第27話 コンビニでの攻防
コンビニに入店した俺は、本来の目的である弁当コーナーではなく、雑誌コーナーに足を運んだ。
普段は漫画や文庫本などを好むのだが、コンビニにあるおすすめの本や雑誌だけは何故か異常に惹かれてしまうのだ。
その為コンビニに訪れた際には、必ず雑誌コーナーを目にして好みの物があれば購入したりしている。
気になった冊子に手を伸ばし、ちらっと中身を見ては棚に戻し繰り返した。
今日は特に気になる冊子はあまりなく、最後に際どい水着を纏ったお姉さんが表紙の少年誌に手を伸ばした。
けして下心は持ち得ていない、中に連載されている漫画の一つが俺の好きな作品なだけなのだ。
もう一度言おう。決して、一切の下心はない。
心の中で誰かの問いかけに返答したところで、俺は少年冊子の最初のページを開いた時にはすでに色々遅かった。
「へぇ....一ノ瀬くんはこういう女性がお好みなのですね」
隣の気配を感じて横を向くと、朝比奈さんが雑誌を覗き込んでおり、俺は素早く雑誌を閉じ、とりあえず朝比奈さんの言葉をスルーした。
「やぁ、朝比奈さん。この中に連載されている漫画が好きなやつで...下心は一切ないです」
とりあえずこの状況を何とかしようと、挨拶で乗り切ろうとしたが勢いのあまり余計なことまで口にした気がする。
「あなたの行動を見るに下心ありそうでしたけど、まぁいいです」と冷たく言い放たれる言葉が胸に刺さった。
....なんか...色々と最悪だ。
そういえば、なぜ朝比奈さんはここにいるのだろうか?
俺は彼女たちが話している最中にしれっと帰宅したのだ、話の中心だった彼女がここに来るのにはあまりに速すぎる。
「ところで、朝比奈さんはなんでここにいるの?俺、皆が話してる間にしれっと帰ったんだけど」
「知ってますよ?一ノ瀬くんがそーっとフェードアウトして行くのを見て、私もすぐに話を終わらせて学校を出ましたので」
気づかれていないと思っていたらしっかりバレていたようだ。
しかし、俺のすぐ後に学校を出たと言う事は....
「もしかしてコンビニに入ったの見られてた?」
「はい、一ノ瀬くんのすぐ後ろを歩いていたので見てましたよ」
声を掛けずにただ後ろを歩いているだけ....
脳裏にある単語が浮かんだが、以前にそれを口にして怒られたので黙っておく。
「何か言いたげな顔ですね」
まるでこちらの思っている事を見透かしているかの様にムッとした様子の朝比奈さんが聞いてくる。
毎度思うが何故こうも彼女は鋭いのだろう。
「いや、お礼言ってなかったなと思って。さっきはありがとう。おかげで一応穏便に済ませられたのかな...あはは」
誤魔化しもあるが、感謝しているのは事実だ。
話を聞く限りでは、おそらく俺は彼女に助け舟を出されたのだろう。
おかげでどうにか収集がついて早々に帰ることができたので正直すごく助かった。
ただあくまで”今日の所は”無事に済んだというだけで今後どうなるかはわからない。
「いえ...それでも、珍しいですね。一ノ瀬くん目立つの嫌いじゃないですか?あんな分かりやすい挑発に乗るなんて」
朝比奈さんに大分痛いところを突かれてしまった。
確かにあの時は冷静さに欠けていたが、これからこういうことが続く可能性があるなら一度はっきりと直接相手にいうのはあながち間違いではなかっただろう。
ただまぁ、一度冷静になって考えてみれば言い方が悪かったなとは思う。
自分の問題に他人を巻き込んでしまった結果から見れば、きっとスルーして帰るのが正解だったのだろう。
「あまりに理不尽すぎたから....でも次は上手くやるよ。今日は本当にありがとう」
今日のお礼を改めて言うと、肩をポンと叩きながら頑張ってくださいとだけ言って彼女は別の売り場に歩いて行った。
俺も彼女を追いかけるようにコンビニに入った理由を思い出し雑誌売り場を後にした。
* * * *
「一ノ瀬くんさっきから何を悩んでいるんですか?」
「今日の夜ご飯だよ。弁当にしようか、カップラーメンにするか悩み中」
彼女の質問に対してそう答えると隣から溜息が聞こえてくる。
「少しは自分で作ってみようとか思わないんですか?体にもよくないですし、毎日買って食べていると食費もかさみませんか?」
確かに彼女の言う通り、生活している中で一番かかっているお金は食費ではあるのだが、今までろくに料理などしてこなかったし味も保証されない。
下手すれば食えたものじゃない暗黒物質が生成されるリスクもあるのだ。
それなら少しでもお金をかけて美味しい物を食べた方がいい。
それに金銭面に関しては、ありがたい事に一人暮らしを始める前に高校生が手にするには大きすぎる金額が入った通帳を貰っている。
そこに入っているお金は、子供保険や父親との離婚が決まった時に俺が高校生卒業するまでのお金が入っているらしい。
無駄遣いは駄目だけどあなたの好きなように使いなさいと貰ったお金をありがたく使っている。
そのお金とは別に母親から毎月生活費が振り込まれているが、基本的には貰った通帳のお金を使い、母親から毎月送られているお金は貯めており高校卒業と同時に返そうと思っている。
まぁ、今住んでいる物件の家賃などは母親に支払って貰っているのがなんとも言えない気分になるが....
「そのうちチャレンジするよ....多分」
朝比奈さんにそう答えながら手に持っていたハンバーグ弁当を選択した。
「そうですね、いきなり料理しても一ノ瀬くんケガしそうですし、初めは絶対に誰かとやってくださいね」
了解と返事をして俺はレジに向かおうとすると鞄を引っ張られた。
「朝比奈さん危ないって俺の晩飯が落下する所だったよ」
「それはすみませんでした。お弁当ってだけでも体に良くないので、せめてこれも買ってたべてください」
そう言って彼女は俺にサラダパックを渡してきた。
「....朝比奈さん俺、野菜苦手」
「知ってます。前にスーパーで買い物している時のカゴに野菜の面影が一切なかったので」
確かに、一人暮らしを始めてからほぼ野菜とは無縁の生活をしていた。
実家にいるときはご飯を作って貰っている立場状文句などは一切言わず食べていたし、母親も俺の野菜嫌いを知っていて色々手間や工夫をしてくれていた。
「朝比奈さん...」
「なんですか?他の種類にしますか?」
そう言って朝比奈さんが指差したのはコンビニのキャンペーンで1.5倍になったサラダである。
ドカ盛りキャンペーンとはいえどもここまでくるともはや草食動物用だ。
「いえ、それで大丈夫です....」
絶対に買わせて食べさせるっていう朝比奈さんの圧力に負けて俺はサラダパックを受け取った。
俺にも学校での女神様ムーブで接して欲しいものだ、これでは悪魔じゃないか...と野菜を食べなきゃいけない不満感を持ちながら俺はレジに向かった。
会計中隣でサラダをちゃんと買えてえらいです。と小さな子供を褒めるみたく言われた俺とその光景を見ていた目の前の店員さんが苦笑いした。
立ち振る舞いも相まって彼女は女神改めやはり悪魔だった。
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