12話 披露宴②

「まあ、素敵なお母様ですね。後ほどご挨拶させていただきますね」

「はい。よろしくお願いします」

 母を褒めてもらったリリアージュは満面の笑みを浮かべていた。


「君の思った通りにしてよかったね。リリアージュ綺麗だよ」

「ありがとうございます」

 エクウスの褒め言葉にリリアージュは真っ赤な顔でうなずきながら言った。

 回りにいた者たちは微笑ましい夫婦を見て、暖かい気持ちになっていた。


 招待客に一通り挨拶を終えると絶妙なタイミングで楽団はワルツを奏で始めた。


 新郎新婦がホールの中央に躍り出る。

 エクウスはリリアージュの前で跪いた。

「ファーストダンスのお相手をお願いします」

 エクウスがリリアージュの手を取ると、回りから歓声と拍手が聞こえた。

 リリアージュは、

「喜んでお受けします」

 と満面の笑みで答えた。


 リリアージュは16才のデビュタントに向けてワルツの練習をし、当日1曲だけ父と踊ったが、あまり良い思い出ではなく、それっきり誰とも踊る事はなかった。

 伯爵家に滞在した翌日からダンスの先生に指導してもらい、結婚式のために猛特訓をしていた。


 エクウスのダンスのリードはとても上手かった。

 リリアージュは緊張して曲の最初で躓き転びそうになったが、エクウスが上手に支え優しくリードしてくれたお陰で転ばずに済んだ。

 曲の中盤からは緊張も和らぎ、ダンスを楽しむ余裕が出てきた。

 リリアージュはダンスが楽しいと思ったのは初めてだった。努力の甲斐があって嬉しかった。


 1曲目が終わり2曲目は前曲より軽快な流行りのワルツだった。

 この国のマナーとして公の場で2曲続けて踊るのは、夫婦か婚約者に限られている。

 エクウスは当然のように2曲目のワルツも手を差し伸べてリリアージュを誘っていた。

 リリアージュは照れながら真っ直ぐにエクウスの目を見つめ、会釈して手を取った。


 2曲目は最初からダンスを楽しむことができた。

 気持ちに余裕ができたリリアージュは、夫の容姿に見惚れ、急に照れてしまい、今度は心に余裕がなくなってきた。意識するとだんだんと真っ赤な顔になっていくリリアージュにエクウスは、

「大丈夫?」

 と心配そうに彼女の瞳を覗き込んだ。

 リリアージュは「はい」と小さな声で答えていた。


「ダンスがこんなに楽しいと思ったのは初めてです」

 リリアージュは照れ隠しに呟いた。

「私も同じだよ」

 エクウスはリリアージュの欲しかった言葉をくれた。


 エクウスの本心だったのかも知れないが、たとえ嘘であれ、ただのお世辞であったとしても、リリアージュが望んだ言葉をくれた彼を、心の底からの信じることにした。

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