第50話 落ち着かない時間

 無事に買い物を終え二人で帰路に着く。


朝比奈さんの手際のいい買い物でさほど時間は掛からなかった。


さらには私からお誘いしたのでお会計は出させてくださいとお金を支払う事も拒否されたのでせめてもと思い荷物を持たせてもらうことにした。


「ところで朝比奈さん。料理ってどこでするのかな?」


買い物した袋の中を覗き込み朝比奈さんに伺った。


「えっと、私の自宅を想定していましたけど...嫌でしたか?」


買い物袋には調味料系統はほぼほぼ買われていなかったので予想はしてたけど....。


「嫌って事はないんだけど...女性の家に上がるのは気が引けるというか....」


「私は別に気にしませんけど...」


まぁ、朝比奈さんの事だから色々とちゃんと考えての発言だろう。


それになにかあれば防犯用グッズを用いてボコボコにされるのが目に見えるがそれでも気が引けてしまうというか俺にとっては大分ハードルが高い。


「その...一ノ瀬くんが良ければですけど一ノ瀬くんお家で作るのでも大丈夫ですけど...」


先ほどまで平然としていた朝比奈さんが少し恥ずかしそうに提案してきた。


「その、一応調理器具はあるからそうしてもらえるとありがたいかな....必要な物だけ朝比奈さんの自宅から持ってきてもらわなきゃいけないんだけど...いいかな?」


「はい。それはもちろんだいじょうぶですけど。持って行くもの多そうなのでお手伝いいただいてもよろしいですか?」


自分の家の事情を思い返しても調理器具はあるにしても食器はないし、調味料などもハンバーグを作るには多分足りていなすぎるだろう。


そろそろちゃんとそろえなきゃいけないタイミングかもしれないな....


「もちろん。お手伝いさせてください。うちになにもなくてすみません...」


「ありがとうございます。そうですねぇ、一ノ瀬くんはもう少し人間らしい生活をしてくださいね」


「はは...なるべく早くそろえておきます...」


そう答えるといい心がけですねと朝比奈さんが心意気をかってくれた。


学校帰りから長いこと二人で一緒に居たが特に問題なく無事に家に着くことができた。


朝比奈さんといると何かしら起きるので若干身構えていたが後半は二人で話しながら帰っていれば気づけば自宅についていた。


最初は周りの視線の集まり方に嫌気を差していたが話し込んでいるときは一切気にならなかった。


きっとこれが自然体っていうやつであろうか。


「じゃあ私は一度部屋に戻って持って行くものを準備しておきますね」


「えーっと俺も汗とか流したいし、朝比奈さんも時間あったほうがいいよね?」


「お気遣いありがとうございます。じゃあ一時間程いただいてもよろしいですか」


「ん。了解!じゃあ一時間後くらいに4階来ますのでまた後で」


 朝比奈さんと一度別れ自分の家に帰宅した。


シャワーをすぐにでも浴びて汗を流したいところではあるが、一応部屋に人が来るので先に部屋のかたずけをすることにする。


と言っても前回朝比奈さんが来てから色々とあり部屋が綺麗になっているのでその後自分でもなるべく綺麗にしておこうと心がけているので前ほど散らかっていないのだが...


相手を招く者としては掃除機をかけて置くなど最低限、目に着くところはもう一度綺麗にしておいて損はないだろう。


俺は掃除機を手に取り廊下からリビングにかけて掃除機を滑らせた。


数分の努力で相手が不快な気分にならないのならいいことだろう。


ソファーにとりあえずおいていた衣類もこのタイミングで部屋にしまって一石二鳥である。


というか普通に考えればもし他の男性陣であれば朝比奈さんを家に招くことになったとするなれば気合の入りようがとんでもないことになるのだろうな、きっと。


それに比べれば当たり前なことしかしてない俺は...と思ったが一番初めに朝比奈さんが上がった時に散らかりすぎた部屋を目撃されているし掃除さえしていただいた身からすれば今更気合をいれた所で遅いのかもしれない...。


色々自分を見直さなきゃいけない部分がありすぎるな俺....。


自己嫌悪に陥りながら俺はシャワーを浴びに向かった。


風呂場から出れば体の気持ち悪さがなくなり、シャワーを浴びる前にエアコンをつけていたので涼しい部屋がお出迎えしてくれた。


このまま冷凍庫からアイスを取り出してソファーでくつろぎたい所ではあるのだがそんな訳にもいかずとりあえず部屋着に着替えた。


普段ならめんどくさくて絶対にかけないドライヤーも済ませ準備は完了といったところだろうか。


時計を見れば約束の時間まで十分くらいといった所だった。


朝比奈さんが相談してくる理由もすごく気になるところではあるのだが、お腹がすいた頃合いに好物であるハンバーグを食べれることに純粋に嬉しさを感じていた。


ちょっとくらい早めに出て待っておくか....。


家にいても変にそわそわしてしまったので俺は早めに家を出ることにした。


四階に着くととりあえず通路の端っこで外の景色を眺めていた。


少し前まで誰かとこうしてこの時間から人と会うことなんて絶対になかったし想像もしてなかったな。


しかもその相手が朝比奈さんなんて誰が想像なんて着くのだろうか....


一人で黄昏て変にふけってしまった自分に恥ずかしさを覚えた。


頭を横に振りごまかしているとガチャと扉が開く音がした。


「お待たせしました。早かったですね。インターフォン押してもらってもよかったのに」


「変に急かすのも悪かったから。荷物持つよ」


「相変わらずですね、一ノ瀬くんは。ではちょっと重いですがこちらお願いします」


俺は朝比奈さんから荷物を受け取り、自分の部屋に移動すべく二人でエレベーターに乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る