第28話 新たな旅先へ


――――翌朝。


世界樹の森での里帰りを満喫する俺たちの元へ舞い込んできたのは、母さんが待ち望んでいた末弟子の姿である。


「リリィちゃんにお土産を持たそうと思っていたのに」

ふふふ、と笑う母さんに対して、末弟子ロイドが深く嘆息する。


「それどころでは……」

恐らく昨日、ユグドラシルから力の継承があったのだろう。遺伝の俺とは違い、ロイドの場合は新たに……だ。


恐らく今朝早くにユグドラシルの元へと行ってきたのだろう。今朝は父さんがやけに早起きだったから、ロイドを招くために。


「そんで……?ユグドラシルとはどうだった」

俺が一枚噛んでると思ってるのか、ロイドが訝しげに俺を見る。


「役目を嫌だと逃げ出した兄弟子とは違い、素直に受け取りましたよ」

悪かったな、逃げ出して。そもそも誰も俺を認めないならと、俺がそっぽを向いただけ。実際には両親や兄貴、女王ククルたち……認めてくれていたひとたちも多かったのに。俺は反対意見を突き付けるやつらが嫌で嫌で、そっちばかり向いて、啖呵を切って出ていったのだ。


「それに……混ざりものと言われても、今ではクロム兄さんは竜皇の妃として、矢面に立っている」

「そうだな……俺はお前たちのためにももう逃げねぇよ。お前たちのためにも、俺が先頭に立つ。だからお前も堂々と、番人の後継者として、ククルの生涯の伴侶として、立っていてくれ」

本来は混ざりものの方がハイエルフよりも早く逝く。しかしロイドの場合は、竜の血をエルフに混ぜたがゆえ、ククルを見送る方だ。だが、エルフの国を纏め上げると言う任務を無事に務めあげたのなら、ククルの最期まで、共に静かにこの森で過ごせればいいと思う。


「……分かりました。でも……」

「……うん?」


「夫夫喧嘩をしたら、いつでもここに帰って来ていいですよ。ここはずっとずっと、あなたの帰ってくる実家ですから」

「そんじゃ、そうさせてもらうよ」

俺はロイドの言葉に頷いた。


――――しかし。


「け……喧嘩なんてしませんから……!」

リューイが涙目でそう返してきた。いや、だからお前、竜皇としての威厳は何処へ行った。しかしここは俺の実家。伴侶としてのリューイの義実家だ。竜皇としてではなく、素のリューイを堪能できる場所ならば、やはり定期的に実家に顔を出すのも、悪くないな。


「はいはい、いいこにしてれば、俺も怒らねぇよ」

リューイの頭をぐりぐり撫でてやれば。


「私はもう子どもでは……っ」

「えぇ……?結構好きなんだが」

お前の頭、竜角はあれども相変わらず撫でやすいし。


「すき……クロムが、好き……」

リューイがぶつぶつと呟く。


「クロムがそう言うのなら……と、特別、ですよ……?」

「そう?なら、遠慮なく」

撫で心地の良いリューイの頭を、またぐりぐり撫でてやれば、周囲から微笑ましそうな笑みが溢れた。


――――そんな和やかな実家滞在を終え、両親に『また来る』と別れを告げ、俺たちは一旦、フォレスティア城へと戻ってきた。


当初の予定通り、リリィは兄貴に母さんのお手製お菓子を、ロイドは照れながらもククルに母さんお手製お菓子を手渡し、ククルが喜んでいる。


もちろんあれは夜の間俺が書き溜めて母さんに渡したレシピで、早速母さんが錬成したものだ。


「リーシアさまからのお土産までいただいて、本当に言葉になりません。その……もし良ければですが、世界樹の森だけではなく、またフォレスティア城までお越しくださいませ。私たちはいつでも歓迎いたします」

「……そうだな……もうひとり、なかなか実家に帰らん兄貴もいることだし」

兄貴を不意に見やれば、兄貴がばつの悪そうな顔をする。全く、仕事ばかりじゃなくて、たまには両親に顔見せてやれよ。多分リリィを使いにやらせてるのは、リリィが母さんのお菓子を楽しみにしているのもあるのだろうが。

――――ほんと、早く身を固めてふたりで会いに行って欲しいところである。


「お前たちに会いに、また来るよ」


ククルとロイドが創っていく国ならば……俺も少しは故国を好きになれそうだ。


ククルやロイド、兄貴を中心に、フォレスティア城のみなに見送られながら、俺たちはフォレスティアを後にした。


「クロム、これからの旅程だが、竜皇国城に戻る前に……」

「分かってるよ、リューイ。俺だけ両親に会うのは不公平だからな」

結婚の報告も兼ねて。次は先代竜皇夫妻の静養地へと、俺たちは足を向けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る