第47話 【番外編】東国の風習


――――それは新年宴の合間、竜皇夫夫の控え室にて。

ここには事情を知るものしかいないわけだから。


「まぁ、懐かしい!」

俺が差し出したポチ袋を、ユリーカが嬉しそうに受け取る。

中には東国の飴や菓子が入っており、それを掌にあけて、ユリーカが目を輝かせている。


さすがに先代竜皇妃にお金……と言うわけにはいくまい。ならばユリーカが喜びそうなもので……と言うことになる。

しかしそれを見たリュージュさまが首を傾げる。


「それは……何だ?」

「東国の新年の風習で、年長者や師匠が、年下のものや弟子にあげるのだそうです」

リューイがリュージュさまに説明してくれる。


「あぁ、それでか。確かにユリーカはクロムの弟子だ。そして年下でもある」

まぁ、そうなんだよな。俺も兄貴と同じく、年下の義母を持ってしまったが、しかし母さんと兄貴の関係性とは違い……ユリーカはまだまだ目の離せないひよっこ……かもなぁ。本人に言ったらリューイのようにむくれると思うが。

リューイにやる場合はリューイがかわいいのでいいが、さすがにリュージュさまの前では無理だろう。ユリーカのかわいいところは、多分リュージュさまが独占したいだろうしなぁ……?何せ150年ぶりの蜜月を終えた幸せでほわほわな番なのである。


「では私たちもお前たちに」

「……えぇっ!?」

いや、その……リュージュさまは今知ったんだよな!?なのに、何故……!?用意しているはずもないのに……!


「お前にはあげられたものも少ない。だからこそ、渡してやりたいんだ」

「……父上?」

リュージュさまが取り出したものに、リューイがきょとんとする。


「まぁ、お年玉ではなく、単なる土産として持ってきたものだが」

リュージュさまが差し出してくれた土産箱に入っていたのは、宝石の原石や金属の素材ようだ。


「お前たちなら喜ぶと思った」

なるほど。リュージュさまも考えた。それならば、互いに錬金術師な俺たちが喜ぶわな。


「これで、ペアルックでも作るといい」

はえ……?ペアルック……?


「はいっ!父上!」

そしてペアルックに釣られて当たり前のように受け取るな、リューイ!リュージュさまからのだから、断れないけど!


「クロム、何がいいでしょうか!」

「うーん……せっかくの宝石や金属だし……指輪や腕輪をこしらえるか。東国にはな、ふうふでペアの指輪を作って、ふうふで左手の薬指に嵌める風習がある」

母さんもそれに憧れて、錬成したリングを父さんにプレゼントしていた。もちろん今もふたりはそれを身に付けている。


「まぁ、そう言えば」

ハッとするユリーカに対し……。


「そんな……っ、知らないぞ……っ」

リュージュさまが妙に焦っていた。

1000年以上生きている先代竜皇にも知らないことってあるんだな……?


「では、おふたりの結婚指輪も錬成しますよ。指のサイズをはからせてください」

「む……っ、もちろんだ!」

リュージュさまは何の躊躇いもなく左手を差し出してきた。ふふふ。ひょっとしたらこの結婚指輪、竜人にはぴったりな風習なのかもしれない。


――――その後、やはり結婚指輪が流行ることになった。

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