第15話 再起
竜皇と番になると言うことは、竜皇と同じ寿命を生きること。俺の方が200近く年上であろうと、これからリューイと千数百……代々の竜皇の寿命で言えば1800ほど永い時を生きるのだ。
そして同時に、まるで呪いのように、寿命以外では死ねなくなる。それが世界の礎であり、皇である竜皇の番の務めであった。
「クロム。竜皇との番の儀では『竜皇への求愛』と言う舞を踊ることが伝統なのだ」
「それは知っている。他種族の平民の子どもであっても知らぬものはいない」
そう言う絵本があるのだ。兄貴が書斎に眠っていた絵本を見せてくれたことがある。
「だが……先代は踊らなかったのだろう?」
その話も有名である。
だからこそその舞は廃れつつある。竜皇妃が踊らなかったのだからと、みな踊らないようにした。
いやな気の使いようだったがな……。
しかし何故、彼女は舞わなかったのか。それは単純に運動が苦手とか、そんな理由ではないはずだ。それでも求愛の祭剣くらいはくれてやるはずなのに。
彼女はそれすらも拒否した。リューイが生まれるずっと前……まだ竜皇に選ばれ、幸せの絶頂であった頃のはずなのに、彼女は踊らなかった。求愛を捧げなかった。竜皇の求愛に返すことはなかった。
だが先代は間違いなく番同士であり、彼女は寿命以外では死ねない、竜皇のための……まさしく人柱となったのだ。
だから、舞わなくとも番にはなれる。
それを証明したのも彼女である。
「母は……その理由を話してくれたことはありません」
リューイが悲しそうな表情を浮かべる。
「ただ、自分には踊る権利がないとしか、教えてくれませんでした」
踊る権利がない……竜皇に選ばれた唯一無二の誉れ高い妃に権利がないとは、どう言うことなのだろうか。
「だが私は……クロムに求愛する。それが私の……竜の本能だから」
「……」
そうだな……竜皇側は間違いなく求愛したのである。
「あなたが応えてくれようと、くれなくとも」
そんな悲しそうな表情を……先皇もしていたのだろうか……。
「……祭剣くらいならある」
成人祝いにはやれなかったが……。
「竜皇への求愛の祭剣だ」
マジックボックスからそれを取り出せば、リューイが息を呑む。
「俺は踊り子をやめた」
「けれどそれがクロムの夢なのでしょう?」
「かなわぬ夢だ」
「私と歩むのだから、かなう夢ですよ。だからクロム。私があなたの舞をしっかりと受け止める。周囲の目など関係ない。あなたは私だけを見て、私だけに求愛を捧げてくれ」
「……」
リューイのためだけにか。
俺はずっと恐れてきた。混ざりものをよく思わぬ世界の摂理にさらされることを。
だが俺が踊り子をやめたあとも、あいつらは……混ざりものであっても恥じることなく旅芸人を代々踏襲しているやつらもいる。
――――俺への恩だなんて、そんなんじゃないものを掲げて。むしろ迷惑をかけたのは俺なのに。
もしかしたら彼女も……そうだったのだろうか。座長の子孫と交わす視線を見ていれば、もしかしたら……とも思うのだ。
けれどリューイはそんな世界を俺と変えたいと言ってくれた。
やがて世界は、彼女たちが素顔で踊ることもできるようになるのだろうか。
そのためには……。
「分かった。俺が捧げる舞はお前だけのものだ」
「はい、クロム」
リューイのためならば、リューイにならば、舞うのもいいかと思ったのだ。
リューイとの夢を叶えるために、番になるための舞を。
――――俺はリューイに、捧げよう。
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