第55話 あの日から....
廣幸の独断によって一度止められたパス回しは、トップバッターが俺から朝比奈さんに変わってのリスタートとなった。
別に俺の質問はさして間違ってはなかったと思うのだが、交友関係の広い神宮寺さんにとってはストップがかかるようなものだったようだ。
そこまで変だったろうかと若干の不満を抱えながら、お手本に選ばれた朝比奈さんからのパスを待っていた。
「じゃあ朝比奈さん、そこの柊くんにお手本を見せてあげてください」
廣幸が呆れたそぶりで朝比奈さんに声をかけた。
「は、はい。じゃあ一ノ瀬くんいきますよ?」
「はーい。いつでもどうぞ~」
「好きな食べ物はなんですか!」
….なるほど。
いきなりで質問する話題が出てこなかったのもあるが、そもそもの話一般的な質問ではなかったらしい。
ゲームは今や一般人にも浸透しているものだとは思うが、そこまで親しくはない一般人に対して、最初に投げかける質問としては確かに不適格だろう。
....世間と自身の感覚のズレというのは恐ろしいものだ。
廣幸の方を見れば頭を縦に振りうなずいていた。
「柊くん。わかったかね。とりあえずありきたりでもジャブは大切なんだよ」
言っている事はわかるのだが、ドヤ顔をされるとどうにも納得より苛立ちが勝る。
「....えっと、好きな食べ物はハンバーグかな」
俺が答えるとみんなが微笑んだ。
皆の表情を見るに何か含みが込められている気がした。
これ、絶対馬鹿にされてるよな....
正直に答えすぎるとこういう反応が返ってくるらしい。
「じゃあ、俺も続いて清水さん行きますよ~」
「はーい!いつでもきてください!」
清水さんに声をかけ確認をとり、女の子でも受け取りやすい力加減でパスをした。
「中学の時の部活はなんでしたか?」
「一ノ瀬くんナイスパスです!中学の時の部活は吹奏楽部でした!」
元気よく返す清水さんを横目に廣幸を見るとまたしてもうんうんと頷いていた。
どうやら、俺は廣幸の納得する質問ができたみたいだ。
その後、一度も止まることなく質問をしながら三周程した所で一旦休憩することにした。
「流石にまだこのクラスにもなって間もないから、知らないことばっかでおもしろかったな!」
「こういう機会がないと話す事もなかっただろうしな、まさかお前がケーキ屋の息子って事には驚いた」
「はっははは!まさに、このゲームの醍醐味だったな!」
本当に俺にこんな機会があるとは思わなかった。
俺が求めていた目立たず平穏な生活をしていたらきっとこんな展開はなかっただろう。
自分の予定には無かったこの高校生活は、朝比奈さんと関わるようになって変わっていたと思っていたがもしかしたらこの隣で笑う廣幸に入学式の日に声をかけられた所から変わっていたのかもしれない。
「なぁ、廣幸。お前から見て俺はどんな人間に映ってるんだ?」
「なんだ、急に気持ち悪いな。デレ期か?」
「デレてない。その、なんか気になっただけだ。いきなり変な事聞いて悪かったな」
そう、本当に気になっただけなのだ。
それ以外の理由は何もない。
気まずい空気をごまかすように俺はスポーツドリンクに口をつけた。
「入学式の日、最初に柊に声をかけた時さ。みんなは新学期でわいわい盛り上がってる中、一人教室の端の座で外を眺めるお前が目に入ったんだ」
少しの間の後、いつものふざけた態度とは違う口調で廣幸は話し始めた。
「最初はただ本当に目に止まったから俺も声をかけただけだったんだけど、毎日お前に絡んで話かけてもさ、めんどくさそうにするのに毎回返事返してくれたりしてさ....それが嬉しかったんだよ」
「まぁ、今ではなれたけど、当時は本当にめんどくさかったからな....」
