第13話 悩みは寝起きとともに

 「交渉成立ですね。さて、掃除機もかけ終わったので私はそろそろ帰ります。」


「何から何まで本当にありがとうございました。」


 深々と頭を下げたが今度はもうふらつかなかった。


「しっかり感謝するようにと....言いたいところですが私の自己満足でもありますから」


「そんなことないよ。本当に助かったよ」


 実際本当に感謝している。正直一人で家に帰るのにも絶望していたし、部屋の掃除に関しては今度やろうとあと伸ばしにしていたら部屋が散らかり過ぎて正直何をしていいのか分からなくなっていた。馬鹿野郎とはよく言ったものだ。


「それと何度も言うようですが、次からはきちんとゴミを捨てること....あと多少は自炊できるようにした方がいいと思いますよ。成長期なんですからちゃんとしたもの食べてください」


きっと俺に保冷剤を渡すために冷凍庫を開けた時に中身を見たのだろう。


朝比奈さんは嫌なものを思い出したかのような顔を浮かべていた。


「ははっ...善処するよ」


心配してくれているのだろうが、小言の内容が母親そのもので苦笑いしてしまう。


「あ、このお礼は必ず、必ず何かしらで返すよ」


「別にそんなのいらないですよ、言ったでしょう?私の自己満足でもあるって」


「そういってくれるのは嬉しいんだけど俺としてもなんか返したいからさ、なんか考えておくよ」


「それはありがとうございます?では、お邪魔しました。お大事に」


彼女を見送ったあと部屋に戻り、まだ治りきっていない体調のせいか瞼を閉じれば一瞬で意識をを奪われた。


****


 朝比奈さんに散々お世話になった次の日、俺は頭を悩ませていた。


昨日の体調が嘘みたいなほど今日の調子はよく体は軽い。


朝比奈さん様様だ。


そんな万全な体調だからこそ俺は今頭を抱えている。


「お礼って言ってもどうしよう」と


 言うまでもないことだが、俺と彼女はそこまで長い付き合いでもないし、これまで関わりがあったわけでもない。


そのため彼女の好物や欲しい物も何一つ分からなかった。


またこの間のプリンでも買って行こうか。いや、流石に安直過ぎるか?


あれが彼女にとって美味しかったのかどうかもよくわかっていない。


あんまり美味しくなかったと感じたならば買っていっても迷惑だろう。


なにより、あれだけお世話になったのにプリン一つというのは流石にあんまりだ。


「いっそのことギフトカードでも渡すか....?」


....自分で言っておいてあれだが流石に無いな。


 学生同士のやり取りでお礼にギフトカードというのは何か不純な気がするし、それに朝比奈さんは絶対に受け取らないだろう。


というか、逆に何か返す方が迷惑なのではと思い始めてきた。


....ダメだ。思いつかない。


こういう時は廣幸に聞くか。


あいつがモテる為に色々情報を常日ごろから仕入れているのは知っている。


きっとこういう時のお礼もあいつに聞けば問題ないだろう。


ただ、どう相談するか....


 朝比奈さんにお礼すると言うわけにはいかないし、かと言って女子にお礼をすると言っても確実にめんどくさいことになるだろう。


送る前から色々目に見えて想像でき謎の疲労感に襲われた。


色々悩んだ末に廣幸にメッセージを送った。


『突然申し訳ないんだけど、女性にお礼をする時って何を渡してあげたらいいと思う?』


『女性って言っても姉なんだけどさ。病気したときに看病とかしてもらって。』


結局、姉にお礼をするという体で話をする事にした。

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