」

声をかければ、ふたりとも笑顔で答えてくれる。


「お久しぶりです、竜皇陛下、クロムさま」

「今回は遠路はるばるありがとうございます、クロム兄さま、竜皇陛下」


「ククルも元気そうだな」

「えぇ、母子共に健康です」

ロイドがククルと、それから生まれた双子を紹介してくれる。ひとりは女の子で、もうひとりは男の子。


「うちと同じだなぁ」

「あかちゃ」

「そうだよ、セシナ」

セシナは初めてのほかの双子ちゃんに興味津々なようだ。

そして女の子はエルフよりの耳で、男の子はロイドに似て、角のようなものが頭にある。


「竜角……?」

リューイも気が付いたようだ。


「ロイドは隠してるだけで、角があるからな」

「えぇ、まぁ」


「……っ、初耳なんですが……!しかし何故隠して……」

リューイが驚く。


「……ぷっ、リューイ……お前、あそこ歩いてみな」

俺が言うと、ロイドが苦笑する。


「えぇと……何を企んで……」

訝しがりなぎら、リューイが俺が示した方向に歩いて行けば。


――――ガンッ


リューイの角が、天井から伸びた仕切りにぶつかったのだ。


「……っ!?」

驚きつつ、こちらを振り返るリューイ。


「城内の案内は、ぶつからないところを選んでしてくれてんだ。エルフは元々森を行き来する種族でな。森の木の形を無理に曲げずにそのまま使っていることも多いんだ」

リューイがぶつかった場所はまさに、木の幹の曲がり具合を利用して入り口の枠が作られた部分。

ひとの出入りに合わせて木を加工するのではなく、ひとが木や森に合わせるスタイルだ。つまり……。


「ロイドは角を出すとしょっちゅうぶつかる」

「ご訪問の際は、竜角を出して念入りにご案内ルートをシュミレーションしましたから」

ロイドが苦々しそうにそう告げる。多分それは……兄貴にやらされたな。兄貴は使えるものはたとえ王配であろうと、母の弟子だろうと使うスタンスだからな。


「でも久しぶりに、カッコいい角を見られたから、私は眼福だったのですよ」

……と、ククルが告げれば、ロイドの頬がかあぁっと赤くなる。おや……末っ子が珍しく照れている。


「あっ、ロロナったら」

その時、リファの声がしたと思えば、リファがロイドたちの息子に向かって手を伸ばしている。


「いえいえ、よろしいのですよ。どうぞ手を」

ククルがそう告げれば、リファが申し訳なさそうにしながらも、ロロナを抱っこして近付く。


すると……ククルたちの息子に、ロロナが手を伸ばし、ぎゅっと握る。


「……っ!」

ロロナはその手をとても嬉しそうに握り、きゃっきゃと笑う。


「是非、これからも仲良くしてくださいね」

ククルがロロナに声をかけてくれれば。


「ん……!」

嬉しそうに笑うロロナ。


それが後に、ロロナが番を見付けた瞬間だったと知ったのは……ロロナが番と言う言葉を覚えてからである。

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