「でも、お前は無視はしなかったよ。それでさ、少しずつ一緒に行動するようになってお前の嫌う事、苦手だろうなって言うところが俺の中で分かるようになった」
その言葉を口にした後、廣幸は俺の目をじっとみつめた。
「柊は目立つことが苦手で友達を頼ること...いや、人に頼ることが苦手な奴。俺はそう思ってる」
声がでなかった...というよりかは返す言葉がなかった。
ここまでドンピシャで言い当てられるとは思わなかった。
「その反応ってことは俺の予想は間違いじゃなかったみたいだな」
そう口にしながら廣幸は笑った。
「お前人たらしな癖に助けてとか口にしないし、弱みも見せないし、質が悪いんだよ」
昔地元の知り合いにも同じような事を言われたのを思い出して苦笑いしてしまう。
「それに加えて、細いし肌白いし不健康そうに映って総合的に見てほっとけない人ってとこだな」
...おい。
「後半悪口とか不満がこぼれてますが....」
「馬鹿言えよ。それを含めて俺の親友、一ノ瀬柊だろ?」
….やっぱりこいつは馬鹿だ。
馬鹿な癖に周りをよく見ているな。
「そっか、その...ありがとな」
「お前今日やっぱ変だな、デレを通りこしてるぞ」
「うるさい、デレてないし、そもそも俺はツンデレでもなんでもない」
「落ち着け落ち着け、どうどう」
「....誰のせいだと思ってるんだ」
「でも、いつか聞かせてくれよ。そうなったのもなんかきっかけがあったんだろうし、柊が俺に話してやってもいいなって思った時でいいからさ」
なんだよそれ....
どっちが人たらしなんだが....
「....なぁ廣幸。今度お前の家のケーキ食べてみたいんだけど、チョコケーキってあるか?」
「ん?あぁ、もちろんあるぜ!柊くんがご所望なら俺が作ってきてやろう」
「ケーキも作れるのか、すごいな。じゃあ楽しみにしてるよ」
話が終わる頃には、体育の授業が終わりに近づいていた。
「お二人で何話してたんですか?」
「確かに神宮寺さんと一ノ瀬くん長い事話してましたもんね」
二人とも気をつかってくれていたのだろう。
「リレーの作戦を考えてたんだよ、今日岸宮さんもいなかったからね」
「空露ちゃん、着替えの時はいた筈なんですけど....毎回すみません、ご迷惑をおかけしてしまって」
「まぁ、また別の機会に練習するから気にしない、気にしない」
体育館にホイッスルの音が響いた後、先生が使ったものを片付けるよう指示を出した。
「おや、もうすぐ授業も終わりみたいですね。みなさん、早めに先生のところに行きましょうか」
「はい!私は先に行ってますね。一ノ瀬さんと神宮寺さんもあまり遅くならないように!」
「いや俺ももう行くよ。わりぃ柊、ボール戻しといてくれないか?」
そう言って廣幸は俺にボールをパスしてくる。
....面倒ではあるが特別断る理由もないので戻しておいてやるか。
「あぁ、やっておくよ」
「それなら私も―――」
「いいからいいから。ここは柊に任せてやってくれ、実はさっきしたゲームの罰ゲームなんだ」
私も残ると言いたげな清水さんを遮って廣幸は清水さんの肩を押して体育館のステージ前に連れて行こうとする。
「....は?」
いや待て、知らない話が出てきたぞ...?
「えぇ...?ま、まぁそういう事なら一ノ瀬さん、お願いしますね」
清水さんを連れて行く途中、廣幸は一瞬振り返ってこちらにウィンクしたのが見えた。
あいつまだ変な誤解をしていたのか...
「朝比奈さんも行ったら?ボールは戻しておくからさ」
「いえ、私も残りますよ。一ノ瀬くんだけに任せるのは申し訳ないので」
一応は言ってみたが案の定こうなった。
というよりあいつ、絶対こうなるとわかっててやりやがったな....
