28話 野良猫との出会い

 リリアージュは、野良猫が元気を取り戻すまで保護する事を決めていた。気ままな猫の事だ、元気になれば知らぬ間にどこかに帰って行くだろうと思っていた。


 猫に名前はつけた方がいいのだろうか?と考えたが少し様子をみようと思っていた。必要以上に情が移ると別れが辛くなる。


 猫はとてもリリアージュに懐いていた。

 リリアージュにいつも寄り添い離れようとしない。

 エクウスとの約束で、猫には邸の2階以上は上がらないように躾ていた。彼は物分かりが良く、2階には上がろうとしなかった。


 猫は元気になったが、ずっとリリアージュと一緒にいる。日中は一階の彼女の部屋と庭を行き来して過ごしている。

 リリアージュは野良猫にアビーと名付けた。

 猫がやって来た日はちょうど庭で、アイビーという植物を植えていた所だった。

 猫も名前が気に入ったのか『にゃーん』と返事をしてくれた。


 エクウスが仕事で家を空ける時は、リリアージュとアビーは一階の彼女の部屋で一緒に寝ていた。


 使用人たちもアビーをとても可愛がった。

 猫好きの料理長はアビーに美味しいものを貢いでいる。

 執事やメイドも休憩時間にアビーの様子を見に来ていた。

 しかしアビーは何故かエクウスだけには懐かなかった。


 楽しい日々はあっという間に過ぎ、アビーと出会ってから半年が過ぎようとしていた。


 今年の冬は風か強く寒い日が長く続いていた。

 王国全域で、悪質な風邪が流行し始めた。

 シエルバ伯爵領内でも、悪質な風邪は猛威を振るっていた。それはシエルバ伯爵邸も例外ではなかった。


 使用人の中には重篤な容態になる者や死者も出た。

 家族が風邪にかかり、家の事情で退職をする使用人もいた。

 幸いエクウスとリリアージュは風邪にはかからなかったが、信用していた使用人の半数は退職を余儀なくされ、シエルバ伯爵家の使用人は半数以上入れ替わってしまった。


 エクウスも仕事が上手くいっていないようで、時にはリリアージュに強くあたることもあった。

 リリアージュは不平不満を一切言わず、黙ってエクウスの叱責に耐えていた。


 夜になるとエクウスはお酒の量が増えてしまいつい、リリアージュに手を挙げてしまった。

 エクウスは自分の行いを後悔し、翌日リリアージュに頭を下げて謝った。


「リリアージュ。少し酔っていたとはいえ、君に暴力を振るってしまい申し訳なかった。深く反省している。どうか私を許してくれないか?」

「わかりました。エクウス様はきっとお疲れなのです。わたくしの事はどうぞお気になさらないで下さい」

 リリアージュはまだ腫れている頬を手で隠しながら微笑んで、エクウスの謝罪を受け入れた。

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