第28話 女神様との関係性
無事に晩御飯をゲットした俺はコンビニを後にした。
先に歩いて出ると少し後ろにいた朝比奈さんが俺の後を追うように駆け寄ってくる。
てくてくと効果音がつきそうな足取りは非常に可愛らしかった。
疲れすぎて頭が働いてなかったが冷静に考えて見れば、今の状況は俺が最も避けたかった状況なのではないだろうか。
2人で一緒にいる所を見られたら..と思ったものの、考え直してみれば俺達が寄ったコンビニは自宅近くにあるので、早々知り合いに会うこともないだろうと気にしないことにした。
というか、前々から思っていたが朝比奈さんは俺なんかと一緒に居るのは嫌ではないのだろうか?
少なくとも俺みたいな冴えない男はあいつらにも言われた通り不釣り合いであるし、俺なんかと変な噂立っては朝比奈さんにとっても不都合ではなかろうか。
そもそもの話、特に会話があるわけでもないこの状況は気まずくないのだろうか?
俺だったらまず間違いなく見かけても声など掛けずに速やかに帰宅しているだろう。
....まぁこれは性格の違いによるものだろうが。
それはそれとしても考えれば考えるほど、キリがない程に疑問が浮かんでくる。
実際、なんでここまで関わってくるのか本当にわからない。
気圧のせいでただでさえ低下していた頭のキャパシティがオーバーしたので俺は大きく息をついて思考を放棄する事にした。
やっぱり帰宅したら一度寝よう....
上を見上げると沈みかけた日の光が目に差し込み目を細める。
隣にいる彼女と特に会話などもなく黙々と歩いていると、俺たちが住んでいるマンションが見えてきた。
ここまでの距離はあまり離れていないものの、俺は非常に気まずい時間を過ごしている。
話を振ろうにもこれといった話題も特に出てこず、ほぼ諦めていた。
悲しい事に2週間ほど前の外出から俺の話題は一切増えていないようだ。
普通は学校に通っていれば何かしら話題が生まれそうな物なのだが....改めて中身のない学校生活だと思う。
俺が1人頭を悩ませている中、朝比奈さんはと言えば、この状況下でも別段気にしている様子もなくただ隣を歩いている。
家までの道のりも長くないので彼女からすれば特に気にする事ではないのだろう。
俺が少し気にしすぎなのかも知れないが...一緒に出かけたり、条約を結んではいるが、別に親しい間柄でもない相手だからこそ俺は気まずさを感じているのだろう。
とは言え別に親しくなりたいという訳でもない。
それは、下手に関係を深めれば俺にとっては自分が求めている日常からかけ離れてしまうからだ。
無味無臭の3年間を目指す俺にとって、彼女はあまりに鮮烈すぎるのである。
俺が捻くれた性格になっていなければこの状況を少しでも楽しんでいたのだろうか?
健全な男子高校生であれば、この状況を少しでも楽しめていたのだろうかとも考えたが、朝比奈さんのようなハイスペックな人の隣にいるのは釣り合ってないと感じてしまう気がする。
…この考え方自体が捻くれている気がするが、仕方ない。
根本的に捻くれている人間に捻くれてない考えはできないのだ。
どちらにせよこの状況を楽しむことができないのを改めて理解したので、せめて気まずい関係をどうにかしたいところだ。
今こうして朝比奈さんと歩いていて気まずいのは、特別親しくもなく友達でもないのにただ条約を結んでいるだけの関係だからではないだろうか。
....ちょっと待てよ?
