第3話 平穏を壊したマシンガン

  同学年に、しかも同じクラスに朝比奈月がいてくれたのはとてもありがたかった。


 普通に入学したのなら自分が他の生徒と関わりたくなかったとしても初日で浮かれている同年代の皆は友達を作ろうと声をかけてきたに違いないが、彼女が先程の登壇であまりにも目立ったおかげか同じクラスの人どころか他のクラスの人たちでさえ彼女の机を囲む群衆とかした。


こんだけ囲まれてしまっては彼女もいい迷惑だろう。


 しかし先程の入学式で1人静かに目立つ事なく学校生活を送ろうと決めた俺にとってこれは非常に好都合であった。


 こんだけの注目の的の存在がいるのだから俺は教室の隅でおとなしく過ごして、最低限の会話さえすれば誰1人として俺に興味を持つ事なくとりあえず1年は余裕で終わるだろうと俺は安堵したのだ。


「一番後ろの窓際の席なんて当たりだな!」


 こいつに声をかけられるまでは。


自分が声をかけられたと気づくのに数秒かかった。


声をかけてきていたのはいかにも陽キャっぽい男だった。


「あ、あぁ...どうも」


正直俺は絶望していた。


 なぜクラスが彼女に寄ってたかっているこの状況のなかでわざわざ俺に声をかけてきたのだろうか。


「テンション低いなぁ!せっかくのめでたい日だぞ!」


こいつ、やたら声がでかい。


「受験勉強を乗り越え、ようやく青春を謳歌できるってのになんでそんな干物みたいな目をしてるんだ?」


「ざんねんながら俺は指定校推薦だよ、君の苦しみは共感できないかな。」


「指定校推薦か羨ましいわ、俺はもうこの学校に来るためにどれだけ苦労したことか!」


「そ、そうか...」


「おっと、そうだった。自己紹介が遅れたな」


「俺は神宮寺 廣幸ひろゆきだ」


「この高校に来たのはもちろん女子のレベルが高いからだ!」


....動機が不純すぎる。


まぁ俺も人のこと言えた義理ではないのだが。


おそらく、今俺の顔は最高に引き攣っているだろう。


そんな俺の様子を気にも留めず、目の前の青春野郎は話し続ける。


「いや、もう本当に入ってよかったね!望が丘高校!俺たちの学年、めちゃくちゃレベル高いって先輩達の間でも噂になってるらしいぜ!」


まぁ、それは納得できる。


たしかに朝比奈さんはは言うまでもないし、周りの女子たちも地元に比べるとレベルが高いようにも思う。


 なんとも失礼なことを考えながら朝比奈に視線を送っていることに気づいたのか、目の前のマシンガンは更に加速する。


「やっぱり朝比奈さんだよな!わかるぞその気持ち!」


「いや俺は…「でもな!朝比奈さんだけじゃないんだ、この学校にはまだスポットライトが当たっていないだけで可愛い子、綺麗な子がたくさんいるんだ!存分に悩みたまえ少年。」


誰かこいつの口をふさいでくれ。


「ちなみに俺は同じクラスの岸宮さんが気になっている....」


知るか。


「それから…」


そんな話を何分聞かされていたのだろう。


 ようやくこちらの様子に気づいたのか、それとも単に話終わったのか分からないが、奴の話はひとまずの区切りが着いたようだ。


「おっと悪い悪い、俺ばっかり話しちゃって」


全くだ。


恋愛がしたいのならまずは会話を試みるべきだろう。

こんなのものは会話ではない。


「いや大丈夫だ…」


「あ、聞きそびれてた。名前は?それからなんでこの学校へ?」


「俺は一ノ瀬柊。この学校に来たのは地元を離れたかったからだよ。」


「そうか、まぁあんま深くは聞かないでおくよ。とりあえず、これから一年よろしくな!」


変に間を作ったせいで多分気を使わせてしまった。


どうやら人のことを良く見ているタイプのようだ。


....多分。


「あぁ、よろしく」


 こうして俺の静かな学校生活は、廣幸との出会いによって早々に跡形もなく消し飛ばされたのであった。

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