第33話 種目決め

 前回の授業の続きが終わり、種目決めの時間がやってきた。


俺は結局やりたい種目が決まることはなかったどころか、そもそもなんの競技があるのかすら把握していなかった。


まだ期間はあると考えるのを後回しにして何もしなかったのがツケとなって返ってきてしまった。


 よくよく考えてみれば、雨で中止になる事が当たり前のように考えていたのが異常だったのだろうが、今更何を考えたところで後の祭りである。


....とはいえもとより目立たず、あまり動かなくて済む種目を選んで今回の体育祭を乗り越えるつもりだったので、そう考えると別に事前に決めておく必要もなかったような気もする。


中学の時もこのスタンスで乗り切って来たのだから今更焦る要素などなかった訳だ。


「それではこれから体育祭種目を決めていきたいと思います!」


 教壇の前にはお昼に予想していた通り担任の姿は無く清水さんが進行していた。


いくらなんでも清水さんに頼りすぎではなかろうか?うちの担任は....


 まぁ、クラス委員長っていつになっても先生の雑用が多いイメージではあるのだが、清水さんもよくもまぁ文句も言わずやっているなと思う。


相変わらず手際のいい清水さんによりどんどんと進行され、黒板にコツコツと心地よい音を鳴らしながら体育祭種目が並び書かれていく。


書かれている種目は中学の頃と比べても特に変わった種目はなく王道といった所だろう。


 そう考えると中学生の頃の体育祭は高校生を少し先取りしていたのかもしれない。


「柊ちゃんは体育祭何出るんだ?」


椅子の背もたれ部分に腕を置き、うしろを振り返ってきた廣幸が訊ねてきた。


「あんまり動かないやつ」


「え!?まじ?お前....」


 なにやら驚いた様子で言葉が続きそうだったが、その後の言葉が続くことは無かった。


....と思っていたが次に口を開くときには隣の朝比奈さんにも同じことを聞いていた。


「私は玉入れか、借り物競走がいいなと思っていますかね」


 朝比奈さんの回答を聞いてやはり先ほど自分が思っていたことはやはり間違いでは無かったらしい。


俺と考えが似ているらしく全く同じ種目を考えていたが、朝比奈さんみたいな人が玉入れをやればいい意味で注目の的となるだろうが、俺の場合だったたら悪い意味の方で注目の的となってしまうだろう。


そんな訳で、俺は借り物競走を選ぼうと思っている。


それに、中学の頃もやっているからある程度雰囲気というのも分かっているというのもあるが。


「朝比奈さんが玉入れしてるの想像しただけで可愛いから是非やりましょう!」


廣幸が言っている事は分からなくもないが、流石にニヤニヤした廣幸の顔がヤバかったので先ほど授業で使用した教科書を丸めて頭を叩いておいた。


「なにすんだよ!」


「犯罪者予備軍が目の前にいたから、それに朝比奈さんも困ってるし」


あははと朝比奈さんも困った笑いを浮かべていた。


「それで聞いてきたお前は何をやるんだ?」


 質問をしてきた廣幸に質問返しをすると謎に得意げな顔を浮かべ次の瞬間には最大風力で喋り始めた。


「俺はもちろんガッツリ走る系だな!100m走でもいいし、クラス対抗リレーでもいいしカッコよく走って女子からモテモテ作戦だぜ!」


....うん。聞いた俺が間違っていたのかもしれない。


理由があまりに不純すぎるし、高校生となった今リレー一つでそこまでモテるのだろうか....


 足が速くてモテるのは小学...いや、やめておこう。


こいつはこいつなりに本気なのだろう。


横を見ればさすがの朝比奈さんも流石に苦笑いを浮かべている。


そのあとも廣幸は止まらずマシンガントークが始まったので、適当に聞き流しておいた。


 種目決めは意外とスムーズに進んでおり、種目の希望者を挙手で募りどんどん決まっていった。


俺も無事に借り物競走の枠を取れて安堵していた。


廣幸も朝比奈さんも先ほど言っていた種目の枠を取れていたのでいい結果となっただろう。


 個人競技が決め終わったところで、種目決めも終盤に差し掛かった。


いくらスムーズに決まっているとはいえ、授業の後半からでは時間は足りず気づけば授業時間を通り越し放課後に入っていた。


担任は授業の時間が過ぎて清水さんに何かを告げ教室を出ていった。


体育祭種目が決まるまでは教室に居てほしいものだ。


 担任が居なくなった今、教室は雑談が増えにぎやかとなっていた。


この状況で先ほどみたいにスムーズに決めるのは難しいものがあるだろう。


残った種目は男女で分かれるもので、男子だったら綱引き、女子だったら応援合戦らしい。


それに加えてトリを飾るであろう男女混合クラス対抗リレーだ。


 俺はこれ以上種目に参加する予定は無い為決まるまでこの様子を眺めているしかやることがない。


騒がしくなった教室で帰りが遅くなることがほぼ確定している状況の中、少しでも早く帰れるよう願って俺は机に顔を伏せた。

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