言いふらす気など一切無いために忘れていて、いつからか自分だけが一方的に弱みを握られていると思っていたが、俺も朝比奈さんの秘密を握っているのだ。
正直俺の秘密なんてものは大したことでもなく、なんなら悪目立ちしている今バレたところで、既に何故か高い俺へのヘイトが更に高まるだけだろう。
しかし、朝比奈さんの秘密は違う。
バレてしまえば、それは朝比奈月という人間の立場を大きく変えてしまう可能性のある秘密なのだ。
改めて考えるとお互いの秘密の重要性が違いすぎるのによく成立した条約だなと思う。
ただ、少なくともお互いが色々な意味で無視できない存在にはなっているだろう....多分。
「あの、何か変なことを考えてませんか?」
「いや、別に、特に何も考えていないけど」
思考を巡らせる事に集中していたのと、話しかけられる事などないだろうと思っていたこともあって、かなり不自然な話し方になってしまった。
「そうですか。私に熱い視線を向けて何やら考えていましたけど、気のせいでしたか」
「なっ....」
確かに朝比奈の今の現在状況を把握する為に見てはいたが、熱い視線など向けていないし、変な事も考えていない。
最後は自分でも何を考えてるんだと思いはしたが、朝比奈さんは気まずくないのかなというしっかりとした疑問から始まったものだ。
捏造は辞めていただきたいものである。
「ふふっ...冗談です」
冗談を言って笑う彼女は悪戯めいた小悪魔的な微笑を浮かべていた。
「心臓に良くないから、あまりからかわないでくれ」
「そうですね。じゃあ、もうすぐお家に着いてしまいますし何を考えてたか教えてください」
別に言っても構わないのだが、これは人に寄っては失礼に当たるんではないかと考えてから、朝比奈さんなら理解してくれるだろうと思い俺は問いに答えた。
「大したことじゃないんだけど、朝比奈さんと俺の関係性ってなんなんだろうなと思って」
「関係性、ですか?」
「うん。一緒に出かけたこともあるし、条約も結んでて、でも友達って訳でもないから....」
「そういうことでしたか、なら同じマンションのよしみって所でどうですか?」
なるほど、確かにいい落としどころではあるなと俺は思った。
「同じクラスのそして偶然同じマンションでお互い一人暮らしをしている訳ですから、お互い助け合おうって奴ですね。まぁ、まとめてしまえば縁があったからとかですかね」
朝比奈さんに説明されれば偶然にも重なり過ぎている状況は確かに何かしらの縁があると言えるだろう。
「確かにこの状況下はなにかしら縁が絡んでるかもね、同じマンションのよしみ。それでよろしく」
そのくらいの距離感でいい。
同じマンションに住んでいて、偶然クラスメイトだった、それだけだ。
俺は彼女に対して特別な感情など一切ないのだ。
「一つだけ聞いても良いですか?」
「俺に答えられる事なら」
急に改まってそう言われると思わず身構えてしまう。
「もし、私が一ノ瀬くんのことが好きだと言ったら…お付き合いしてくれますか?」
彼女は一体何を言い出しているのだろうか?
学校中の男子が求めているだろう言葉を自分から言ってきたのだ。
口元に指を添えながら悪戯っぽく笑う彼女の表情は、夕焼けの影がかかったせいなのかどこか儚げに見えた。
この状況で断れる奴は絶対にいないであろう。
...俺以外は。
恋人という関係性に興味がないわけじゃない。
俺とて男子高校生、憧れがないと言えば嘘になる。
友人は物心ついた頃からの付き合いの1人しかおらず、そもそも人を信じることができない俺が人を好きになれるはずがないのだ。
「朝比奈さんはすごく魅力的な人だけど、付き合えないかな」
俺の返事を聞いた朝比奈さんはどこか安心したような表情をしているように見えた。
その表情の裏にある想いを汲み取ることはできなかったが、俺には知る由もない何かが彼女にはあるのだろう。
「....それを聞けてよかったです」
「よくわからないけど、お役に立てたなら何よりだよ」
「まぁ、一ノ瀬くんが好きなのはさっき見てたような水着のえっちなお姉さんみたいですし、元から心配はしてなかったんですけど」
そう言い残して朝比奈さんは俺をおいてマンションに入って行った。
うん...朝比奈さん、それが理由で付き合えないと答えたわけではないのだが....
そもそも、あの少年誌もお姉さんを見ていたのではなく、連載されている好きな漫画があっただけなんだ...。
というか待て、心配ってなんだ。
思うことは色々あるが、とりあえずこのままにしておくのはまずい気がする。
誤解をなんとか解なくてはならない。
「ちょっと!朝比奈さん!!」
このあと声を出しながら追いかけた俺は、マンションで大きな声を出さないでくださいと朝比奈さんに怒られたのである。
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