第25話 竜皇妃の両親


父さんと母さんが、早速俺たちを実家の中へと通してくれて、椅子に座るよう促す。

リファやリリィたちにも椅子を出して……スオウたちは……。


「自分たちは護衛ですから」

「頼もしいな」

さすがは護衛。数時間森の中を歩いても全くバテてない。鍛え方がまず違うからな。


「さて、どうぞ。たいしたものは出せませんが」

父さんがと母さんが茶を振る舞ってくれる。


「そう言っておいて、これは母さんが錬成したハーブティーじゃん」

普通のハーブティーよりも、効果が高まる一級品である。


「ははは、バレたか」

父さんが笑う。

「ほら、クロムも腕がなまってないでしょう?」

腕と言うか……目利きだが。


「ほら、スオウたちも飲みな。水分補給。あと疲労回復効果もあるからな」

「……っ、竜皇妃殿下のお母君が錬成されたお茶を飲まないわけには参りませんね」

スオウがそう言って、ほかの護衛たちにも茶を回してくれる。

臣下たちへの福利厚生!これも基本だからなぁ。


「それで、クロム」

父さんと母さんが真剣な面持ちで俺たちに向かい合う。ま、今日ここに来る意味は、事前に連絡していたもんなぁ。


「父さん、母さん」

長く生きていても、どうしてこう緊張しちまうのか。不思議なものだな。


「俺、リューイと……結婚したんだ。報告が遅くなってしまって……ごめん」

そう言って、リューイを紹介する。


「クロムさんとの結婚、本来は事前に許可をいただくところ、遅くなってしまい、申し訳ありません」

とは言え、竜皇が番を我慢できるわけがなく、歴代後報告になるのは必至だろう。

通常は竜皇に選ばれたことを喜ぶが、うちの両親は……どうだか。


「いやいや、クロムももう成人した身。むしろ身を固めてくれただけで嬉しいですよ」

「こうして、挨拶にも来てくれたしねぇ……。あ……だけど竜皇陛下だから、もっと畏まった方がいいの……?」

母さんが今さらながらハッとする。母さんったら相変わらず天然なんだから……。


「いえ……っ!そのようなことを要求したら、私は両親に叱られてしまうでしょう」

リューイが慌てたようにそう告げる。それもそうだ。だってここには……。


「ですから、私のことはクロムのいち夫として、接してください」

普通竜皇がこんなことを言っても、その通りにする人間などいないだろう。しかし目の前にいる俺の両親は、800年の長きに渡り生きてきたエルフと、そして混ざりものと言う特殊な立ち位置で生きてきた男性だ。


さらにはここはリューイの母である先代竜皇妃の避難場所。

父さんが母さんに彼女をひとり預けて俺のもとを訪れるくらいだ。

先代……当時は竜皇妃だった彼女をひとりで見てくれた母さんが、物怖じするはずはないし、変に贔屓することもないだろう。

何たって世界樹の番人と呼ばれる特別なハイエルフの伴侶となったのだ。


「では……義息子として」

「そうだな。うちのかわいい末っ子をもらってくれたのだから」

それがうちの両親なのだ。しかし……かわいいは余計だって。俺、もう200代なんだが……?


「ありがとうございます」

そうリューイが心から安心できるのも、うちの両親ならではだ。


「息子としても、母のこと、御礼申し上げます」

そう、リューイは深く頭を下げた。

幾度となく死にたいと願おうと、自らに刃を突き付けても死ねない。

先代竜皇がリューイの成人を待つまでの間、彼女を支えることは、並大抵のことじゃないだろうに。


「いいえ。こちらも仲のいいお友だちができて、とっても嬉しかったから」

母さんったら……全く。無垢な人間の娘が竜皇妃になどなれば、純粋な友人などそうそうできまい。友人だったものたちも、変わらず友人でいてくれるとは限らない。また、それが短命種だったなら、確実に自分がひとり取り残される。

そんな孤独だった先代竜皇妃をお友だちと呼ぶとは……母さんにしかできない芸当だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る