第22話 雨の日の憂鬱

 高校生活初めてのゴールデンウィークがあっという間に過ぎ去り、連休明けによくあるやる気などが全然湧きあがらない無気力状態で過ごす五月中旬。


教室の中はわかりやすく、どんよりとした雰囲気を漂わせる面々とキラキラとゴールデンウィークの思い出話に華を咲かせる面々とで綺麗に二分化していた。


 俺がどちらに属しているかなんてのは今更言うまでもないことだろう。


まぁ、休み明けで無くても俺は無気力な方ではあるが....


 今は花の高校生ではあるのだが、俺にはキラキラした青春など過ごせそうにない。


キラキラした青春を過ごすにはまずこの捻くれた性格を直さなければそこには一切辿り着かないだろう。


 あまりに悲しい現実に溜息一つ溢し、こんな事を授業中に考えてしまうのはきっと雨により気分が沈み、気圧による頭痛のせいで授業に集中出来ていない証拠である。


「はやく家に帰りたいな...」


小さく呟きながら俺は授業をそっちのけで窓から灰色の世界を眺めた。


 永遠のごとく感じられた午前最後の授業が終わり昼休みになった瞬間俺の席に早々と1人の男が駆け寄ってくる。


「柊ぅぅぅ....」


泣きつく素振りで早々に寄ってきた廣幸をさっと避けて席を立ち廊下へ向かう。


「おい、ちょっと待てや兄ちゃん」


「....なんだよ、チンピラ」


肩を掴まれてチンピラに絡まれてしまった。


「おい、無視とはいい度胸じゃねぇか」


「生憎俺の知り合いにチンピラは居ない」


「おい!....パン買いに行こうぜ」


「そこは喧嘩ふっかけるか、パン買いに行かせろよ」


結果俺はチンピラもどきに絡まれたあげく、まんまと廣幸の策にハマりツッコミを入れてしまった。


絡んできた廣幸はしてやったぞと言わんばかりに笑みを浮かべている。


 昼休みは毎度廣幸に捕まっては一緒に昼食をともにしている。


まぁ、そのおかげで俺はぼっち飯を回避しているのだが...


ただ、もう少し普通に声をかけて欲しいものだ。


これが良くも悪くも廣幸なのだが、こちらとしては毎度対応に困っている。


「はぁ....早く買いに行くぞ」


「しゃあ、行くぜ柊!こうそくいどうだ!」


「....。」


これ以上変に絡むとノリが長引いてパンが売り切れてしまいそうなので諦めて一緒に向かうことにした。


 結局いつも通り2人で購買でパンと飲み物を購入し、この時間帯は生徒が溢れかえるので早々に教室に戻った。


「柊ちゃん、昼飯はちゃんと食べないとただでさえ細いのにお母さん心配よ....」


教室に着いて俺の前の席に座った廣幸は俺の昼飯を見て知らない母親になっていた。


こいつの無駄にある引き出しはどこから来るのだろうか....


というかその無駄な容量を勉強に活かせ。


「今日あんまり腹減ってないからこれで平気だ」


「後で腹減っても知らないからな...とりあえずそれ食べたらこれ飲んでおけよ」


そう言って机に置かれたのは頭痛薬だった。


 確かに、今俺は頭痛の影響で体調不良ではあるがこいつにはその事を一言も話していないはずだ。


「なんで分かったんだ....?」


「なめんなよ…俺は探偵だぜ?いつもに比べて食べる量が少ない上に定期的にこめかみ押してるの見てたら頭痛いのかなってなるだろ。つかこの薬飲めるか?」


ありもしないメガネの位置を直すそぶりをしながら廣幸は推理を披露した。


お前はただの学生だし、学年でも頭は悪い方だろう。


朝比奈さんといいこいつも本当に人のことをよく見ているな....


それとも、俺が分かりやすいだけなのだろうか?


 気をつけよう。人に弱みを見せてはいけない、たとえそれがいつも一緒に過ごしている人でも。


「よくわかったな....ありがたく薬貰いたいんだが俺は何を渡せばいい?」


「は?なんもいらんが」


何もいらないときっぱり言われ、どうしていい物かと考える。


「あのなぁ....まぁいいや。なんもいらんから飲めるなら飲め。ただ友達が困ってて自分がどうにかできるならどうにかしたいだろ?そんだけの事だよ」


「....。」


「まぁ、それでも気にするなら朝比奈さんか岸宮さんの連絡先で」


なんもいらないと言われ考え混んでいた俺に対し、気を使ってくれたのだろう。


「俺みたいなやつが連絡先は無理だから今度何か奢るからそれでチャラにしてくれ」


「おう」


めんどくさい性格でごめん、ありがとう。


そう心の中で呟き、ありがたく廣幸の厚意を受け取った。

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