47話 酒場での話①

 リリアージュは使用人たちの態度に違和感を感じながらそれとなくトニーに確認したが、使用人たちの数は足りているようで特に問題はなさそうだった。伯爵家の女主人として過重労働を強いるつもりはない。


 エクウスが不在なため来客もなく、どちらかといえば普段よりも仕事は多くないはずなのだが。

 リリアージュはトニーに使用人たちの態度について具体的な指摘をせず、数日様子を見ることにした。だが、使用人たちの態度に変化はなかった。


 エクウスからあと数日で伯爵家に帰る旨の手紙がリリアージュ宛に届いた。リリアージュは彼の自室を整えるように侍女長のローザと執事長のトニーに伝えた。


 リリアージュは3日前から体調を崩していた。

 食欲がない上に冷えきった食事に辟易していたが、ジャンが内緒で差し入れてくれるカットした果物なら食べることができた。季節の変わり目で風邪をひいたのかもしれない。今朝は微熱があり目まいがする。

 リリアージュは明日エクウスが帰宅したらお医者様を呼んでもらうつもりでいた。


 明日帰宅予定のエクウスだったが、商談が順調に終わり、昼過ぎにはシエルバ伯爵邸の近くの街に到着していた。リリアージュにお菓子でも買って帰ろうと馬車を近くに停め街を歩いていた。

 すると見知った顔の男が声をかけてきた。先日シエルバ伯爵邸に招待した学園の旧友の1人だった。


「これはこれは、シエルバ伯爵様。この間はお屋敷に招待していただきありがとうございました。お急ぎでなければ少しお話しませんか?」

 男は右手でお酒を嗜む仕草をしながらエクウスに声をかけた。既に男からはアルコールの匂いが漂っていた。


 エクウスは仕事が一段落したこともあり男の誘いに乗ることにした。

「ああ、少しなら付き合おう。それで、この時間から酒を出す店を知っているのか?」

「ええ、ご案内いたします」

 男は酒の匂いがするものの足取りはしっかりしていた。

 エクウスは護衛を呼び御者に馬車を移動させ夕方まで待機するように命じた。


 男が案内したのは大通りから1つ路地を入った所にある、狭くてカウンターがメインの洒落た内装の上品な店だった。


「なかなかいい店じゃないか」

 エクウスは思わず呟いた。

「ええ、そうでしょ」

 男は自慢げに頷いた。


 男は常連らしく手早く二人分のつまみとウイスキーを注文していた。

 エクウスは出されたウイスキーを一口のみ香りの良さに思わず納得して頷いた。

「なかなかいけるでしょ?」

 と、男は得意気に囁いた。


「つまみもいけるんですよ」

 男はジャーキーを口にして大きく頷いた。

 エクウスはジャーキーとナッツに舌鼓を打った。セットのつまみもとても気に入り酒がすすんだ。

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