第23話 お節介なクラス委員

 昼食を食べ終え、廣幸からもらった薬を服薬し雑談をしながら残りの時間を過ごしていた。


自分から話を振るのが苦手ではあるのだが、その点廣幸が毎回話題を振ってくれている為、お互い気まずい時間を過ごさないで済むのは非常にありがたい。


こういう一面は廣幸を見習いたいものだ。


「そう言えば柊知ってるか?」


「主語がなくて質問に答えられん」


 「すまんすまん、昼休み明けの授業俺らのクラス内容が先に進んでるから席替えするらしいぞ」


とってつけた様な理由だな...まぁ5月中旬にもなれば席替えくらいどこの学校もあるか。


「知らなかった。いつ言ってたんだ?」


「俺も詳しいことは知らないけどさっき委員長から聞いたんだよ。あの人適当な事は言わないから本当の事だと思うぜ」


 多少は寝ることもあるけれど、基本は真面目に授業を受けているつもりだ。


その上で俺が知らないとなれば、恐らく授業時間外のふとした時に言ったのではないだろうか。


「今の席でひっそりと生活してたのにな、窓側の1番後ろの席にならないかな」


「うわ、陰気臭い。柊、お前は華の男子高校生だぞもっとフレッシュになれ」


「生憎俺にフレッシュさは持ち合わせていないよ」


更に言うならば、捻くれていて自堕落でフレッシュ高校生とは真逆な存在である。


「朝比奈さんか岸宮さんが隣だったらいいなぁ...柊、お前も神に祈るの手伝ってくれ」


こいつ神をなんだと思ってるのだろうか....


