第49話 年齢不相応なやり方
朝比奈さんと無事に合流できたのはよかったのだが、そもそも待ち合わせした理由はなんだったのだろうか。
わざわざ考えずともその理由はこの後わかるだろうが、二人の関係性を秘密にしているというのに、みんなの視線が集まっている中であんなことをしたのを不思議に思っていた。
まぁ、あれだけ目立ってまで呼び止めたのだ、それなりの理由があるのだろう。
そんな事を考えながら目の前でプレゼントしたうさぎ達を丁寧な所作でごめんねと声をかけながらポーチに入れている朝比奈さんを見守っていた。
「お待たせしてすみません。というか私が待たせたのにプレゼントまでありがとうございます」
「いや、全然大丈夫だよ。それで朝比奈さんは俺になんか用があったんだよね?」
「はい。その通りなんですけど...」
「けど?」
「い、一ノ瀬くんの好きな食べ物ってハンバーグですよね?」
あれだけ目の前で大量買いすれば流石にそう思われて当然だろう....実際大好物なのだが。
しかしそれが俺を呼び止めた理由とどう関係しているのか全くわからない。
どんな理由があるにせよ黙ったままでいるわけにもいかないので、とりあえずそうだとだけ言っておけば良いだろうか。
俺が朝比奈さんの返答に困っているとすかさず朝比奈さんが補足した。
「言っておきますけどストーカーじゃありませんからね!ただ、一ノ瀬くんが前に大量の冷凍のハンバーグを買っていたのを覚えていたのでそうなのかな?と思っただけですから。好きな食べ物が別のなら今教えてください!」
そんなとこだろうと思っていた答えそのままが飛び出してきて思わず苦笑してしまう。
しかし、未だに俺にわざわざ好きな食べ物を聞く理由はわからないままだ。
例えば、誰かに作るための練習とかで作るのであればまぁ納得のいく理由ではあるが、朝比奈さんほど料理が上手い人がそう何回も練習が必要とも思えない。
しかも、そんな朝比奈さんが練習する程に気合いを入れて作る相手といえば....そう言う間柄の人だろうが、仮にその事が相手に伝わったのなら余計な問題に発展するのでは?
というか今日の今まで考えて来なかったが、朝比奈さんみたいな人にそういう相手がいるのは当然で、そんな事も考慮せずに二人で出かけてさえいたけど大問題だったのでは?
考えれば考えるほど色々問題点が上がってきてまためんどくさいことに首を突っ込んでしまったかもしれないことに頭を抱えたくなった。
「いや、ハンバーグで合ってるんですけど....お付き合いしている人がいるならやめておいた方がいいんじゃ...ないんですかね。色々お互いの為に...」
考えてなかっただけで極めて高い可能性に気づいた俺はたどたどしくはなってしまったがしっかりと自分の意見を口にした。
すると朝比奈さんは俺の言動に呆れたのか溜息を溢した。
「私にそう言った相手がいるとして、2人きりで出かけたり、異性の家にあがったりなんて不誠実な事をするような人間だと....私は一ノ瀬くんから思われているのでしょうか?」
「そうは思ってないけど....」
「思ってなきゃそんなこと言わないと思いますけど。それにそうやって自分の中だけで考えて勝手に結論づけるのよくないと思います」
言い方こそ諭すような言い方ではあったが、声色には怒りが滲んでいるのを感じた。
どうやら久しぶりに俺は再び彼女の地雷を踏んだようだ。
確かに朝比奈さんとの行動をよくよく考えればないとは思うが俺の思い込みかもしれないし”もしも”の可能性もあるわけで、俺はその可能性を捨てきれなかったのだ。
「いや...朝比奈その..綺麗だししっかりしているし...自分の芯を持ってる人だから」
「一ノ瀬くんは知ってるじゃないですか...私が嘘つきだって..あなたの言う"それ"はただの仮初の私ですよ」
「その仮初の姿もだけじゃなくて俺の知ってるありのままの朝比奈さんも魅力的だと思うから。それを含めても好きになる人もいるだろうなぁって....」
「....一ノ瀬くんは思ってることをなんでもさらっと言うのやめた方がいいと思います」
朝比奈さんは髪をくるくる指で巻きながら、俺の話を聞いていた。
俺の話なんか聞くつもりないという意思の表れだろうか...?視線も合わないし結構怒ってるかもしれない。
「思った事を言っただけだよ。これも俺なりに変わる努力したつもりなんだけど」
「と、とにかくですね。私は誰ともお付き合いはしてないですし、お付き合いしてたらこうやって声もかけていません。それから勝手に想像して決めつけるのはやめてください、以上です!」
「その件は本当にごめんなさい。以後気をつけます」
「本当に気をつけてくださいよ。おかげで話が脱線したちゃったじゃないですか」
先程までの静かな怒りから一変、頬を膨らませてわかりやすく怒る朝比奈さん。
とはいえ多分先程よりは怒ってないようでほっと胸を撫で下ろした。
「確かにそうだね、ごめん。好きな食べ物は朝比奈さんが言ってたので間違いないよ。それが朝比奈さんの要件に関係あるんだよね?」
色々と話が脱線しすぎたが声のトーンを落ち着け朝比奈さんに再度確認した。
「....私の方こそすみません。ちゃんと話がしたくて、その場を設けさせてもらう為に一ノ瀬くんの好きな物を振る舞おうと思いまして....高いお店ではなく私の手料理なのは申し訳ないのですが...」
真剣な眼差しでそう答える彼女を見て、おおよそ同じ年代とは思えない気の使い方に少し驚いてしまった。
普通に考えればたかが同級生同士の間柄でそこまでする必要などないのだ。
道端で気軽に話すのでもいいし、行ったとしてもファストフード店でポテトをつまみながら話したりするのが割とメジャーどころだろう。
高校生という人生の中で一番楽しい時間の思い出に残るであろうその方法ではなく、濁さずにいえばやたらと気を使った方法で話し合いの設けるという方法を選んた彼女は、きっとこれまで神経を擦り減らしながら生きてきたのではないだろうか。
きっと俺が何かを提案してもきっと目の前の彼女は譲らないだろう。
「わかったよ。ただしそのやり方は今回限りだ。俺にはそういうのいらないから。じゃあとっと買い物して帰ろうか」
「わかりました。ありがとうございます。一ノ瀬くん」
相変わらず変な関係性だなとしみじみ思う。
まぁ、これから朝比奈さんとは関わる機会も増えるだろうし気にしてもしょうがない所もあるのは自分でも分かっている事だ。
それに、ここ最近彼女と関わっていて不思議な気持ちになるのは否めない。
きっと彼女の輝きがあまりにも強いから普段より影が濃く映ってしまったのかもしれない。
「朝比奈さんって....眩しいね」
「いきなり何ですか?そんな風に持ち上げても付け合わせの野菜は出てきますからね?」
彼女の返答に苦笑いして俺達は買い物を済ませた。
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