余計な事をしやがって。
「それじゃあ、さっさと戻して合流しようか」
「そうですね....とはいえすごい人が集まってますね...」
直前までボールなどを使っていた生徒が多かったせいか、体育倉庫の周りは人だかりができていた。
仕方ないので人が減るまで待つしかなさそうだ。
「ところで、リレーの作戦?でしたっけ是非聞きたいんですけど」
朝比奈さんが突然口を開いたと思ったら先ほどいい加減についた嘘について追求されてしまった。
「あ、あぁ、あれか。いや....色々話したんだけどやっぱり仲を深めて連携するのが1番だよなってなったんだ」
まさか追及されるとは思わなかったので作戦と呼ぶにはあまりにもお粗末な返答になってしまった。
確かに作戦と言われれば1番気になるのは彼女だろう。
最近やたら二人で話す機会が増えてきたのだから、事前にもう少し練っておくべきだっただろうか。
「なるほど....やっぱり連携をとる上で大事ですよね、そういう事は」
「うん、まぁ基本は大事だよなってさ、ははは...」
「うーん、仰ることはわかるのですが、今日岸宮さんとは全く仲を深められてないですけどこの先大丈夫ですかね」
「どうだろうね....」
多分ダメだと思うけど...どのみち勝てる可能性は最初から低いのでそこを気にしても仕方がないだろう。
そうしてどうにか作戦の話を乗り切った頃には体育倉庫周りの人だかりはかなり減っており、俺と朝比奈さんを含めて数名のみになっていた。
「だいぶ人が減ったし、さっさと終わらせちゃおうか」
これ以上話してボロを出しても嫌なのでさっさと切り上げる。
とはいえそんな隠すことでもない気もするが、あれの話をするのはなんだか気恥ずかしい。
「はい。これ以上待つと遅くなっちゃいそうですし」
体育館倉庫の中に入ると、カビ臭いような独特の臭いが漂う薄暗い空間の中に、蓋が開いたボールカゴが鎮座していた。
ボールカゴはすでにいっぱいいっぱいで、俺たちのボールを戻せるのかと思えるほどだ。
「ここに戻せば良いんだよね。朝比奈さん、ボール貸して」
声をかけても朝比奈さんはこちらにボールを渡すどころか抱えたままこちらを見ている。
「それで、本当はなんの話をしてたんですか一ノ瀬くんは?」
そういう朝比奈さんはまた少し意地の悪い、いつもの小悪魔スマイルだ。
最近学校でもこの顔を見るようになったのは多分、リレーのメンバーとして二人でいる時間が増えたからだろう。
「いや、別に嘘はついてないよ。そんな事で嘘つくメリットがない」
「まぁそうですよね、ごめんなさい。なんだかいつもより楽しそうだったので、てっきり神宮寺くんと熱く友情でも語り合ったのかなぁと」
広義の意味ではそうなるかもしれないが、何となくそれを認めたくはない。
というかいつも思うが何でそんなに鋭いんだこの人は。
「そこまでの話はしないよ....わかったらボールください、戻すので」
俺の呼びかけをまたも無視して朝比奈さんは俺の真横を素通りし、自分でボールをカゴに戻して蓋を閉めた。
「それには及びませんよ、これくらいは自分でやります」
そう言いながら朝比奈さんは南京錠をかけると立ち上がり、こちらに向き直った。
「別に対した手間じゃないからいいのに....」
「大した手間じゃないからこそですよ。終わったので戻りましょう。早く行かないと叱られちゃいます」
「そうだね、早く行こうか」
「あぁ、それから――」
俺が体育倉庫から出ようと扉の方に向き直った瞬間、背後に気配を感じた。
朝比奈さんが俺のすぐ後ろに立っていることはすぐにわかった。
....何の意図があるのかはわからないが。
「....誤魔化したつもりでしょうけど、あんな嬉しそうな顔してたらバレバレですよ。嘘つきの一ノ瀬くん」
ほんの僅かな間の後、朝比奈さんは俺の耳元でそう囁いた。
「なっ....」
「ふふっ、それじゃあ私は先に行ってますね」
何かを言い返す間もなく、朝比奈さんは小走りで集合場所に先に行ってしまった。
....やっぱり彼女に隠し事はできないらしい。
本当に俺の周りの人間は感の鋭い人が多くて困る。
「みんな一体どこでその洞察力を身に着けたんだが...」
そんな事をぼやきながら俺も集合場所に小走りで向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます