第18話 カフェとプリンとクリームソーダ

 並んでいる人が一組だけだったのもあり、そこまで待たされることなく店内に案内された。


思った程のお客さんは来てないのかと思ったのだが、俺たちが並び始めてから続々と後ろに並び始めており、店内に案内される頃には長蛇の列となっていた。


「早めに来てよかったですね」


店の中に入る時、後ろに並んでいる人達を見て朝比奈さんがそっと呟いた。


「そうだね、少しでも遅れてたらと思うと恐ろしいね」


 この日差しが強い中、あの行列に並ばされるのは流石にごめんだ。


店の中に入ると、ひんやりとした空気が俺たちを出迎えてくれる。


店内は仄暗く落ち着いた雰囲気で、お客さんの層も老若男女色々な人たちが足を運んでいるみたいだ。


 よくSNSでバズっているようなキラキラしているようなお店とは程遠く、落ち着いたクラシックが流れる店内に髭がよく似合うかっこいいマスターがいる昔ながらの良さがあるカフェだ。


「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」


店内に入ると従業員のお姉さんがお出迎えしてくれた。


「あ、2名です」


「2名様ですね、かしこまりました。お席へご案内致します。こちらへどうぞ」


お姉さんの案内の元、俺達は空いている座席に案内された。


 座席に着き、備え付けのメニューを広げ2人で覗き込む。


「こういう所はやっぱりどこもファミレスとは違ってメニューに写真とかはないんだね」


「そうですね。でも、この文字だけと言うのが昔ながらの喫茶店って感じで少しワクワクしますね」


 朝比奈さんはメニューをただ眺めているだけだというのに見るからにテンションが上がっていた。


「こういう喫茶店ってテレビとかでしか見たことがなかったので実際に来てみると感動しますね。あっ本当にナポリタンがあるんですね…!」


なんというか、これだけで楽しんでもらえると勇気を出して誘ってみて良かったと思える。


 やはり、廣幸にアドバイスを聞いて正解だったなと思う。紙パックのいちごミルクに雷神チョコ2つもつけてあげよう。


「一ノ瀬くんは何頼むか決めました?」


「いや、まだちょっと悩んでる。朝比奈さんはもう決まった?」


「私は一ノ瀬くんが下調べしてくれたプリンとヘーゼルナッツラテにしようと思います」


「ヘーゼルナッツラテ美味そうだ、よし、俺も決めたから注文しようか」


 注文しようと、店員さんを呼ぶベルを探したが見当たらず、心臓の鼓動が早くなっているのが分かった。


これ、手を上げて呼ぶタイプのお店なのか....


 前を見やると、朝比奈さんは店内を見渡していた。


視線がこちらに戻って目が合えばきょとんとした顔で首をかしげていた。


 朝比奈さんに頼めば注文してくれるだろうが、流石に男の俺がやるべき事なのだろう。


それに今日はお礼を兼ねてるんだ、迷惑ばかりかけられない。


「すみません、注文いいですか...」


手を上げてなんとか出した声があまりに弱弱しかったが無事に店員さんを呼べた。


 朝比奈さんはスラスラとメニューを読み上げて頼んでいたのに対し俺はメニューを指さし注文しか出来なかったのはヒエラルキーの問題だった。


――数分後


無事に注文したものが席に届いた。


 先ほどまで何もなく広く感じられたテーブルも頼んだ物で埋め尽くされ小さく感じられた。


テーブルの端にある100円占いの球体の存在が非常に悩ましいほどに。


「プリンすごく美味そう」


「ふふっ、そうですね。この銀色の容器がプリンの良さを更に引き立てていいですね」


「それじゃあ、食べようか」


「そうですね、いただきましょう」


 いただきます。お互いがそう口にしてプリンをすくい口に運んだ。


「うま...」


 個人的にプリンは固めが好きなのだがその固さも非常に自分好みでさらにはギリギリまで焦がされたカラメルがしっかりとからんでいて非常に美味しい。


これぞ、プリンって感じで口の中が幸せだ。


「本当に美味しいですね。こんなに美味しいプリンが食べれるなんて一ノ瀬くんに感謝しなきゃですね」


「喜んで貰えたならよかった、昨日は迷惑かけてごめんなさい、そしてありがとう」


「次は気を付けて外出してくださいね?」


 朝比奈さんに対してのお礼のつもりだったのだが、自分で調べて一緒に行って喜んでもらえるって嬉しいんだな。


お礼のはずだったのに、こちらの方が色々貰いすぎている気がする。


 そんな俺の心情など知る由もない朝比奈さんは今絶賛ヘーゼルナッツラテと格闘している。


淹れたてなのもあり大分熱そうなラテを息を吹きかけ冷ましている。


火傷しなきゃいいけど...そんな心配をしていると朝比奈さんはカップを口に運んだ。


「どうかしました?」


カップを戻しながら彼女が問いかけてきた。


「大丈夫?火傷しなかった?」


「はい、大丈夫ですよ。このラテすごく美味しいです!」


「ヘーゼルナッツラテって美味しいのに、お店によってあったりなかったりするしね」


「そうですね、見つけちゃうとついつい頼んでしまいますね」


「俺もヘーゼルナッツラテにすればよかったな」


 その言葉の後に朝比奈さんはこちら側にある物を見つめて笑い始めた。


「なんだよ...」


「いえ、いきなり笑ってごめんなさい。大分可愛らしい物を頼んだなと、でもすごく美味しそうですね。」


朝比奈さんが見て笑った”可愛らしい物”とは今俺の目の前にあるクリームソーダである。


 頼むのは少し恥ずかしさはあるが、個人的には結構好きな部類であるため色々悩んだ挙句注文することにしたのだが、まさか笑われるとは思わなかった。


「クリームソーダが子供ぽいって誰が決めたんだろうな」


「ごめんなさい、でも確かにそうですね。クリームソーダってそういう印象ありますよね」


「昔にもこういう所来たことがあるんだけどさ、その時に地元の...知り合いに子供ぽいって言われてさ」


「クリームソーダが子供っぽいかどうかはともかく、一ノ瀬くんは子供っぽいですけどね。偏食なところとかよくわからない変装をする所とか」


朝比奈さんは揶揄うように笑いながらそう言った。


「手厳しいことで」


「でも、」


「子供っぽくても良いじゃないんですか?それも一ノ瀬くんらしさだと思いますよ」


「それはどうもありがとう」

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