27話 リリアージュの庭
「まだあるんだ」
エクウスはそう言うと、庭に面したテラスを通り部屋の扉を開けた。
「ここは、リリアージュの部屋だ。好きに使うといい」
「えっ、ええっ?····まあ、なんて素敵なのかしら···本棚に机。ああ、ソファーにベットまで···はあ~」
リリアージュは腰が抜けたように、部屋にあったソファーに座り込んでしまった。予想外の事に頭がついていかないようだった。
リリアージュはしばらく両手で顔を覆っていた。
「リリアージュ、大丈夫かな?」
エクウスが堪らず声をかけた。
「はい···。とても驚いたので、少し疲れてしまいました。エクウス様、本当にありがとうございます。どんな言葉を使ったら伝わるのでしょうか?嬉し過ぎて言葉になりません」
「充分伝わっているよ。リリアージュが喜んでくれて嬉しいよ」
「こんな素敵なお部屋まで用意してもらえて、わたくしとても幸せです」
エクウスはリリアージュの隣に座り、優しく頭を撫でていた。
リリアージュは日中の殆どを庭に面した部屋で過ごすようになった。
動植物の図鑑や専門書など、エクウスはリリアージュの希望の物を揃えてくれる。
リリアージュは自らも庭の手入れをし、幸せを感じながら日々を過ごしていた。
結婚してから3ヶ月を過ぎた頃、庭に一匹の猫がふらふらと迷い込んで来た。成猫にしては小さく痩せ細り元気がない様子だった。
リリアージュは猫を驚かせないように、ゆっくり近づき抱き上げた。猫は酷く汚れていた。
怪我がないか確認のためにもまず、身体を洗うことにした。ゆっくり丁寧に身体を洗い、怪我の有無を探っていた。怪我がなくてよかった。
最初は抵抗していた猫も、体力が落ちていたのか、お湯が気持ちいいのか大人しくなった。
身体の汚れを落とした後、優しくタオルにくるんだ。猫に食べさせるため、薄い塩味を効かせた魚の骨から取ったスープを持ってくるようにメイドに頼んだ。
猫の口元にスープを近づけると食べてくれた。食べられる元気があってひと安心だった。
「あなた綺麗な瞳をしているわね。緑に茶色が混じっているのかしら?毛の色も薄茶色なのに、光を浴びると金色に見えるし···あなた本当に綺麗だわ」
猫はリリアージュの言葉に首を傾げていた。
「あなたがここにいられるように、エクウス様にお願いしてみるわね。帰る所があるのなら無理にとは言わないわ。元気になるまではここにいて頂戴ね」
『にゃー』
「まあ」
リリアージュは返事をしたように鳴いた猫に頬擦りをした。
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