竜と祭の章

第35話 平穏な日々


さて、俺たちは新婚旅行から帰ってきた。

出迎えてくれたのは、アルダやラシャ。そして弟子たちや留守を任せていた侍女たちなど。

みな、俺たちの無事の帰還を喜んでくれた。

中でも……。


「リファ!無事に帰ってきてくれて良かった……!」

ラシャがリファの顔を見るなり飛び付いて、周囲から苦笑が漏れる。全く竜人と言うのは……番が好きすぎるな。


「ラシャさまったら……っ」

それでもリファも、ラシャとの久々の再会に嬉しそうである。兄弟をずっと見守ってきたスオウも、微笑ましげにふたりの様子を眺めている。


そしてアルダにはユリーカの現状や、リュージュさまへの舞の奉納のことを伝えると、そっと安堵する。


「今回は今回で、長かったな。だが、ずっと見守ってきた番が真に結ばれると言うのは、幸せなことだ」

アルダはたまに、まるで悠久の時を生きてきたようなことを言う。


でもこの兄弟子は、年齢以上に年上に思えることがあるのだ。


しかし、新婚旅行が終われば、留守にしていた間、俺たちのサインや印が必要書類の山である。これでもアルダとラシャが捌いてくれた方なのだが。


「うぅ……肩が凝るな」

「気晴らしに踊ってもいいですよ?」


「書類が舞ってぐちゃぐちゃになるわっ!」

そしてアルダに怒られる!しかしリューイは冗談なのか本気だったのか、よく分からない苦笑を漏らす。

うぅ……お前は相変わらずなのだから。でも、少しだけ気が紛れたかもな。


再び書類作業に戻り、リファが適度に茶を持ってきてくれる。


「そうだ、リファ。ラシャとアルダにも出して来てやれ」

「でも……あちらの担当の侍従や侍女もいるのに……」

確かに、宰相室には宰相室で、城の侍女たちが雑務をこなしてくれている筈である。


「どうだろう?」

不意に留守を預かってたほかの侍女に問うてみれば。


「新婚旅行の間、リファさま成分が枯渇してほうほうの体で執務をなされておりましたので、みな、歓迎いたします」

ほんとあのふたりは、リファが切れるとヤバいな。しかもほうほうの体って……。

きっと女将さんが尻を叩いてくれて保ってたんだろうが。


「そう言うことだ、リファ。久々の家族との再会なんだしさ、行っておいで」

「は……はい!」

リファも嬉しそうだ。だが仕事だからと我慢していたんだろうな。


パタパタと駆けていくかわいいリファを見送りつつ。


「お前は旅行中もリファ成分を得ていたんだから、我慢な」

リューイの側で補佐をしていたスオウを見やる。


「え、そこまでがめつくはないです……っ」

と言いつつ、悔しげなのな、このブラコンめ。


「まぁ、でも。リューイの茶のお代わりは俺がいれてやるから、もう少し頑張るぞ」

そう伝えれば、リューイが再びやる気を出して書類を捌いていく。


その後、様子を見に来たアルダの顔が妙にキラキラ輝いていたので、リファのお茶差し入れ作戦は功を奏したようだ。


そして俺は、最愛の番にお茶を入れてやる。


「クロムの味ですね」

……そうか?それ、錬金術で配合したインスタントなんだが……まぁ、リューイが満足そうだからいいかな……?


留守中の執務を片付ければ、それからは城での平穏な日々が続いた。妃の仕事や、錬金術の仕事に追われつつも、息抜きは必要だ。


この間はインスタント茶葉だったからな。今回は錬金術で作った菓子である。


「おーい、リューイ」

本日は竜皇として執務に勤しむリューイ。錬金術も時間があればやっているが、もうそろそろ建国祭と言うこともあり、業務量が多くてなかなか関われないんだよな。

まぁ、俺も妃としての仕事があるが、錬金術部分もあるので、調整してもらっているのだ。


「ほら、お前も息抜きしな」

デスクの上にコーヒーと焼き菓子を出してやれば、リューイが顔を輝かせる。


「もしかして、これ……」

「俺の手作り菓子だよ」

本日はフィナンシェを作った。


「嬉しいです!」

早速手元の書類を処理すれば、デスクの上を空けて早速フィナンシェを頬張る。


「美味しいです」

「当たり前だろ?俺のお手製だ」

そうしてリューイと微笑み合う。


「適度に休憩も大切だぞ」

「はい、リューイのお陰で、ひと息つけました」

そしてふと、アルダも執務室にやって来た。


「……クロムも一緒なのなら丁度良かった。建国祭の件だ」


「あぁ……話には聞いてるけど」

「そうだ。そろそろクロムにも準備に携わってもらおうと思ってな」

「それはもちろん」

竜皇国の建国祭と言うのは、本国でも行われるし、国外では竜神の写し身である竜皇の治める世界の治世を称える祭りが開かれる。


「竜皇妃の式典用の服の打ち合わせもあるが……祭では竜皇への舞も捧げられる」

「それって……」


「お前には打ってつけだろう?」

「俺で……いいのなら」


「当の捧げられる竜皇はうきうきしているがな」

「……クロムっ!」


「分かったよ。お前が楽しみにしてくれるんなら」

俺もリューイに、また舞を捧げよう。


――――こうして、建国祭で踊ることになった俺だが、大きな式典で、踊るのは俺だけじゃない。


俺をリーダーとして集まったのは、竜皇国で活動する踊り子や、名家の子女たち。


その中には侍女や侍従たちもいる。元々は名家の出身の子も多いしな。あと、舞に興味のある弟子たちも加わった。


そして……。


「リファさんも一緒に」

「絶対かわいいから!」

そう侍女たちに勧められて、リファも加わることになった。まぁ、かわいいことは確実であろう。


そうして踊りのレッスンを始めようと意気込めば、その中に俺に鋭い視線を向けるものがあった。今度は一体何だってんだ。

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