竜皇と妃の章

第12話 ふたりの空の旅


――――竜皇国。長く生きてはいるが、 実際に足を運んだのは数度だけだ。

理由は……さきに述べた通り、竜人が混ざりものを嫌うからだ。

竜皇が混ざりものであることを、受け入れもせず。


しかしながら、当代の竜皇は人間側の遺伝子を受け継いでいるにもかかわらず、竜皇として認められてしまい、さらにはその竜皇が選んだ番もまた、人間の血とエルフの血を受け継いだ混ざりものである。


血統主義を重んじてきた竜人への、何かの罰のようである。いや……ずっと、竜皇の片親の血をなかったことにしてきた罰であろうか。


「竜皇国ねぇ……国境で弾かれるかもな」

以前来た時は、アルダと一緒であった。アルダが強行したことにより、俺も、半竜人もまた、国境を跨ぐことはできたが。

竜皇が番と言えば、素直に通すのだろうか。竜皇もまた、混ざりものであることを、見た目がはっきりと告げていると言うのに。


「クロム、問題ない。それに飛んで行くからな」

「は……?」

リューイはそう言うと、バサリと背中の翼を広げる。そしてひょいと俺を抱き抱えると、一気に上昇する。


「……うわ、おいっ!」

「暴れないでください、クロム。暴れると落ちてしまう」

「結界の力で防御ましましにできるから、落ちても俺は死なん」

「……そんな……っ!せっかくこれなら、クロムを国まで逃がさず抱えて行けると思ったのに……!」

なるほど……?そうして俺を逃がさないつもりだったとは……。しかし俺の結界の力のことを考えなかったのは……詰めが甘いな。


「だが疲れるから、特別に暴れないでやる」

「それは……っ!ふふっ、嬉しいです」

リューイが嬉しそうに笑う。

お前がひとりで竜皇国に帰ってからのひとの気も知らないで……。


「まぁ、アルダの飛行よりは快適だな」

「は……?何故そこでアルダの名が出てくるんですか……?」


「昔、アルダもこうして俺を竜皇国に連れていったのさ」

こっちの方が速いだの何だの……。アイツは俺をいくつだと思っていたんだか。


「クロムを抱っこして空中飛行をするのは……ぼくが一番最初だと思ってたのに……っ」

おい、一人称が昔と同じに戻ってんぞ。

まぁそれはそれでかわいらしいが。


「悪かったって」

まさかそこまでしょんぼりするとは。当て付けが過ぎたか……?


「アルダよりもずっとずっと上手いんだから。自信持てよ」


「……何回ですか」

「……はぇ?」


「アルダがクロムを抱っこして飛んだ回数です!」

「……あーと……そんなに正確に覚えてねぇけど……数回……10回よりは少ない」


「じゃぁ、私はそれよりも多くクロムを抱っこして飛行しますから……!」

「そんなに張り合わなくても……」


「これは竜としてのプライドですから」

「分かった分かったって……」

まさか番の抱っこ飛行権まで気にするたぁなぁ……。


「これからは、アルダの……いえ、私以外に抱っこ飛行されたらダメですから!」

「お前以外じゃアルダしかいねぇよ」

「アルダもダメです!」


「分かったって。お前が妬くからって断る……と、逆に面白がってやりかねないな……」

「そんなぁっ!」

悲壮感に満ち溢れすぎだろ。おい。


「兄貴に通報しとくよ」

ハイエルフと竜人でも、やはり竜人の方が立場は上だが。でも多分……アルダが嫌がるのは、俺たちの師匠の母さんよりも……兄貴だな。うん、何か分かるんだ。だてに長生きしているわけじゃない。


「え……クロムの……お兄さん……?聞いてないです!」

「……え?言ったことなかったか?あっちは異母だから、マジもんの純血のハイエルフだな」


「その、エルフなら飛行はしないはずだから……抱っこは」


「んー……よく覚えてねぇが、俺のガキの頃はあったかもな」

俺がガキだった頃には、兄貴はとっくの昔に成人していたから。


「あと、添い寝も……」

「そんな……っ、クロムが添い寝を!?」

「違う、兄貴が俺に添い寝してくれたんだ。お前にもしてやっただろうが」

兄貴がいたから、お前も添い寝してもらえたんだぞ?


「でも……子どもの頃の話でしょう!?」

まぁ、お前もな。


「大人になってからはありませんよね!?」

「あるわけねぇだろ。添い寝してやったのはおめぇだけだよ」

「当然です……!」

何でそんなキラキラした目で見つめてくんだよ。


「それからこれからは……クロムと寝るのは私だけの権利ですからね!?」

「いや……そもそもいいとしして添い寝なんてしねぇよ」


「ふふっ。約束ですからね」

そう言うとリューイは上機嫌で俺を運び、もう深夜に差し掛かった頃、俺たちは竜皇国に到着した。


「検問はいいのか」

「竜皇と、竜皇と共にいるものは自動的にパスですよ」

「国境警備はそれでいいのか」

「竜皇にかなうものなどおりませんから」

だからこそ、止めることはできない。

まるで神さまのように、竜人は竜皇を崇め、絶対の存在とするのだ。

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