第44話 新年行事


さて、俺が竜皇国に来て、初めての新年だ。

そして新年は竜皇族としてもやることがいっぱいなわけだが、これだけは譲れない。


「まさに過密スケジュールですが……」

「大事な釜だからな」

リューイと来ているのは隠れ家だ。ヌシが優雅に酒を飲む傍ら、俺たちは釜の手入れに来たのだ。


なお、移動は便利な空飛ぶリューイタクシーである。まぁ無理はしなくても……と言ったのだが、俺をほかの竜人が抱っこするのは嫌だとついてきたわけである。


そして着いたら素早くヌシに新年の酒を差し入れ、年の瀬に空っぽにしてきれいにした釜を、再び磨きあげたと言うことだ。

そして手早く年始一番に釜で錬成したものは、何故か釜から消えている。


「これは一体……」

「釜の精霊へのお年玉だ」

「……お年玉……?」

リューイが首を傾げる。


「母さんの故郷の風習だよ」

でもさすがに、リューイは知らなかったようだ。うちみたいな一般家庭や師弟ならやっても、皇族はやらないのかもなぁ。


「まぁ、俺は師匠でもあるし、大師匠の教えも受け継がないとな。城に帰ったら城の釜にお年玉やって、それからみんなにもお年玉だ!」

「そうか……城もやらねばならないのですか」

リューイがげっそりしている。だから無理はするなと言ったのに。


「だが、釜を大事にしない弟子は破門だからな」

「それは絶対に嫌です!帰路も任せてください!」

おや、ちゃんとやる気が出たようである。


「それじゃぁヌシよ。また来る」

「うむ、またおいで」

呑気に酒を飲みながらヌシが微笑む。多分この後は、釜の精と新年のあれこれを語らうのだろう。




そうして城に帰ってきた俺たちは、弟子たちと一緒に釜を磨き、新年最初の錬成だ。なお、リューイはさすがに少し休ませたが、30分くらいしたらけろっとして戻ってきた。これも若さか、それとも竜皇の血か……?

しかしまぁ、無事に城の釜の手入れも終わったことだし……。

俺は弟子たちにお年玉を配ることにした。金子は俺のポケットマネーで、ほかには東国で有名な柄つきのかわいい飴をいれてある。


「息子の俺たちや、ロイドやアルダ、弟子たちはみんなこうしてもらっていたんだ」

正月だけは特別な日。普段修行を頑張っているご褒美だからと。


旅芸人の時も、正月は団長からお小遣いをもらったものだ。そして正月限定の菓子や祝いの屋台料理をいただいた。

懐かしい思い出に浸っていれば。


「く、クロム!私だって欲しいです!」

「はぇ……?」

しかしいくら竜皇とは言え、リューイは一番弟子でもあるのだ。ならば師匠として渡さんわけにもいくまい。

それに往復の空飛ぶタクシーも頑張ってくれたからな。


「ほら、リューイ」

ポチ袋に入れたお年玉をやれば、リューイが満面の笑みで頷く。……ったく、子どもかよ。いや、そんなたまに子どもっぽいところも、放っておけない感情を抱かせるんだがな。


そうだ……!せっかくだから。


侍女やリファたちにも配ることにした。特にリファはうちのかわいい息子でもあるのだから。アルダからは文句は言わせない!

……と、思っていれば。


「全く、お前は」

お年玉をもらってかわいく喜ぶリファを余さず堪能したつ、俺の方へやって来たアルダが嘆息する。


「しかし、ここは俺だって負けていられない」

アルダはしれっとリファにお年玉をあげていた。


「うちも幼い頃からもらっていたと思えば……父上の大師匠の教えでしたか」

その様子を見ていたスオウがクスクスと苦笑する。


「何だ、文句があるならやらんぞ」

「いえ、ありませんよ?」

しれっと答えたスオウにも、ちゃんとあげるところはアルダらしい。


因みに……リューイはお年玉で何を買うのかと思いきや、城で開かれる正月市で汁粉を買って来た。


「ほら、クロム、あーんしてください!」

もしかしてそれがやりたくて買って来たのか?しかし……汁粉ね。旅時代の正月を思い出す。元々は東国の正月の食べ物だが……外のものをゆっくりと受け入れることにした竜皇国にま、こうして正月の新たな楽しみが増えているわけである。


「んむ、甘くておいひぃ」

「ふふふっ、でしょう?」

まるで知っていたかのようにリューイが微笑む。昔……ユリーカに作ってもらったことでもあったのかな。


「しかし……正月の露店は便利だな」

「えぇ。正月はどこのお店も閉まるので、城で働くものたちのために、城で屋台や店を出すのですよ」

今年はその屋台も彩り豊か。屋台の方向も賑わっているようだしな。


「こんなに賑わうのは、私が知る限りでも初めてですよ」

「そう……なのか」

俺と暮らしたブランクはあれど、弟子になる前はそれどころではなかっただろう。


「これも、私の夢を共に歩んでくれるクロムがいてこそですよ」

「俺の方こそ……ありがとうな。そして、本年もよろしくな」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします、クロム」

忙しい正月の合間のひととき。俺たちは自然と笑みを送りあった。

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