13話 披露宴③

 時間はあっという間に過ぎ、お昼頃に始まった披露宴は盛り上がったまま夜になっていた。

 食事も好評で、伯爵領の食材を豊富に使い、ピンチョスやタパスが中心で、手に取りやすく小分けで丁寧に盛り付けられていたので、歓談をしながらでも、手軽に食事が楽しめることが出来るように工夫してあった。


 飲み物も給仕係の使用人たちが気を配り、果実水やワイン、シャンパンやウイスキー等途切れることがないようにホールを見回っていた。

 美食家の招待客には、別室にいかなくてもいいように、テーブルを生花でパーテーション代わりにして囲い、本格的なコース料理を楽しんでもらっている。

 会場の隅にパーテーションで仕切ったり、別室にいると披露宴の様子がわかりづらいので、生花を活けた花瓶や観葉植物の鉢植え等を上手く使いコース料理を楽しむ場所を確保していた。


 披露宴に向けて使用人たちの担当を細かく設定することにより、彼等は混乱することもなくスムーズに仕事をこなせていた。

 ホール係の中でも、コース料理の給仕、酒類係、果実水や水の係、料理の補充係、空いたお皿やグラス等を片付ける係等に分かれ、ホール担当の責任者を3人にして、全体を確認し指示を出していた。


 使用人たちは給仕の仕事にやりがいを感じていた。

 各々が思いついたことをやっていると、仕事が偏り必ず現場は混乱してしまう。

 酒類担当の使用人は招待客の好みを把握し細やかな接待が出来ていた。

「君、気が利くじゃないか。私の好みを覚えていてくれるなんて、嬉しいね」

 と、招待客の一人が使用人を褒めると、

「そうなのよ。果実水も新しい物に取りかえてくれて冷たいままだし、とても美味しいのよ」

 お酒の飲めないご婦人たちにも好評だった。


 料理の補充係は招待客の好みに合ったものを勧めていた。料理の一つ一つの説明が完璧であったために、アレルギーの対応や好き嫌いなどの提案が出来た。

「奥様、こちらのお料理は少し辛みが強いようですので、あちらのお料理をお持ちいたします」

「あなた、気が利くわね。そうなの、わたくし辛いものが苦手なのよ。どうしてわかったのかしら?」


「失礼をお許し下さい。先ほどお取りいただいたお料理を1口お召し上がりになった後、残りをそっと旦那さまにお渡ししていたので、辛いものが苦手ではないかと考えました。間違っていなくてよかったです」

「ありがとう。他の料理もあなたが選んでくださるかしら。そうね、わたくしの好みをあなたに教えるわ」

「光栄でございます」


 披露宴会場は夜半前になっても、穏やかで和やかな雰囲気が続いていた。

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