第38話 踊り子たちの記憶
――――夜風は涼み、過ごしやすいと言うのに、何故か身体が火照って仕方がない。
これもリューイが不意に口付けなんぞしたせいだ~~っ!俺もしたが……だがしかし……最初にやったのはあくまでもリューイである!ここ重要っ!
「全く……少し身体動かしたくなってきた。少し露店でも……」
こう、むずむずするって言うか。
「うーん、それなら、クロム。飛び入り歓迎って書いてますよ」
「へ?」
リューイが指したのは、踊り子のステージへの飛び入り歓迎の文字。まだ誰も飛び入りはしていないようだが。
「俺でもいいのか?」
エルフ耳なのに、髪色を変えているとは言え、エルフではほぼない青髪なんだが。敢えて金とか銀にしなかったのは、それをすれば脱色しなくてはならないからだ。
一晩の祭りのためだけに、親父と同じ髪色になると言うのもなぁ。銀だとリューイになってしまう。そんで青にしたわけだが。
迷っていれば、リューイが俺の腕を引っ張り大声で叫ぶ。
「すみません!このひとも踊っていいですか?」
「ちょ……っ、リューイ!」
リューイの声に、広場がわぁっと沸き立つ。
いやいや、そんな……っ!大勢に注目されたら断りづらいだろうっ!?
するとリューイの声に颯爽と俺の元に来てくれた踊り子の少女は、俗に言うハーフエルフと呼ばれる、エルフとの混血である。
年齢はまだ10代後半……だから、多分まだ100を越えてない。下手したら50以下かも……。
「お兄さんも、是非混ざってください!さぁ、どうぞ!」
「うぅ……しょうがないな」
若い踊り子に元気にそう誘われたら、熟練の踊り子として応えないのもばつが悪い……。
急遽ステージに上がる俺を、リューイは嬉しそうに拍手で送り出す。
そういや……リューイも俺の舞のファンだったな。これも血か。あの時の少女の笑みを思い出して懐かしくなる。だが今度は、顔を隠さず、そのままの姿で。
周りの踊り子たちが手招きしてくれて、何故か中央に立たされる。えぇと……俺がセンターなの……?まぁ、いいか。何だか旅の頃を思い出すな。
ふわりとステップを踏めば、演奏隊がこれだと閃き、演奏をつけてくれる。
そして周りの踊り子たちもくるくると舞い、恐らくこの舞を知らないだろう少女たちもまた、雰囲気で合わせられるのは、やはり修行の賜物か。
旅芸団ってのは、毎日なにかと鍛えぬかれるから。
そして一曲を無事に舞い終えれば、深く礼を返し、広場中から拍手や歓声が巻き起こる。
「すごいです……!その、もしかしてあなたも旅芸団の……」
俺を舞台に招いてくれた少女が問う。
「昔、ちょっと在籍していたことがあってな……」
「昔……ってことは……じゃぁ……今は」
「今は番のために舞ってるよ」
「番……竜人と結婚されているのですか?」
「……そうだな」
「素敵……!聞きました!当代の竜皇陛下は、お兄さんのような、エルフ耳の踊り子さんと結婚したんだって」
「それは……」
えぇーと、本人なのだが。
「でも従来通りの、純血の人間じゃない」
だから歓迎されないのでは。
「関係ないですよ!愛があれば!」
「えと……っ」
若い踊り子の純粋な言葉に思わず固まる。
「私の両親もそうですし、きっとお兄さんのご両親も!」
「それも……そうだな」
愛があって、俺たちが生まれたのだから。
「……クロム?」
そして踊り子たちと長く話している俺を心配してか、リューイもやって来た。
「……リューイ」
「もしかして、お兄さんの番?」
「そうだ。俺の一番愛してるひとだよ」
俺の後ろに立つリューイの頬に向けて、そっと手を当てれば。
「クロム……っ、私もです!」
リューイがそのまま俺を後ろから抱き締めた。
「あら」
「すてきね」
一緒に踊った踊り子たちや、旅芸団の団員たち、それを見ていた竜人たちからも拍手が溢れる。
「ひょっとして竜皇陛下も同じように……?」
「きっと竜皇妃さまとはラブラブよ」
髪の色が違うからか、まさか竜皇夫妻がこんなところにいるとは思っていないのか、庶民たちは和やかに祝福してくれる。
しかしあまりいすぎてボロを出しても困るし。
旅芸団のみなに手を振って、俺たちは露店を見てから城に帰ることにした。
「せっかくだ、アルダやリファたちにもお土産買って行こう」
「それもそうですね」
そしてリューイおすすめのフルーツ飴を選ぶ。
「東国の祭りにも似たようなものが出るんだ」
大体はリンゴだが、こちらはほかのフルーツ飴もあるようだ。
「もしかしたらこれも歴代の竜皇妃が広めたのかもしれません」
「それはあるなぁ」
外のものを受け入れてこなかった竜皇国だが、思えば竜皇の番の故郷の風は、常に受け入れていたのだ。先ほどのイカメシ焼きのように。
みな、竜皇が完璧な竜人と疑わぬ中、実はこうして小さな部分で庶民には受け継がれていたのかもな。
そうして城に帰れば、俺たちの帰りを待っていてくれたリファや侍女たちにお土産を渡せば。思った通り、とっても喜んでくれた。
そしてリファが可愛くリンゴ飴を頬張るのを、ブラコン兄弟とうちの侍女たちが蕩けた笑みで見守る傍らで……。
アルダはリンゴ飴を見てぱちくりと目をしばたかせる。
「俺も……これを……?」
「バカッ、女将さんが喜ぶだろうが!」
「あぁ、確かに」
アルダは自分用と女将さんへのリンゴ飴を受け取り、微笑んだ。
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