第17話 女神様とお出かけ
家を出てみるとそこにはすでに朝比奈さんはおらず、結局エントランスホールまで先に行ってしまっていた。
俺が到着する頃には先程の様子はどこへ行ったのかすっかり落ち着きを取り戻していた。
「さぁ、出発しましょう。とりあえず駅に向かえば良いんですよね?」
「そうだな、駅に着いたら電車で2駅移動して徒歩で十数分ってとこかな」
「わかりました。それでは行きましょうか。あまり遅くなると混んでしまいますし...それは一ノ瀬くんも困りますよね?」
朝比奈さんはそう言って少し意地悪く微笑む。
「まぁ、結構人気みたいだし急がないと混むかもだから急ごうか」
この日差しの中を並びたくないし、何より人が増えれば増えるだけ顔見知りに会う可能性が上がるし、それだけは何がなんでも避けねばならない。
エントランスホールから外に出ると強い日差しが眼を焼く。
昨日が特例だっただけで普段は日が高いうちからは外出しないのでこの日差しには慣れない。
先ほどの朝比奈さんの様子がおかしかったのが少し気にかかる。
本人は大丈夫だと言っていたが、この日差しの強さは体調が悪いとなるとやはり心配になる。
「あのさ、朝比奈さんさっきも言ったけど....」
言いながら横を向くとそこにはすでに朝比奈さんの姿は見当たらなかった。
慌てて朝比奈さんを探すと気づけばかなり先に進んでいたので、小走りで駆け寄っていくと、足音に気づいた朝比奈さんが振り返って少し驚いていた。
「結構離れていたんですね?何やってたんですか?」
彼女は心底不思議そうに聞いてくる。
「ごめん。考え事してた。結構歩くの早いんだね....」
「人並みだと思いますけど....一ノ瀬くん普段からあんまり喋らない人なので離れているのに気づきませんでした。すみません」
(・・・・。)
それは普段の俺が悪いな。
というか、俺みたいなやつの学校生活を把握している朝比奈さんは一体何者なんだろうか?
学校だけならまだしも、日常生活さえバレていて俺の駄目さ加減がほぼ筒抜けだ。
どれもこれも自分のせいであると、分かっているもののなんだか少し胸が痛い。
「考えてみれば一ノ瀬くんは病み上がりでしたね。気が利かずすみません。もう少しゆっくり歩きますね」
「いや大丈夫だよ。急がないと行けないし」
「そうですか?それなら良いですけど。辛かったら言ってくださいね?」
気がつけば立場が逆転しているがまぁいいか。
考えてみれば何を言った所でどの口がと返されそうなのでなんとも無駄な考え事だったわけだ。
駅に近づくにつれ休日も相まって人通りが多くなってきていた。
いくら朝比奈さんが変装しているとはいえ流石に少し不安になって周りを見渡して見ると、案の定朝比奈さんは人の視線を集めていた。
ただ見る限りでは顔見知りはいなさそうだ。と言っても俺はクラスメイトをろくに把握していないのでわからない可能性は多いにあるのだが。
「ちょっと一ノ瀬くん....!あんまりキョロキョロしないでください却って目立つんですってそれ....!」
前を行く朝比奈さんが俺の様子に気づいたのか振り返って小声で注意してくる。
「ごめん...どうしても気になって」
この人生で自分に注目が集まるって経験がないというかむしろ避けてきたのだ。
そんな奴がいきなり注目の的になったらそりゃあ挙動不審になってしまうのが通りであると思うのだが....。
「よくもまぁお礼にお出かけしようってなりましたね....」
俺の様子をみて朝比奈さんは呆れを通り越してもはや困惑していた。
確かに考えてみればそうだな、そもそもの話俺は相談相手から間違えたのかもしれない。
そんな会話を交わしていると気がつけば駅の前まで来ていた。
結局道中は2回ほどしか朝比奈さんと会話をしなかった。
我ながら壊滅的なコミュ力だ。
改札を通り、どっちの路線に乗るのかを改めて確認し、朝比奈さんにも共有した。
「あ、これから行く所ってそこの駅にあったんですね」
「もしかして、朝比奈さんこの辺詳しいの?」
「いえ、中学生の頃はこの路線のだいぶ先の駅までよく行ってたので。途中の駅にそんな有名なカフェがあるなんて知りませんでした」
「途中下車とかしなそうなタイプだしね、朝比奈さん」
旅行とかでも事前に建てた予定通りに動きそうなタイプだ。
生真面目というのだろうか。
「そうですね。なんだかんだ行って帰ると日が暮れてしまいましたし、寄り道したら帰りは夜遅くになってしまいますから」
朝比奈さんは中学生の頃から忙しくしていたのだなとなんだか感心してしまう。
そんな考えに耽っていると、突然朝比奈さんが大きな声を出した。
「一ノ瀬くん電車来るみたいです!急ぎましょう!」
電光掲示板を見た朝比奈さんが急かしてくる。
彼女の言う通り、電車がもう到着するようだった。
なかなか落ち着く暇もないなと思いながら置いていかれないように朝比奈さんについて行った。
急いでホームの階段を駆け上がると丁度電車が着いたところで割と余裕を持って電車に乗ることができた。
「はぁ…はぁ…あはは…意外と余裕ありましたし…そんなに急ぐ必要なかったですね」
朝比奈さんは肩で息をしながら少し恥ずかしそうに笑った。
そこまでの距離を走ったわけではないが、かなり疲れているように見える。
靴の問題もあるだろうがそれにしてもこれは....
「朝比奈さんってもしかして運動苦手....?」
「あはは…少し?苦手ですね....」
これ、多分少しじゃないだろうな。
「走る想定を考えずにヒールがある靴を履いて来ちゃいました。そういえば、一ノ瀬くんは普段から電車って使うんですか?」
「いや、基本は使わないかな。そもそも電車使ってまで遠くに行かないし、何より混むと最悪だからね」
「とことんインドア派なんですね」
「まあそうだね。朝比奈さんは電車よく乗るの?」
「乗るには乗りますけどこの路線は高校に入学してから始めて乗りましたね」
そんな他愛ない話をしていれば二駅なんてものはあっという間で、丁度話終わる頃には目的の駅に到着していた。
「ここからは歩きですか?」
「そうだね歩いて十数分」
改札を通ると普段よく行く駅周辺とはまた違った雰囲気の街並みが広がっていた。
「なんというか、俺たちの住んでいる街とはまた毛色が違うね」
「まぁそうでしょうね。二駅ともなれば結構な距離ありますからね」
都心とはまた違った、人に溢れかえっているがガヤガヤ騒がしい感じではなく心地よい騒がしさとでも言うのだろうか、個人的にはかなり好きな街並みだ。
今度は2人して街並みをキョロキョロと見回しながら目的地へと向かう。
普段住んでいる街とはまるで違った街並みがなんだかとても面白く感じた。
「なんだか今住んでいる街に引っ越してきたばっかの頃を思い出すよ」
そういえば越してきたばかりの時は物珍しさによく出歩いたものだ。
思えばあの時が一番外出していたかも
「そういえば一ノ瀬くんは実家は結構遠いんですか?」
「まぁそうだね。県を跨ぐくらいには…っとついたみたい」
十数分かかるはずだったのだが、気がつけば目的の店の前についていた。
店の前にはカップルと思しき二人組が一組並んでいるだけで他の人はいないようだった。
「早めに来て正解でしたね。他の人が来る前に並びましょう」
朝比奈さんの言葉に頷いて俺たちは店の列に並んだ。
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