第46話 六人目の友達?
お金を投入し自販機のボタンを押すと、ピッピッと機械音を鳴らしながらガコンと自販機が飲み物を吐き出す。
何が好きかはわからないが、基本嫌いな事はなさそうなココアにした。
「また飲み物買うの?よく飲むね」
「いやこれは俺用じゃなくて清水さんに」
「委員長に?何で?」
「いやまぁ...こっちの話」
あの後、学食から出ていった岸宮さんを慌てて追ったものの、岸宮さんは学食の出入口の真横に立っていてそのまま合流する事に成功した。
俺を置いて帰らなかったのは彼女もまた話したいことがあったのだろう。
「それで、何で急に参加することにしたんだ?」
自販機の取口から飲み物を取り出しながら、ずっと聞きたかった疑問を投げかけた。
「別に深い理由はないよ。もとより委員長がちゃんと頭下げるなら参加するつもりだったし」
清水さんの事だからもうしっかりと伝えて謝ってるものだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
几帳面な彼女にしては意外だ。
「そもそもメンバーについてもメッセなり何なりで事前に言えばいいのに今朝学校に来ていきなり言われたからな。流石にちょっとイラッとしたわ」
「それはまぁ....岸宮さんの怒りは当然というか」
先日の様子を見るに言うに言えなかったんだろうが....
清水さんの心中は察するに余りあるが、流石に悪手だろう。
「つーわけで元よりやる気がないわけではなかったって事。どうせしばらく愛想悪くしてれば向こうから謝ってきただろうし、どのみち時間の問題だったワケ」
「それが何で今やる気になったんだ?」
「うーん...あんたの勇気に免じて?って事にしておけば丸いかな」
「また随分とあやふやな....」
「実際少し見直したよ。碌でもない噂だらけの私にあそこまで食い下がってくるとは思ってなかった。絶対そう言うタイプじゃないと思ってたもん」
「それは...どうもありがとう?」
言葉選びは悪いが、おそらく褒めてくれているのだろう....多分。
「厳密に言えばあんたの道化っぷりが面白かったからってのが本音だけど。詐欺師ってより道化師だったね」
いや、馬鹿にするために一回上げて落としたんだな。
....やっぱりこの人性格悪い。
「ほら、買ったならさっさといくよ」
「あぁ、はい」
思わず生返事を返しながら、先に行く岸宮さんに続いて教室へと向かった。
「あぁそうだ岸宮さん。正式にメンバーとして加わった証拠って言い方も何だけど、メッセのグループあるから入ってくれないか」
ここでちゃんと逃げ道を潰しておかないとなぁなぁにして逃げられる可能性もある。
なので、事前に形に残る方法で他メンバーに証拠を残しておく必要があるだろう。
「もうそんなのあるんだ。...いやまぁ神宮寺がいればそうもなるか」
実際最初にグループを作ろうと言い出したのは廣幸だ。
招待するためだと口実を作って朝比奈さんと清水さんの二人と友達登録をしているのを見た時は感心した。
自然な流れに持っていって連絡先を交換する手際の良さは流石陽キャと言うべきだろう。
「ごめん岸宮さん。招待するために友達になってもらわないといけないんだけど...」
「まぁあんたなら良いよ。本当は教室帰ってから委員長に招待して貰えば良いんだけど....気が変わらないうちに証拠が欲しいんだもんな」
こっちの目論見はお見通しか...
まぁでも素直に従ってくれるのならそれで良い。
「話が早くて助かるよ。そう言う訳でどうぞよろしく」
岸宮さんは、やや不満と言った表情ながらも、素直にQRコードを差し出す。
それを読み取って無事に友達登録、な訳だが....
読み取って表示されたのは名前は本名そのまま、アイコンも初期のままの捨て垢みたいなアカウントだった。
「しょ、初期アイコンのままなんだ。...これ捨て垢じゃないよね?」
「んな訳あるか、別端末を持ってる訳でもないのに。....別に困らんだろ、名前さえわかれば」
なんか女子高生らしくないんだよなぁ、この人。
JKといえば、友達と食べたスイーツやらお出かけ先の写真をアイコンとかにしてそうなイメージだったが...
いやこんなもんなのだろうか、俺の知識はラノベやゲーム由来なのでリアルは何もわからないのだが。
「なんか意外だなと思って....友達多そうだし」
「全然いないよ。あんたで六人目」
マジか、俺とどっこいどっこいだ。
「何でも良いけど他人に流すなよ、私の連絡先」
ふとなぜ少ないのか疑問に思ったが、そのアンサーは直後に本人の口から出てきた。
多分、本当に信用できる人にしか渡していないのだろう。
俺がその枠組みにいるのはいささか不思議ではあるが。
「流石にそんなことしないよ。てかそういうことしそうに見える?」
「念の為だよ。私の連絡先は高級焼肉食べ放題の価値がついた事もあるらしいからな」
「俺焼肉に流される奴だと思われてるのか...?」
「なんか平気で人を裏切りそうだからな。とにかく他人に流したら殺す」
「うん....気をつけるよ....」
そうこう話しながらも着々と作業を進めており、無事岸宮さんをリレーグループに参加させる事ができた。
岸宮さんは参加した事を伝えるために『あ』とだけメッセージを送ると、そのまま制服のポケットにスマホをしまった。
俺も招待だけ済ましてポケットにしまったのだが、バイブレーションが止まない。
....多分廣幸が騒ぎ立ててるんだろう。
「それから、リレーに出る上で大事な話を一つ。あんたらは多分放課後の練習もするんだろうけど私は参加できないから」
「わかった。代わりに授業中はちゃんと参加してくれ」
「それに関してだけど、参加はしても私は女神サマの面倒は見ないからね。あんたが責任を持って当日までに使い物になるよう教育して。これが最大限の譲歩」
「.....わかった」
まぁわかってはいた事だが....
朝比奈さんがどのレベルで運動ができないか何とも言えないが....とにかく大変なのは間違いないだろう。
「忙しくなるねぇ、一ノ瀬くん?」
「他人事みたいな...いやまぁ他人事か」
「そうそう。普段のあんたでも他人事で切り捨てるでしょ?」
いちいち刺してくるのは何なんだ....
「てか前から思ってたんだけどさ、取り繕ってんのって疲れないの?女神サマならともかく、あんたは別に愛想良くしてる必要ないんじゃない?」
「疲れはするけど...むしろありのまま振る舞ってトラブルが起きるよりかはマシだよ。そっちの方がよっぽど疲れる」
「そう言うもんかぁ。そうやって多少無理してでも猫被ってたのに女神サマの隣の席になっただけで全て水の泡ってのは流石に同情するね」
「それは仕方ないと思うけど。あの人もあの人で多分自分を守るのに必死なんだと思うし」
「それはないね。あれは人のふりして寄ってきたやつを養分にするタイプの化け物だよ」
「そうかなぁ」
俺と彼女の目に映る朝比奈さんが大きく違うのは、先入観とはまた違う、固定観念が彼女の中にあるからなのだろう。
俺が想像もできない程に根深い何かが、彼女の根底にあるような気がした。
これ以上は平行線だと思ったので、俺はこの話を広げなかった。
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