そもそも”あの時”も助けてくれなかったんだ、神様などいるはずもない。


「俺の中では神様は存在しないからな、一緒には無理だ」


「じゃあ、せめてお前の隣が朝比奈さんか岸宮さんだったら俺と席を交換してくれ」


こいつの執着心がすごくて恐怖を感じている。


というかなんでそんなに岸宮さんに執着しているんだこいつは。


「前から思ってたんだが朝比奈さんはともかく、岸宮さんになんでそんな執着するんだ?」


 丁度よく件の人の話題になったので思っていたまま聞いてみる事にした。


以前廣幸が話題にしてた時はやっぱりやめとくみたいな態度をとっていたはずだ。


「顔がいいからに決まってるだろ。それに朝比奈さんに比べればライバルも少ないしな」


「清々しいほどに不純な理由だな。というか自分で性格キツいらしいみたいな事言ってたけどそれは良いのか?」


「前はちょっとな…て思ってたんだけどさ、SM系みたら美人に詰られるのも悪くねぇなって」


少し照れた様子で誰も興味のないカミングアウトをしてきた。


気持ち悪いから照れ臭そうにくねくねしないで欲しいし、何よりも昼の時間に話す内容じゃないだろう。


「んだよ!健全な男子高校生なら見るだろ!?そういうビデオ!」


俺が心底呆れたという様子なのを感じ取ったのか変態ひろゆきが立ち上がって大声で抗議してきた。


「でかい声出すなバカ」


幸い昼休み中のクラスの中は騒がしい為あまり注目を浴びずに済んだようだ。


「なんだ下ネタ無理なタイプかすまん」と一言詫びを入れて廣幸は座り直した。


詫びるくらいなら初めからやらないでほしい。


「話が脱線したけどとにかく頼むな!」


もし仮に隣の席になったとしてコイツに譲ると事件が起こり得ない気がした。


「要検討で」


....譲るのはやめておこう、そう心に誓った。


 午後の授業が始まる前に、諸々準備を済ませ教室に戻ってきた。


予鈴がなってから教室を出たので始業までに間に合うか不安だったが割と時間に余裕を持って帰ってこれたようだ。


教室にはすでにほとんどの人が席に着き、席から話せる範囲の人同士で会話をしながら次の授業の始まりを待っていた。


「一ノ瀬さん!もうすぐ本鈴がなりますよ早く席に着いてください!」


いきなり大きな声で自分の名前を呼ばれ、体がビクッと反応した。


振り返ると傍に教材を抱えた少女が立っていた。恐らくは頼まれて職員室まで取りに行っていたのだろう。


「あの、聞こえてます?もうすぐ本鈴...」


「あぁ、ごめん聞こえてるよわざわざありがとう」


学校で声をかけられることが少ない為、声をかけられた事に一瞬反応が遅れてしまった。


「まぁ、今日は移動教室ではないですから大目に見てあげます。基本的には予鈴の少し前には席についているようにしてくださいね」


「ありがとう、次は気をつけるよ清水さん」


「はい、そうしてください」


 俺に注意を促したのは、清水沙紀しみずさきこのクラスが始まってからクラス委員長をしている子だ。


ポニーテールに赤いリボンがトレードマークの可愛らしい小柄な少女で、その小動物のような見た目に反して正義感が強く勇敢であり、誰が相手だろうと物怖じせずに間違いを間違いだと指摘するその姿勢は委員長という肩書きがぴったりだろう。


望みが丘高校は進学校ではあるのだが、校風はかなり自由な方ではあり、校則だとか風紀だとかを意識して学校生活を送っている人はそこまで多くない。


そのため校則をきっちりと意識して守る彼女のような人はこの学校では珍しいタイプだ。


 クラスメイトと彼女はその正義感故に時折揉め事に発展しているのを見かけるがそれでもしっかりと自分の意見をはっきりと言う姿勢は尊敬できるし、彼女以外に委員長が勤まる人はいないだろうなと俺は思う。


何より彼女のおかげでこのクラスは自由の中にもきちんと規律が守られており、その環境に俺も助けられている。


まぁ、少しお節介がすぎるのではと見ていて思う事がたまにあるが....


 自分の席に戻り、席替えとは聞いているが念の為、教科書を机の上に出し窓の外を眺めていた。


外の景色は相変わらずで陰鬱とした灰色が空いっぱいに敷き詰められている。


俺としては席替えなんてしてくれなくていいからさっさと帰らせて欲しいところだ。


そんな事を考えながら先生が来るのを待っているとポケットに入っているスマートフォンが震えたので通知を確認した。


『委員長に注意されてやんの笑』と廣幸から一言メッセージが入っていた。


メッセージを確認した後、返信を送る前に教室にいる廣幸を見ると、ニヤついた廣幸がこちらを見ていて非常に楽しそうである。


是非ともあいつが昼の時間にしていた下世話な話を委員長に聞かせてやりたい。


まず間違いなく風紀を乱す輩として説教される事だろう。


『あとで覚えてろよ』とメッセージを送った。


『柊様がお怒りになさった』


『怒れる元気か出たって事は薬も効いてるみたいだな』


....。


 めんどくさい絡みだと思いきや、体の心配をしてくれたらしい。


こう言われてはこちらとしても非常に返信に困る。


こういう日常的なやり取りを挟みつつ気を使ってくれる廣幸は根っからのいい人なのだろう。


「俺には勿体なさすぎるよ...」


メッセージの画面をみつめながら俺は一人で呟いた。


『おかげさまでさっきよりは痛みが和らいで楽になってきた』


『そりゃあよかった、もう少し友達を頼れよな』


最後にスタンプで返信を送った所で丁度、先生が教室に入ってきた。


 俺みたいなやつが廣幸を友達って呼んでもいいのかな...廣幸に言ったら当たり前だろとか言いそうではあるのだが...。


呼んでもいいんだとしたら嬉しい半面、結局人って裏切るんだろうなと過去の記憶が俺を前に進ませてくれない。


「やっぱり俺って大分めんどくさい人間だな....」


教室中が席替えで盛り上がり騒がしくなっている中、俺は一人呟きながら孤独感にさいなまれた。

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